BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

『落としたら壊れちゃうんだよ』0811UP ( No.15 )
日時: 2013/08/11 10:06
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   十二

休日——。
この日は昼の一時に集まって、沢、ミキ、五十嵐さんの四人で遊ぶことになっていた。
わたしは午前中をのんびり過ごし、支度を済ませると家を出た。


駅の近くまで来ると時間はまだ早かった。空気が湿って額に汗がにじむ。もう夏が近づいている。

「あんまり早く着いてもなぁ……」

十分前くらいに着けば、誰かしら居るだろう。しかしまだ早過ぎる。

それに、もし五十嵐さんや沢だけ来てて、ミキが遅刻でもしたら……。
またミキが叩かれるかもしれない。そうするとわたしの居場所がなくなる。
あの二人はわたしが居ても居なくても、そういう話しはしているんだろうけれど、できればわたしはその場に居たくない。

やめようよ、こんな話!
——って言える勇気があればいいんだろうけれど。

分からない時があるのだ。二人とも、悪気があって言っているのか、それともやっぱり冗談のつもりなのか。


わたしの足は自然と、待ち合わせ場所から遠ざかっていった。

子供の頃に何度か来た、道幅の狭い商店街を歩く。

そして、一軒の古本屋の前で足を止めた。

「まだあったんだ、この店」

入口前のワゴンに、色あせた表紙の本なんかが並べられている。
漫画本が、古いのも新しいのもごっちゃになって、一様に百円のラベルが貼られていた。

今時ちょっと珍しい、個人経営の古本屋だ。とっくにつぶれてると思ってた。

わたしは文庫本でもあさろうと、中に入った。


小さい頃に来て以来だけど、お店のひとはどんな感じだったっけ。

確かおじさんが一人でやっていたと思うんだが。

怖い顔のひとだったらどうしよう。万引と間違われたらどうしよう。

変な不安を抱きつつ店の奥まで行くと、カウンターでは一人、可愛い女の子が座っていた。

ありもしないのに、星形の砂糖菓子みたいなキラキラが、その子の周りで光っているように見えた。

「い……」

相手がギョッとして、喉の奥から変な声を出す。なんなの「い」って。

やけに知ってる顔がそこに居ると思ったら、あおぎりだ。あおぎりが古本屋のレジに座っている。

「お、長南……?」

「あおぎり……何してんの」

「いや。店番だけど」

「店番? え? バイト?」

こんな店に、アルバイトを雇う余裕なんかあったのだろうか。なんて、失礼なことを思った。

「バイトっていうか、店番。ここ親戚のおじさんの店だから、わたしが休みの日はこうやって店番して、お小遣いもらってるの」

十一時の開店から、夜の六時か七時くらいまで、あおぎりがこうして店に居るらしい。

それで日給は二千円か三千円というから、なるほど、確かにお小遣いだ。


「ふーん。そうなんだ」

わたしはうなずき、あおぎりの姿を眺める。

店員だと分かるために着用しているエプロンも、その下に着ている長袖シャツも黒。
下はジーンズで、いつもの制服とは、また違ったイメージの休日版あおぎりだ。いや、働くあおぎりだ。

「なん……つーか、たまたま長南が来るなんて、ついてない」

あおぎりが、ちょっと恥ずかしそうに、エプロンの裾なんかをギュッとにぎる。

「どうしてさ。わたしが来ちゃダメなの?」

「そう……じゃないけど。友達がバイト先に来ると恥ずかしいのって、あるじゃん」

ああ、それは分かる気がする。

わたしも、客として来たのに、いきなりあおぎりに出くわして、ちょっと妙な気分。

っていうか今「友達」って言ってくれた?

まあそれは口に出さないでおいて。

「うんん。恥ずかしいことなんかないって。あおぎり、仕事してるなんて偉いと思うよ」

「偉い?」

身をちぢこまらせたまま、あおぎりが上目づかいでわたしを見る。