BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 瓦解するアリスブルー 【BL】 ( No.34 )
- 日時: 2013/04/14 19:54
- 名前: り@ ◆N4FULXO5wE (ID: sNU/fhM0)
- プロフ: 「カーニヴァル」[朔平朔]
「桜の樹の下には屍体が埋まってるとか」
場所は検案塔。
燭の研究室。
いわば要塞。
とはいえ、部屋の主に既に意識は無く、気晴らしに部屋をふらりと
していた平門が、見つけたのがその本だった。
ここに、満ちているグラスはふたつで酒瓶がひとつ。
空のグラスと愛らしい人の寝顔もひとつずつ。
彼の色彩を写したように美しい樹木が、窓越しに精霊のようにたたずんでいた。
桜。
珍しいとは言えないその樹木も、ここまで満開に咲いていると嘆息もしたくなるもので、それはまるで現ではないような雰囲気を作り出す一因だった。
平門が取り出した冊子は、このいかめしい部屋にはいささか不釣り合いで、それでいてこの雰囲気には似合いすぎていた。
「ま、怖いくらいに綺麗っちゃ、綺麗だけどな」
飛行艇住みの自分たちにはそうそう見られるものではないから、とそれを口実に、燭先生の要塞を飲みに使わさせていただいているのだった。
最初は迷惑がられたものの、アルコールが入ってしまえばこっちのものだ。お忙しい燭先生を、たまにはと気を抜かせてやる。
平門は、燭ちゃんの髪の色もピンクで綺麗、と幸せそうに笑う朔を、見るとはなしに眺めていた。
すると朔が急に顔をあげた。
「それ知ってる。梶井基次郎だろ」
「、ああ、そうだな」
「昔読んだことある」
はい、と手渡せば、朔は嬉しそうにページをめくった。
「…………ああ、懐かしい。『桜の樹の下』ね。
…………『おまえ、この爛漫と咲き乱れている桜の樹の下へ一つ一つ屍体が埋まっていると想像してみるがいい』」
芝居がけて、朔は突然に一節を読み上げた。
グラス越しに、朔が視線を送ってきたのを平門は感じる。
口の端が、上がっていた。
見慣れた筈のそれに、知らず平門もにやけた。
燭先生ほどじゃないが、お互い酒も回ってきているようだった。
「…………『馬のような屍体、犬猫のような屍体、そして人間のような屍体。屍体はみな腐爛して蛆が湧き、堪らなく臭い。それでいて水晶のような液をたらたらとたらしている。』」
「『貪婪な蛸のようにそれを抱きかかえ、いそぎんちゃくの食糸のような毛根をあつめて、その液体を吸っている』」
「『何があんな花弁を作り、何があんな蕊を作っているのか———』」
ひとしきり朗読に興じて、疲れた、と朔が笑うと、俺もだ、と返った。
今夜は酷く、桜が綺麗だ。
褒められたことでないことは、知っていたけれど。
幻想的なこの空間と、
お気に入りのアルコールと。
素直に言えば、愛している、彼と。
とりとめもない話、せずにはいられなかった。
- Re: 瓦解するアリスブルー 【BL】 ( No.35 )
- 日時: 2013/04/28 18:55
- 名前: り@ ◆N4FULXO5wE (ID: Qx27qPYR)
- プロフ: 「カーニヴァル」[朔平朔]
「でも本当、桜、綺麗だな」
「あ、夏目漱石?」
「自惚れるな。
それにそれは月が綺麗ですね、だろう」
「いいじゃないの。
俺、死んでもいーよ」
「……ああ、死なれてやるよ」
ひんやりとした風が頬を撫でる。
平門はそれに髪までふかれながら、窓の桟越しにじとり、と彼を見た。
風は火照った熱を奪っていく。
ぼんやりしていると朔に怪訝そうな表情を返された。
「どうした、平門。酔った? 気持ち悪い?」
「別に、」
とはいえ、ぐらりと眩暈がするのを平門は面白がった。
朔の声もちゃんと反響はするのに、脳に上手く届かない。
アルコールの力は偉大で、口調こそ平静を保っていたが、脳の活動が鈍っている、と自覚があった。
鈍った思考で自重できる特性は欠如していて、過度に回った酒が思考まで引っ掻き回している。
ツキタチ、と彼の名前を呼んだ。
「お前と酒を飲むのは嫌いじゃない」
その言葉に、きょとん、とした朔にしたり顏で笑ってやる。
昔から、平門が酩酊するまで飲むのは彼の前だけだった。
それは、信頼なのか、無関心なのか、友情なのか、愛情なのか。
「俺、」
「もう死にたい」
分かりはしなかったけれど。
- Re: 瓦解するアリスブルー 【BL】 ( No.36 )
- 日時: 2013/04/28 18:56
- 名前: り@ ◆N4FULXO5wE (ID: Qx27qPYR)
「、また言ってる」
朔が驚かないのは案外で、平門は拍子抜けしたような気がした。
聞こえているはずなのに、朔はただ酌を交わす。
平門はそれが少し残念にも思えて、
それでいて、もしかしたら安心もしたのかもしれない。
言えば麻痺したような会話が心地よくて。
平門は朔が冗談だと思っているか、本気にしているかは分からなかった。
朔も平門が冗談なのか、本気なのかは分からずにいた。
だけどまるでなんでもないことのように、椀を重ねる。
なんとなく、平門には、朔が冗談と捉えていないことに気づいた。
平門が前に言ったことがあったか、と問うに、朔はまぁな、とぼんやりと返した。
「だけど、俺のために死んではくれないの?」
「俺もそうしたいのはやまやまだが、機会がないだろう」
「ま、今のところはね……」
「それにーーー」
ず、と平門の座る椅子が鳴る。
椅子ごと近づいて耳打って、髪を交えてそれがまた別れる。
朔は仕方ないさ、って笑い、立ちあがって手を広げた。
紫の虹彩に、映るオレンジの色がぐるり。
普段なら場所をわきまえろ、と一蹴するところ。
平門は逡巡ののち、今日くらいは、と素直に身を預けたい気分に任せてしまった。
//
キャラ崩壊というか酔ってる。
平門さんが朔さんに甘やかされちゃうのがいいです。