BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 『落としたら壊れちゃうんだよ』(0813UP) ( No.16 )
- 日時: 2013/08/13 17:30
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
十三
「あ、偉いって言い方はちょっと上から目線だったかも。そうじゃなくて……うん、立派だと思うよ。わたしはバイトとかしたことないし。休みの日だって、遊ぶか寝てるかしてるだけだもの」
「部活は?」
「だから三日で辞めたって」
そういえばそうだった。わたしは部活をやってる設定だった。
今日もみんなと遊ぶ予定だけど、「長南、部活じゃないのかな」って思われてたりした?
「こんな仕事、誰にでもできるよ。立派なんかじゃないって」
あおぎりは「ふー」と溜息をつき、自虐的な笑みを浮かべて近くの書棚に目をやった。
「おじさんが、お小遣いあげるから店番しないかって誘ってくれた時も、わたしは人前に出るの苦手だから無理ですって言ったんだ。でも大丈夫、メグミちゃんみたいな子でもできる仕事だからって言われたよ。ただ座って、客が来たらお釣だけ間違えないようにしとけばいいって」
「そんなアバウトな……」
確かにそういうお店ってたまにあるけどさ。っていうかおじさん、あおぎりを下の名前で呼んでちょっと羨ましい。
「でも外に出て仕事を探すってなると、わたしみたいに社交性がないとか、協調性がない子は歓迎されないから大人になるまでに直した方がいいってさ。そういうので損をするのは他人じゃなくて自分だって。だから結局、直すのがわたしのためなんだって」
「そんなこと……」
ないって、言ってあげたかった。
わたしはあおぎりのマイペースなところ、他人に対してクールなところ、嫌いじゃないから……。
「でも、あおぎりのおじさんって、いいひとなんだね。親戚の子にそこまで言ってくれるなんてさ」
「いやー、言ってるだけだよ本人は。そのおじさんは店をほったらかして競馬やってるんだから。もともと、それでバイトが欲しくなったんだからね」
「そ、そうなんだ……」
今頃、おじさんは競馬に夢中なわけか。
一瞬だけ、あおぎりのおじさんを尊敬してしまうところだった。
言ってることとやってることを両立できるひとって、やっぱ珍しいんだろうか。
「ところで長南は、何しにここへ?」
改まった態度で、あおぎりがわたしに問う。
すっかり忘れていたが、あおぎりは今、仕事中なのだった。
よく見ると、カウンターには袋づめをしている途中の本が置いてあった。
「あー、ごめん。わたし、客として来たんだった。すぐ選んじゃうね」
わたしは文庫本の棚と向かい合った。
右から左へ目を移し、面白そうな本はないかと探す。
こういう時、周りが見えなくなるほど集中するものだけど、同じ空間にあおぎりが居ると思うとそわそわしてしまう。
有線すらかかっていない店内はとても静かで、あおぎりが本を袋に詰める、ビニールのガサガサした音と、セロテープを切るビリッとした音だけが響いた。
新潮文庫じゃ、あおぎりに「こんな難しい本読むの。長南は文学少女だね」とか言われそうだ。
岩波文庫じゃ渋過ぎるし。ここは幻冬社文庫あたりにしとこうか。
そんなことを考えながら本を選んだ。
「四百二十円です」
紙袋に包まれた本が、あおぎりから手渡される。
八十円のお釣ももらって、買物終了。
「ありがとうございました」
小銭をにぎりしめたまま、わたしはレジの前につっ立っている。
「……で?」
それでも動こうとしないわたしに、あおぎりは首をかしげた。
「ん? あー、うん……えっと」
えっとも何もない。買物は済んだのだ。そうしたらお客は帰るものだろう。
でも何か言葉を探して、わたしは立ち去ることができない。
わずかな沈黙の後、あおぎりはくすっと笑って、
「変な客」
そう言って、手に取った雑誌をパラパラめくる。
あおぎりのめくる雑誌は、肌色ばっかりだった。わたしたちぐらいの歳の女の子が、水着姿とか、体操服姿で写っている。
「あおぎり……何してるの。どうして、アダルトな雑誌なんかめくって……」