BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 『落としたら壊れちゃうんだよ』0804UP ( No.10 )
- 日時: 2013/08/04 08:05
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
十
放課後、わたしは部活へ行くふりをする。
なんだかんだで、友達には部活を辞めたことを言わなかった。
しかしおかげで自由に行動できる。
昼間のあおぎりが読んでいた本。あれは学校の図書室で借りたものだった。
あおぎりは図書室の常連なのだろうか。
部活へ行くと言った手前、すぐに帰るわけにも行かず、わたしは適当に校舎内をぶらついた。
そうするうちに図書室の前まで来ていた。
あおぎりが居るかもしれない。
図書室では生徒たちが居残って勉強していた。学習スペースには教科書やノートが広げられ、みんな真剣な目をしている。
奥へ行くほどひとが少ない。
等間隔に並ぶ棚をかき分けて行くと、大きな窓から空が見えた。
あおぎりが居るとしたらこの辺だ、と思った。
そしてその予感は当たった。
午後の日差しに照らされ、あおぎりは机に顔を乗せて寝ていた。
わたしは静かな空間に、寝ているあおぎりと二人きりだった。
「あおぎり……」
名前を口に出して呼んでみる。
あおぎりの寝顔は口が半開きで、起きている時と違って子供っぽい。
わたしは自分のハンカチを広げると、あおぎりの顔の前にかざしてみた。
寝息がすごくて、ハンカチがどれくらい揺れるか試したくなったのだ。
あ、口呼吸だ。
あおぎりの寝息に合わせて、ハンカチが暖簾のように上下する。
あおぎり。わたし自分に居場所がないって思うと、あなたを思って変な気持ちになるんだけど、なんなのこれは。
わたしはあおぎりの吐息が当たってまだ温かいハンカチを、自分の鼻に密着させた。
あおぎりの寝顔を見ながら、ハンカチの匂いを胸いっぱいに吸い込む。
「あおぎり……あおぎり……」
名前を連呼すると、心の底によどんだものが頭のてっぺんから抜けていく。
背徳感のようなものにゾクゾクしながら、寝ているのをいいことに、わたしはあおぎりの名前を弄ぶ。
わたしは吸い寄せられるように、あおぎりに顔を近づけていく。
なんて無防備なんだろう。あおぎりの唇が、真っ白な歯が、ピンク色の舌が、目の前だ。
わたしはきゅっと唇を噛んでから、さらに顔を近づけようとする。
パチ——。
なんて音がしたわけではないけれど、びっくりしたように、あおぎりの目が見開かれた。
「ん……? 長南?」
わたしは慌てて飛びのく。「えっと……えっと……」と言い訳を探しながら。
「ここどこ? わたしの家じゃないの? あー、図書室だぁ」
起き上がったあおぎりが、制服の袖で口を拭う。
渇いた目を潤すように、ぶわっと涙が浮かんだ。
潤んだ瞳を見て、わたしは背筋に電流が走る。
「長南、あの子たちはどうしたの?」
今はわたし一人なのか、と聞きたいらしい。
「えっと……わたし部活に行くから、友達とは別れたの」
「部活? 昨日で辞めたんじゃないの?」
「うん……辞めました」
「じゃあ、なんだっていうの? あの子たちとは帰らないの?」
「まだ言ってなくて……部活辞めたこと。だから、だからその」
わたしと一緒に帰らない?
その言葉が、言えていた。