BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

『落としたら壊れちゃうんだよ』0803UP ( No.9 )
日時: 2013/08/03 08:09
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   九

教師がチョークで黒板を叩く音が響いている。


わたしの視界の中、ピントが合わずぼんやりとした背景的な人物の間に、一人だけくっきりと浮かぶ人物が居る。

あおぎりの横顔が、黒板右上の時計を見やる。

もう十六回目だ。この授業に入って十六回も、あおぎりは時計を気にしている。

どれだけ退屈なんだ。ちゃんと授業に集中しなさいよ!

そう思うのだが、あおぎりが何回時計を見たかをいちいち知っている自分も同じだと分かった。


あおぎりは廊下側の前の席で、わたしは窓際の後ろの席。
わたしはちょうどあいつの斜め後ろということになる。

自分があおぎりを眺め続けるのに絶好の席に居ることを、わたしは今日初めて知った。

あおぎりは休み時間になるとすぐに教室を出ていく。
もう、先生の後ろに追いついちゃうくらい、チャイムが鳴るとすぐ教室を出ていく。

それで休み時間が終わり、次のチャイムが鳴るまで帰ってこない。その時も、授業担当の先生とほぼ同時くらいに入ってくる。
一秒でも長く教室に居たくないみたいだった。

声なんかかけるタイミングもない。
トイレにも居ないし、どこに行っているのか。それを聞くのも気が引けた。


昼休みは、その場の流れで沢、ミキ、五十嵐さんと一緒になる。
わたしは冷えたお弁当をモグモグ食べながら、三人が会話しているのを聞く。

「どうなのミキ。バイト先の先輩ってカッコいいんだよね。このクラスの誰よりもカッコいい?」

五十嵐さんが世間話でもするように、さり気なく聞く。だが内心では興味津々に違いなかった。

ミキはうまく乗せられ、「うちの男子、カッコいいひとあまり居ないからー」と発言してわたしを冷や冷やさせる。

沢は二人のやり取りを見ながら、口をきつく閉じて笑いをこらえていた。

ミキ、今のは多分、失言だよ。あとで何度も煮え繰り返されちゃうって。

わたしは喋らない分だけ早く食べ終わってしまい、水筒のお茶を入れては何杯も飲んだ。
口がふさがってると、喋らないでいい気がするのだ。

廊下の方を見るとあおぎりが自分の席に座って本を読んでいる。うちの図書室で借りた本だ。貸出用のバーコードが貼ってある。

ああやって「話しかけないでオーラ」を出しながら、あおぎりはひととの関わりを断つのだ。

中学生のわたしだったら、それを見て「友達居ないやつ」とか「感じ悪い」なんて思っただろうけれど、今は羨ましい気もする。

ふと、あおぎりが視線を上げた。本から目を放し、ゆっくりとこっちを向く。

二人の視線がぶつかった。
友達の話し声はただの喧騒へと変わり、わたしは黙ったまま、笑いもしないで、じっとあおぎりを見つめる。

あおぎりも笑ってなど居なかった。

でもその視線が「何してるんだよ、お前」と訴えているように思えた。

そしてあおぎりは視線をそらす。再び本へと目を向けた。


わたしは間違っている。
わたしはこの二人と共犯なんだ。