BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re:    瓦解するアリスブルー 【BL】 ( No.7 )
日時: 2013/03/30 02:08
名前: り@ ◆N4FULXO5wE (ID: YohzdPX5)

(佐野×ゆーき)




「で、ここ切れた」
「あー、血ぃ出てる」

気怠そうにのばされた指が俺の唇を拭う。

ぐいぐいと遠慮のない手つきに
「触んな、痛い」
そんな文句を言うと、
「ガサガサすぎて指も痛いよ」
彼は薄く血の付いた指を擦る。


このくそう、減らず口め。

……その言葉に。
内心ちょっとだけ唖然としたのを隠したのは秘密だ。

まぁ、男がそんなこと気にすんなって言われるかもしれない。

血だとか、唾液だとか、
大した量でもないわけで、
ましてや男同士なわけで、
さらに言うなら、俺らはいわゆる付き合いたてのカップルというやつで。

それに恋人としてこいつと付き合っていくためには、
こういうのは、

気にしたら負け、

なんだ。

「……なんでお前はそんなに柔らかそうな唇してるわけ、」

ここ数ヶ月で分かったこと。
目の前にいる彼は、心の神経回路がぶっちぎれてる。


俺がてきとうに取り繕ったその言葉に、愛しい人は、ふわふわと楽しそうに笑う。
そう?
佐野に言われるの、嬉しい。
なんて言っておいて、俺が伸ばした手はゆるゆるとした仕草で避ける。
でも触っちゃ、だめ。
らしい。

なんなの。
俺すごい勇気出したんだけど!!

お前はあまりに簡単にそういうことをやってのけるから、
お前の真似、してみたんじゃないか。

そんな俺を知ってか知らずか、彼は、んー、と考えるようにすると、

「……あ、でもいまなら、ちゅー、無料で売ってます」

人差し指を唇に。
とろけそうに甘い瞳で、いたずらっ子みたいに、にこり笑う。



あー、もう、可愛いなぁ。
(俺の)ゆーきは。

その笑顔に、胸がほんわかと、心臓がきゅっとして、しばしその余韻に浸る。
だけど、遅れてその意味を理解した。



なんだこれ。

つい、少女漫画さながらの状況に笑いそうになる。

会話の立場的に、俺が女役ってことにこれまた笑っちゃうけど。

ドクン、ドクン

そんなちんけな書き文字が天井や俺の服に書かれる。

背景の部屋とか、いつのまにか真っ白だし。手抜きかよ。

今きっと、俺の髪もゆーきの髪もトーン貼りで、周りはカケアミ、柄トーンのオンパレードに違いないんだ。

詰めていた息が少しだけ漏れた。

従妹の漫画を流し読みした時にはわかんなかった。
これが、ドキドキしすぎて苦しいっていう、あれなんだ。きっと。

ぎゅ、と知らず唇を噛む。
流血していた傷口が少し抉られたことなんて、些事にさえあたらなかった。

お、

聞こえないくらい小さく、恥じらいの音が混じる。

「おー、じゃあ買いますw」


決意の末に、肩に手を置く。

するとゆーきは瞼を閉じた。


どくん、

その柔らかそうな唇を俺の唇が塞ぐのだ、そう思うと全身がぴり、と震えた。
心臓だっていっそ止まってしまいそうに粟立つ。

初対面同士が一話目でキスするいまどきの少女漫画より、絶対に純粋だ。
罰ゲームと称して手を繋いだり抱き合ったりするいまどきの少女漫画より、絶対に純情だ。

まぁ、登場人物は、二十歳手前の男二人であるのだけれど。

でもやっぱり、いろいろいっぱいいっぱいすぎて、涙が出そう。



彼の息づかい。

その温かさ。

それから、どうしようもない愛しさ。






そうか。
大好きだった彼を、これからは堂々と好きでいていいんだ。
実感するとともに、嬉しさがこみあげた。

その白い肌に指を触れる。

Re:    瓦解するアリスブルー 【BL】 ( No.8 )
日時: 2013/03/30 02:28
名前: り@ ◆N4FULXO5wE (ID: YohzdPX5)

不意に。

ぱちくり、目が瞬かれた。

「……え、っ、」

ゆーきの、その唇から、零れ落ちるのは、溶けた吐息じゃなくて、単純に、驚きの嘆息だった。

それに驚く。
動きを止める。

ゆーきの目がこちらを見ていた。

但し書き。
こういう甘い状況でのありがち、溶けそうに、酔った眼差しじゃない。

それにまた驚く。
動きが止まる。

こちらを見るのは、信じられない、そういうように見開かれた瞳だ。

「……ゆーき?」

「……、え、なにしてんの……?」
「は??」

肩を押し返されて、俺まで、信じられない、そんな声しかでない。

さあっと、背筋に冷たさが走る。
心臓が、違う意味で脈打ち始める。

これは、拒絶だろうか?
俺は、なにかいけなかっただろうか?

ヒゲ?
口臭?
唇のカサカサ?
……は、それを前提にゆーきは、今なら、と言ったはずだ。

そう。

半ば叫ぶ。

「キスするんだろ?!」

思い切ったその言葉は、静かな空間にやけに響いた。あー、恥ずかしい。

そしてより一層ゆーきの目が驚きに見開かれるとーーーゆーきは慌てたように下を向いた。
少しだけ長めの前髪が顔を隠して表情が知れない。

「え、ゆーきさんー??シカト?」
「じゃ、ないけど……っ、」
「……こっち、向いてほしーな」

自分だけ、しゅーちぷれいは堪らない。そうゆーきに意地悪を言うと、彼はおずおずとこちらを向いた。

ぱち、目があって逸らされる。
しばしただ彼を見つめる。
それでまた合う。
うゆうゆと柔らか、それでいて泣きそうにぐるぐるした空気の向こう、

彼の頬は、一瞬で真っ赤に染まっていた。

「……っ、本気?!」

「はぁ?!」

真っ赤な頬をして慌てるゆーきに、逆にこっちが口をぽかんと開けた。


約二十年も生きてきてーー拒まれているのではない、ということはいい加減分かった。
だけど、なにこれ、この状況。
まさか、ゆーきの恥ずかしがる姿がみれるだなんて!

彼のこと、全部知ってるだなんて思いはなかった。
だけど、こんな。
こんな可愛い、だなんて言ったら怒られるかな。

こんな、素敵な恋人を見られるだなんて。


自分より慌てている人を見つけて、心臓が、だんだんとゆるやかに脈打ち始める。

「だめ、なの? 俺ら、恋人だろ?」

つい、そんなこっぱずかしい言葉が口をついて出た。

「……あ、心の準備が、」
「馬鹿じゃない、準備してから言えよ」


「つーか、今の状況で、唇気持ち良さそうって、あー、思いかえしても恥ずかしいけど、……////.分かれよ、」

ぐちゃぐちゃになった語尾を塗り替えるように、俺は叫んだ。

「キスしたかったの!!」




ああもう、絶対いま、ゆーきと同じくらい顔赤い。

それで、ふと気づいた。

「あ、でも俺、唇がさがさじゃん!」

そういう話、してたのに。
やべぇ、慌てると、愛しい人はくすくすと笑った。

「そっちのが、馬鹿じゃない?」

あっという間に、二人の距離は5センチ。

「俺がそんなの気にしそうにみえる?」



(やっぱりゆーきには敵わない)





「てか、佐野、心臓ばくばくゆってるけど(笑」


言うな。馬鹿。死ね。

とっさに使えるスリーフレーズが頭に思い浮かんだけど、今、口を開いたら柄にもなく、愛してる、だとか口走りそうで、俺はぎゅっと彼を抱きしめるだけにしておいた。