BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re:    シュレーディンガーの猫 ( No.95 )
日時: 2014/01/11 19:14
名前: りー ◆N4FULXO5wE (ID: 8.g3rq.8)


「俺がもし女だったら、お前のこと彼氏にしたのにーって、」


モンブラン。
マロンをふんだんに使ったクリームをカステラの上に絞り、その上に栗をひとかけのせた菓子。名前の由来は、アルプス山脈のMont Blanc(もしくは Monte Bianco)。
甘ったるそうな見た目をしている割に、案外甘くないモンブランは、榎本先生の家のシックなローテーブルで食べるのがふさわしいと思う。

口を開いた小鳥に、真琴はそのやまぶきいろのクリームをスプーンで給餌する。
くちばしの代わりの赤い唇にその色は、よく映える。

「って言われたんですけど、どーゆー意味なんでしょうね。いろいろと」
「………んー、どうでもいいけど、それ誰ですか。締めてくる」
「あ、クリームついちゃった」
「へ」

どこ、と口の端をこする恋人の、もう片方に指をのばす。
指の先にくっついたクリームを、唇のまんなかにつけてやる。
そのクリームをなめとる舌が、なんかえろい。
………狙ったけど。

やさしくそれに触れる。
クリームで艶やかに飾られたその唇をなぞる。真琴としてはとても楽しかったのだけれど、不満そうな榎本先生にふいとそっぽを向かれてしまった。

「まこの指はいいから、モンブラン」
「へい」
「モンブラン甘くないし、ひとつじゃ足りない」

そういって口をあける。
すっかり小鳥は真琴になついてしまったようで。

(……えづけ)

ひとつめのモンブランを食べ終えて、もうひとつを開ける。
案外、甘いものが好きなのは榎本先生のほうで(本人は隠してるらしいけど)、真琴はひとくち食べれれば充分だ。

「口あけてー」
「あー」
「おいしい?」
「ん、」
「ふふー」
「…………どういう意味って、一体なにが?」
「んん?」

はいあーん、と栗の実を口元にもっていってやりながら、ひとりごとみたいに呟く。

「あー……、、女の子じゃなきゃ、だめだったかなぁ、なんて?」

これを言ったのはただの友達で、お互い冗談でしかないことは分かりきっている。
死ねばいいのにだの、今度お茶しましょうだの、それらと並列の、くだらない冗談。
けれどそれでも、そこにある常識とか前提なんかが鈍い色でじわりと滲んだ。

もしお前が女だったら、俺はお前を愛せないけど。
なんて言えないし?



「真琴」

ふいに名前を呼ばれて、じい、と彼の長いまつげ越しに凝視された。
なぁに、と彼を見つめると、スプーンの上の栗ののっかったまま、彼にその手を取られた。

「、」

突然の接触にどきりとする。
つい視線が彼の目から逃げて、それはまるで中学生みたいだから、目をそらしただなんて思われたくなくて、でもいま彼を見たらばっちり目があってしまいそうで怖い。

「まこちゃんさ、なんか不安になってます?」
「え」
「泣きそうな顔、してる」

そんなことないですよ、と言おうとして、そうかも、って思った。
友達に、いうなれば世間に、自分と彼のことを否定された気がして不安になった?
落ちそうなマロンから視線をあげると、にこーって笑った彼が、ひょいと机を跨いで、こっちのソファに渡ってくる。
ねぇ、まこ、と甘い声。

「キスしたい」

真琴がうろたえると、返事も返さないうちに、がしりと掴まれて唇を押し当てられた。
え、うそ。あれ、こんな展開だったっけ?
かちゃん、というスプーンの音と、落っこちてしまったたったひとつの栗のかけら。
あ、怒られるかな、とか思ったけど、先生は気にしていないみたいだった。
適当に唇を押し付けたせいで、少しずれた唇の位置を、二度目のキスでぴったりにする。

「ちょ、雑い、」
「……笑止」
「意味分かってる?」
「さっぱり!」
「片腹痛いです、」

どーゆーいみ、と問う彼に、食べたあとすぐ動いたから脇腹痛いって意味ですって返すと、今ので?って笑われた。そんなわけないだろ。てか真琴はモンブラン食べてないし。

「ばか、」
「真琴の化学ほど国語悪くなかったですもん……」
「ばかな子ほど可愛い?」
「ばーか、」

淡い紫色みたいなくすくす笑い。


ひたり、

と唇が接触する。
柔らかい感触に、真琴は一瞬驚く。なにか変なものの気配がいつのまにかそこにあった。

口の中に残った甘さごとの、さっきとは違う、的確で、ちゃんとした、もっと、ずっと、官能的なキス。徐々に近づいてくる感覚。はじめてのレモンの味なんかじゃなくて、熟れた桃のように、とろり、と零れおちそうな、

(ーーーああ、食べられそうだ)


「せん、せ、」

真琴は、その合間に彼の名前を口にした。
食べられてしまわないように。

「駄目で」

「しょ、」

こんなことしちゃ。
ごぽりと口の中で水の音がする。しゃべった拍子にこぼれそうになった唾液を、優は舌で舐めとった。
そんなのいまさらじゃないですか、とそういうあなたは、ちゃんと引き際を知っているくせにね。

そういうのって、たち悪いよ。
俺ばっかり、必死で。いろいろ考えて。
性別とか、地位とか、そういう常識とか前提とか。ふたりを結びつけない要因たちが、愛のためのキスを心をざわめかせるものにする。それでいて、だめだと思うのに、その色欲にとらわれてしまう。
ーーーああ、やっぱりどこか牙をたてられたのかもしれない、傷口から、淡い紫色の毒がまわっている。


こつんと額がぶつかって、唇に影が落ちた。1cmか2cmか離れる。くっつきそうでくっつかない。こんな距離で彼は薄く目を開けるから、見ないで、と思う。ひどい顔をしている自信があった。


「まこちゃんさ、可愛いよ」

至近距離で彼が微笑む。
真琴は目をそらした。
それこそ焦点があわないくらい近づいているというのに。

「………、馬鹿ってことですか」
「えっうそ、よく分かったね」
「………しってますよ」

しってる。
毒が、まわって、侵されているんだ。少し退くと、額に唇が落ちてきた。
見上げる。彼の虹彩に透けていた淡い紫色の炎は、すっかり落ちてしまったように見える。真琴は、ほらやっぱりと思った。それなのに変なキスするんだから。

ああ、もう。大人だなぁ、彼は。


ーーーあれ、なんの話してたっけ。

(あ、女の子じゃなきゃ駄目だったのか、って話か)


ぼんやりすると、頬に、冷たい指先が触れた。
ひやりとした感触。
だけど、ふに、とつまむその指使いが、いままでにないくらい優しくて、びっくりする。

「せんせ?」
「喧嘩売ったわけじゃないですよ?」
「え、なにが?」
「馬鹿な子ほど可愛いってことです」

衣擦れの音が、思い出したみたいに耳に入る。


「真琴は、いろいろ正直に考え過ぎてて、馬鹿だなぁってこと」

ーーー性別とか、そういう難しい話とか。
ーーーキスとか、セックスとか、地位とか、境遇とか、大人とか、子供とか、色々。

「そういうのを、馬鹿正直って言うでしょう」

「俺、考えすぎですか?」

問うと、うん、って返ってくる。
面倒臭い?とも問うと、うん、と返ってきた。

「もしもが、どんなもしもだったとしても、真琴が私のものだってことは変わらないです。女だったとしても、男だったとしても」



「…………わお」
「、?」
「熱烈、だなぁ思って」
「………、ふつうだよ」

すごく、びっくりした。
彼からこんな言葉をもらえるとは思ってなかった。
……や、でも照れるとかなんかないの、と思う。


「でも、嬉しいです、うれしい。………すごい嬉しい」








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これは小説なんだろうか。。
自分でもなにが言いたかったのか分かんないです。。
もし私が男やったらりーちゃんのこと彼女にするのに、ってよくゆってる子に思ってることから書きはじめて、最後のほうやけに自分の世界に入りたがるまこちゃんを現実に引きもどしながらやってた。。終盤面倒臭くなった感じが伝わるだろうか。