BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: GL・百合オリジナル 『落としたら壊れちゃうんだよ』 ( No.3 )
日時: 2013/07/21 17:22
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   三

「待って」

あおぎりさんも立っていた。わたしより背が高い。170くらいありそう。

今日までまともに見たことのなかった彼女の顔は、澄ましているといかにも頭が良さそうで、心の内側に何か深いものを隠しているようだった。

そのあおぎりさんの口元がニコッと微笑んだ。

「ラーメンライス、好きなの?」

どうでもいいような話だった。
わたしとしては、さっき海に向かって叫んでいたのをたまたま聞かれて、それを思い出すと恥ずかしい。

「わたしも、チューシュー麺の大盛とか、頼んでみたい」

そう言うとあおぎりさんは海の方を向く。カモメが綺麗に列を成して飛んでいた。

「チューシュー麺大盛とライスに餃子ーーーーーー!」

海に向かって叫ぶ女子高生。絵的には青春っぽくていいけれど。
ってか、大食いだ。

「なんなら今度二人で行く? ラーメン屋」

「え? あ、うん……行く。行きたい」

突然の問いに、つい答えてしまう。
言った後で、あおぎりさんと約束をしてしまった自分に気づく。

「好きだーーーーーー!」

次に叫んだのは、ちょっとそれらしかった。不自然じゃない。でも。

「え? ラーメンが?」

わたしは聞いてみる。何を好きなのか、主語が抜けていたから。

「違うよ。今の『好き』はね、告白。どうせわたしなんかには縁のない言葉で、本気で言うこともないだろうから。叫んでみた」

「縁がないって、そんなこと……」

「好きだー!」

「わっ」

あおぎりさんがいきなりわたしに向かって叫んできた。でもなんで「好きだ」なんだ。

「長南さんは、好きな男子は居る?」

「居ないよ、そんなの」

わたしは即答していた。
べつに、面食いだとか、理想が高過ぎるってわけじゃないと思うけど、なんだかんだで、わたしはそういうのに興味がない。

「今までに彼氏は?」

「できたことない」

「なぜ?」

「なぜって言われても……」

なんとなく、そんな気になれなかったとしか言えない。

「じゃあ、わたしが告白していい?」

「なぜ」

本気の「なぜ」だ。女が女に告白って、意味が分からない。

「長南……」

あおぎりさんが詰め寄ってくる。「さん」が抜けていた。わたしも呼び捨てでいいだろうか。「あおぎり」って。

「あおぎり……」

思った時には口に出していた。
それは友達を呼び捨てにする時と違う、不思議な感じ。

あおぎりがわたしの髪を触っている。
鎖骨のあたりまで伸びたわたしの髪を指ですくって、すりすり、感触を味わうようによじる。

「こんなストレートのサラサラで、羨ましい……」

わたしの髪が、あおぎりの鼻に押しつけられる。やだ。匂いかがれると恥ずかしい。

それなのにわたしは抵抗するどころか、むしろ肩の力が抜けていく感じで、膝がガクガク震えそうになる。

今のわたし、どんな顔してるんだろう。

何度もわたしの髪を撫でていたあおぎりの手が、すっと近くに伸びてきて、わたしのアゴに触れた。

二人の目と目が、ぴったり重なる。

「ん……」

わたしは急に怖くなって目をつぶった。
胸もとに両手で二つグーを作り、今まで髪を撫でられてリラックスしていた身体に、緊張が走る。


「長南」

呼びかけるような声に、現実に帰る。

見ると、面白そうに笑っているあおぎりが居た。

「なに本気になってんの。するわけないじゃん。女どうしで」

「ご、ごめんなさい……わたし」

顔が熱くなっていた。どうしよう、冗談に決まってるのに。恥ずかしい。

「わたし、帰るよ!」

カバンを肩にかけ、わたしは走った。

潮風で錆びついた手すりにつかまり、堤防をのぼる。


さっき初めてあおぎりと会話したばかりなのに、もう何度目か分からない、恥ずかしいって気持ち。

あいつの前でわたしは恥をかいてばかりだ。

   ***