BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

『落としたら壊れちゃうんだよ』0721UP ( No.2 )
日時: 2013/07/21 17:02
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   二

「何もしてない。ただ、一人になりたくて」

「そっか……分かる。分かる気がする。わたしも今日に限って、波音を聞いてると心が落ち着く気がするの。大きな海に包まれるような気持ちっていうか」

わたしはあおぎりさんの横に座り、脚を崩した。
目をつぶって、ありもしないのに、時が止まっているのを想像してみる。
このまま「無」になれたらいいな、と思うのだ。

真っ暗な視界に、ただ波の音だけが聞こえていた。
会話が途切れると、横に居るクラスメイトを意識してしまう。

「あ、一人になりたいんだよね? なんだかごめん」

わたしは申し訳ない気持ちになる。
あおぎりさんの「放っておいてくれオーラ」ぐらい、わたしにだって読めるのだ。

誰だってひとりになりたい時はある。わたしもそうだ。

「あおぎりさんって、話してみると、意外と話しかけ易いひとなんだね」

それでもわたしは会話を続けた。
なんとなく、このまま帰る気がしなかった。
今すぐ帰ってしまったら、明日またあおぎりさんに学校で会っても、用がないと話しかけちゃいけないみたいで。

「話しかけ易いなんて、言われたことないよ。話しかけづらいってのはよく言われるけど」

あおぎりさんの対応の仕方は、まるで買物途中に友達の友達にでも会った時のようだ。
会ったからには無視できないが最低限のことだけ喋ってすぐ終わらせたい。そんな感じだ。

「あおぎりさん、いつも一人で、特定の仲間と付き合わないで、すごいって思うよ」

「何がさ。ただ友達居ないだけだよ、わたしは」

「うんん。あおぎりさん、超然としていてカッコいいかも」

「いきなり何? 長南さんは友達が居るでしょ。友達と一緒はダメなの?」

「ダメじゃないけど……。わたしって本当に、自分勝手なくせに友達には恵まれて……幸せなやつだよ。でも嫌になる時もあるの。知らないうちに相手を傷つけたりして……」

だからわたしも、一人になりたいって思う時がある。
ただ、そのあとですぐに来る「孤独」が怖いのだ。

寂しい時だけとか、一人で居るのがつまらない時にだけ友達を求めるなんて、そんなの自分勝手過ぎると思うし。

「……ごめん。あおぎりさん、一人になりたくてここに居るんだったね」

つい喋り過ぎてしまった。
なんでだろう。あおぎりさんは今日まで全く話したこともなかったのに。友達以上に打ち解けてしまった。

「うん。ここはわたしが一人になれる場所。放課後になると、毎日ここへ来るの。明日からもそうであって欲しい」

打ち解けたと思っているのはわたしだけで、あおぎりさんはいつもの通り、マイペースだ。明日以降も、孤独を貫くらしい。

「ねえ、明日も来ていい?」

「一人になりたいって言ってるでしょ」

冗談を冗談で返してくれるあおぎりさんは、話すのも上手なひとだ。

不思議だ。学校ではいつもクールなのに、こうして話してみると面白いひとだ。

「分かった。もう帰るね」

わたしは立ち上がり、スカートについた砂を払い落とす。

今日までは、部活を理由にして友達とはさよならしてたけど、わたしが部活を辞めたと言ったら、明日からまた友達と一緒に帰らなくちゃいけないのかな。

やっぱり退部のことは黙っておいて、部活に通うふりをしながら、明日以降もこうして一人で帰ろう。


「待って」