BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

『落としたら壊れちゃうんだよ』(0818UP) ( No.20 )
日時: 2013/08/18 17:43
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   十五

午後一時ぴったり。
わたしが駅前広場に着くと、沢と五十嵐さんが来ていた。

「残るはミキだけだね。遅刻かなー?」

沢が言う。
ミキ、早く来てくれたらいいんだけど。

「沢と話してたけど、今日どこ行くか決まらないんだ。長南さんは行きたいとこある?」

休日スタイルの五十嵐さんは髪を下ろしている点以外、普段と変わらない落ち着いた雰囲気だ。
着飾って可愛さをプラスする必要がないのだろう。

大体、五十嵐さんには彼氏が居る。

それがどうして休日にわたしたちと一緒なのかというと、彼氏とはもう長い付き合いだから、今さらデートって関係でもないらしい。

そういう「つかず離れず」でやっていけちゃうところが、また大人なんだ。


今日のプランは決まらず、とりあえずミキが来るのを待つことにした。

しかし十分待ってもミキは来なかった。

沢とわたしでメールを送った。返事がないので着信も入れたが、出なかった。

「時間、間違えてるってことない? ミキのことだし」

五十嵐さんの問いに、沢も「そうだねー。ミキだし」と溜息をつく。

「昨日の夜もメール入れたんだけどね。なんか、来るんだか来ないんだか曖昧な返事ばかりで。はっきりしないんだよ」

沢は携帯のメール履歴を五十嵐さんに見せて、「ほら、これ」なんて言いながら、昨晩のミキとのやりとりを反芻(はんすう)している。


その時、わたしの携帯がブルッた。ミキからメールだ。

『朝からバイトだよ今日。行けない』

素っ気ない感じの文面だが、ミキはメールだと昔からこんな感じだ。

「メール、なんて言ってる?」

二人に聞かれ、わたしは「バイトで来られないって言ってるんだけど……」と答える。

沢と五十嵐さんは顔を見合わせ、黙り込む。わたしも困ってしまった。

「微妙だったけど、最終的には来るみたいな返事だったんだよ。ほら見て」

怒った顔の沢が自分の携帯画面をわたしに見せる。

五分刻みくらいにミキからメールが来ていて、確かに、今日は来られるみたいだった。沢だってこんな嘘つかないし。


わたしはミキに「バイトがあるなら仕方ないけど、事前に言わないとダメだよ。みんな待ってたんだよ」とメールを送った。

一分ほどして返ってきたのは「言った。沢にメールで」というものだった。

わたしは携帯をにぎりしめ、凍りつく。

沢と五十嵐さんにも、これはさすがに言えず、

「連絡が遅くなって、ごめんってさ」

と嘘をついた。この状況で本当のことは言えなかった。


「ミキって、中学の時からこんないい加減なの?」

五十嵐さんが沢に聞く。

「そうだねー。三十分くらいの遅刻はよくあったよ。いっつも連絡がトロくてね!」

沢の言う通り、昔は遊ぶ時にも、わたしと沢だけ待たされたっけ。

それでも実際に会って「ごめんね」なんて言われると、怒れないのだった。

わたしたちの方もいい加減だったのかもしれない。

まだ子供だったから。「友達」が相手なら、ルーズでも許されるし、また、許してもらえる気がした。

甘え過ぎかもしれないけど。「なあなあ」で済ませていた。

でも大人になると責任が発生するもので。

そこのところは、きっちりしている。


「大体ミキはさー、働いてるからって偉そうなんだよね。仕事を理由にしてみたかっただけなんじゃないの」

怒りのこもった沢の発言に、わたしはコンプレックスの裏返しのようなものを感じた。


一瞬、あおぎりの姿が頭をよぎる。


「ねえ、それじゃあさ、二人とも」

良案でも浮かんだように五十嵐さんがわたしたちに言う。

「これからミキの仕事ぶりを見に行こうか。あの子のバイト先まで」