BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 『落としたら壊れちゃうんだよ』(0810UP) ( No.14 )
- 日時: 2013/08/10 07:40
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
十一
わたしたちは駅前のショッピングビルに来ていた。
一階は食べ物屋や居酒屋ばかりで、観光客向けのポスターや、特産品の名前、ゆるキャラのイラストがよく目につく。
「どっか、見たいお店ある?」
「普段こういうところ来ないから分からない。長南の知ってる店でいいよ」
上を目指せば何か面白い店があったはずだ、と思ってとりあえずエスカレーターに乗る。
リードする側になると、わたしの方が詳しいみたいだけど、考えてみるとわたしも今まで友達に連れられて来ただけなのだった。
「どこへ行くの?」
エスカレーターの一段下に立つあおぎりが、ちょっと不安そうにわたしを見る。
あおぎりの視線がわたしより下にあるのが、なんとなく面白かった。
「適当に。雑貨屋とか、服屋とか。買わないで見るだけってのも面白いよ」
「そう。わたし、いつも買いたい物を決めておくからさ。そういうの新鮮かも」
わたしはかつて沢やミキと通(かよ)ったお店をあおぎりと見てまわった。
あおぎりはいつものようにクールで、楽しいのか退屈しているのか分からない。
わたしもこっちから誘ったゆえ、何か話さないと悪いみたいで、つい、沢がこんな面白いこと言ってたな、というのを思い出しながら、あいつと同じことを喋っていた。
でも沢のように楽しく喋ることもできず、だんだん、場を盛り上げるために頑張っている自分が見苦しく思えてきた。
わたしが無口になると、今度はあおぎりの方が心配そうな顔をした。
「長南、わたし、たまにこういうところ来るのも楽しいよ?」
優しい言葉だ。でもその「たまに」っていうところが、本音なんだろうなーと思った。
これからも声をかけていいのか、ためらわれる。
「あおぎりはやっぱり、海の方がいいんでしょ」
「確かに海は、わたしの好きな場所だよ」
「……一人になれるから?」
「うん。だから長南も、一人になりたい時は来ればいいよ」
「わたしが居たら一人になれないじゃないの」
「あっ、そっか……」
わたしに言われて初めてその矛盾に気づいたのか、あおぎりが問題処理に窮してフリーズした。
迷ってくれているんだろうか。
その後、フードコートでソフトクリームを食べることにした。
わたしはバナナソフト、あおぎりはさくらんぼソフトを選び、ベンチに座って食べ始める。
「あおぎりのそれ……美味しい?」
「どうかな。美味しいけど。普段こういうの食べないから、どれでも美味しいのかも」
あおぎりは、なんて経験の余白部分の多いひとなんだろう。何やっても新鮮なんて、羨ましい。
「一口ちょうだい?」
なぜか緊張した。
沢やミキが相手なら気軽に言えることだし、まず断わられるなんてことはない。
あの子たちの場合とで違うのは、その動機が「どんな味か気になるから、一口食べてみたい」ではないってことか。だから緊張するんだ。
言うのに勇気が必要だったけれど、答えはあっさりだった。
あおぎりが「ん」とだけ言って、ソフトクリームをわたしに差し出した。
わたしはあおぎりが一度舐めて溶けかかっている部分にかぶりつく。
さくらんぼソフトの香りが、わたしの口の中で、バナナソフトの香りと混じり合った。
「わたしのも一口……食べてみる?」
わたしが差し出すと、あおぎりはまた「ん」とだけ言って、溶けかけのバナナソフトにかぶりついた。
「うん。やっぱどれ食べても美味しいみたい、わたし」
あおぎりは表情を崩さない。「今のは間接キスだよ」と言ったら、少しは動揺してみせるだろうか。
女どうしって、こんなに簡単なんだ。
わたしは口の中で舌を転がす。バナナソフトとさくらんぼソフトの混じり合った味は、あおぎりとの初間接キスの味だ。
さっきまで無茶して喋っていた自分はなんだったんだろう。会話が途切れると、隣に居るあおぎりが意識される。
胸の奥がチクリとした。