BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

『落としたら壊れちゃうんだよ』0726UP ( No.5 )
日時: 2013/07/26 16:45
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   五

教室に着くとミキはまだ来ていなかった。
沢はわたしの後ろの席だ。二人、縦に並んで席に着く。

「二人ともおはよう」

声をかけてきたのは五十嵐さんだ。
席も離れているし、ちょうど今は彼氏と話していたと思うのに、わざわざ窓際まで話しかけに来る。


五十嵐さんとは高校に入ってから知り合った。

長い髪を後ろで束ねただけで、顔もノーメイクでオシャレな感じなんか全然ない。
それなのに、素材がいいから目立っている。

同い年とは思えない大人びた雰囲気を持っていて、何よりも彼氏が居るっていうのがわたしたちより抜きん出ている。

おまけに成績優秀とくるから、わたしはどうしてもこのひとに一目置いてしまう。

出会った当初は、こんなひとがわたしたちの友達になるなんて思いもしなかった。

まあ、おそらく五十嵐さんの目当ては沢にあったと思うけど。


「昨日、ミキがさー」

「うんうん。どうしたの」

早速、沢がさっきわたしにした話を五十嵐さんに繰り返す。
テンションはさっきよりずっと高めだ。

五十嵐さんと話す時の沢は、一生懸命というか、サービス精神みたいなものが感じられる。

五十嵐さんに話しかけられて嬉しいのか、それとも話を聞いてもらって嬉しいのか。

「ふふ。その先輩も大変だろうね。ミスされると困るから、ミキから目が離せないんだよ」

わたしの真後ろで、五十嵐さんが笑っている。
どういうわけか、同じ十五歳なのに、五十嵐さんが言うとバイト経験者みたいに聞こえる。
大人っぽい五十嵐さんからすれば、欠点だらけのミキなんて、よっぽど幼稚に見えるのだろうか。

沢も相手が面白がってくれた方が話していて楽しいに決まっている。わたしの真後ろで、二人はミキの話で盛り上がっていた。

ミキ、遅いな。早く来た方がいいよ。

「長南さんも中学時代ずっと一緒で、大変だったでしょ」

五十嵐さんに声をかけられ、わたしは慌てて振り向いた。

「う、うん。まあ、ミキはなんていうか、言ってもなかなか分かってくれなくて……」

ミキとのこれまでを思い出すと、さすがに「そんなことないよ」とは言えなかった。

それよりも、五十嵐さんと目が合い、「やっぱ綺麗なひとだ」と思ってしまう。
そう思うと、結局ミキをかばってやれなくなる。

「あ、ミキ来た」

わたしが言った。
さっきから教室のドアにちらちら目をやっていたから、わたしがいちばん先に気づく。

「おはよー」

沢と五十嵐さんが、明るくあいさつをする。

「おはよ」

遠くの席に腰かけて、ミキは笑った。

少し息を切らせて、顔が赤くなっている。ちょっと太っているだけに、汗臭い印象だ。同じ制服を着ていても、五十嵐さんやあおぎりみたいに決まってない。


なんて、今はこんなことまで思うようになってしまった。

中学の頃は、ミキの見た目がどうかなんて気にならなかったのに。
最近はわたしまで、ミキを低く見ている気がする。


五十嵐さんは話題を変え、ツイートや面白い動画の話なんかを少しして、チャイムが鳴ると自分の席に戻った。