BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 瓦解するアリスブルー 【BL】 ( No.22 )
- 日時: 2013/03/31 23:12
- 名前: り@ (ID: YohzdPX5)
- プロフ: (S/J)[SHERLOCK]
「退屈だ」
いつの間にか、同居人のその言葉に背中が自然と跳ねるようになっていた。
晴天。
空は青く風もさわやか。
この土地にしては珍しく雨の気配はなく、乾燥も、花粉も、黄砂もない。
極めて素敵な土曜の午後なのだが———。
その平和が、彼を蝕んでいた。
「退屈だ、ジョン」
「……そうだな、平和だな」
「退屈なんだよ! ジョン!!!」
コーヒーを片手にシャーロックの埋もれたソファの隣に座ると、それは突然にばっと起きあがり怒鳴られた。なんで。
「なぜ、どうしてこんなに平和なんだ。犯罪者どもは一体何をやっている? 僕の、頭脳を腐らせろと?!」
「……ま、そういう時もあるさ」
「ならジョン、君が事件を起こしてくれ」
「……きっとすぐに飽きるさ」
シャーロックの突飛な提案にどうにも返答スピードが遅れていけない、と思いながら答えた。
しかし残念なことに、ジョンは所謂普通の人間なのである。
———いや、いろいろな意味で普通の人間なんかではないのだが、
自称かつ他称、高機能社会不適合者であるシャーロックに比べたら普通以外のなにものでもないので、まぁ普通とする。
だから平和にぼんやりしたりもするのだ。
しかしこの時ばかりは、シャーロックの返答の方が遅かった。
「…………まぁ、ジョンに期待はしない」
お前が言ったんだろ!!!
と怒鳴りたくもなるが、これくらいはましな方だと思ってしまう自分に笑った。
この手の扱いには慣れているし、かまってほしいだけなのだ。
そう考えれば子供のようで案外かわいいものである。
「ジョン、なにを考えている?」
「えっ、」
まるで見透かされたみたいでどきっとした。
「別にたいした考え事はしていないよ」
苦笑しながら返せば、
「まぁ、ジョンに期待はしていないけれど」
そうでしょうね。
「なにか面白い話題はないのか」
そうしてまた、猫のような同居人は退屈だという。
「ないよ、僕に期待なんてしないでくれ」
「どうして? 目当ての女性とは話すだろう?」
「そんなことはない」
というよりジョンに女性の面白い話題は提供できても、シャーロックの面白い話題など提供できるはずがない。
不可解な事件が不可解であればある程“面白い”という彼に、どう“面白い”話を提供できるだろう。
それに、アンドラーシュとも別れたし。
理由はジョンの会話がつまらないからではなかったけれど。
「僕なんて全然だよ」
「このまえのブルネットの女の子とも破局したみたいだしな」
「!」
「なんで、って?」
「……聞こうか」
あまり聞きたくない話題ではあったが、知りたくないわけではなかった。
それに彼の退屈がまぎれるなら仕方がない。
するとそれは、嬉々として体を起こした。
「まずどこから聞きたい? 直接的な原因? それとも彼女の心理からでいこうか?」
「最初からでお願いします」
「じゃあ状況整理から」
「うん」
「まず別れを切り出したのは彼女だ」
「なぜ」
「君がむざむざ女を捨てることはない」
「……人をなんだと思ってるんだ」
「冗談だ。でも色気のある人だったのだろう」
「……可愛い、だ」
「君の趣味の女性が“可愛い”に属するはずがない」
「…………次」
「その彼女、よく笑う女性だっただろう?」
「ああ」
「二か月前から一昨日まで、君はいつもよりよく笑っていた」
「へぇ、そんな自覚はなかった」
「笑っていたのは自分を隠していたからだ」
「え」
「そして君の好みは清楚で自己主張の激しくない人」
「ということは」
「ずいぶんと嫉妬深い女だったようだな」
「…………、」
「だから——————」
「あ」
そこでやっと、大事なことに気がつく。
その先には、先には。
「うぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「どうした? 急に叫んで」
「え、っと!! あー……、なんでもない」
だけどその先を言われるのは困った。
かれのことだからもうわかってはいるのだろうが、それを口に出されるのと出されないのでは、ジョンの心持ちが違った。
「それ以上は言うな」
「なにをいまさら恥ずかしがる事があるんだ」
うん、別にうまくいかなかったことが恥ずかしいというわけではなくてね?
もごもごとコーヒーの水面を見つめる。
理由が恥ずかしいのだ、などと言えない。
しかしシャーロックは当然のようにそう思っているのだ。
面白い顔。
きっと頭の中はお花畑でできている。
「最初からジョンにそんな期待は」
「うるっさいな!」
だから最後まで言わせろ、と言う瞳に耐えきれず、コーヒーから目線をはずすとにやり笑われた。
…………図ったな。
「ジョンは、『同居人と、恋人の私と、どっちが大切なの?』と言って別れられたことが、そんなに恥ずかしい、と」