BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

『落としたら壊れちゃうんだよ』0801UP ( No.8 )
日時: 2013/08/01 18:26
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   八

数日が経って——。

ミキが中三の終わり頃、同じ塾の男の子を好きになったエピソード。

あれがクラス全体に知れ渡っていた。

ミキの居ない教室、女子トイレ、廊下、昇降口などで、クラスの女子がその話をしているのを聞いた。


わたしは二人きりの時、沢に聞いた。

「シャレになってないよ。あのことって、わたしと沢しか知らないはずじゃん。沢がみんなに言いふらしたの?」

「ごめん。そんなつもりじゃ……」

沢は五十嵐さんがミキの話ばかりするので、自分も何か面白いネタを提供しなければと思い、五十嵐さんにだけ例の話をしたという。

沢自身もあの件は今でも少し怒っていたらしく、つい調子に乗って喋り過ぎてしまった。

五十嵐さんは、まだ気が早いかもしれないが沢の友達だ。
そしてミキは沢の友達だ。
ミキの失敗談を喋っても、笑って終わるだけだと思っていた。

ところが五十嵐さんは他の子にもすぐ喋ってしまった。

五十嵐さんは、特別仲の良い友達が居るようには見えないが、話し相手は多い人気者だった。彼女の容姿と大人びた雰囲気がひとを引きつけるのだ。
それに何でも面白おかしく喋るから、悪気があるようには見えない。
五十嵐さんがミキのことを話しても、笑い話と受け取るひとが多かった。

「ミキだってあの時は悪いことしたって思ってるかもしれないのに、他人の過去の失敗を今さら持ち出すなんて……。あの子がクラスに居られなくなったらどうするの」

「仕方ないよ……。みんなが話で盛り上がってるのに自分だけ乗らないわけにもいかないでしょ」

わたしと沢は黙ったまま、どうすればいいか分からず、途方に暮れた。

ただ「五十嵐さんに逆らうとまずい」ということは二人とも分かっていた。


それからだろう。
沢は以前より口が軽くなった。ミキの悪口を五十嵐さんと喋ることに慣れてしまった。

わたしは中学三年間ずっと一緒だった友達のミキが五十嵐さんに傷つけられるのを見ていなければならなかった。

それ以上に、同じ仲間だったはずの沢までもがミキを傷つける。それを見せつけられるのが辛かった。

わたしの居場所がなくなりかけている。そう思い始めた。

   ***