BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 『落としたら壊れちゃうんだよ』0824UP ( No.25 )
- 日時: 2013/08/24 19:01
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
十七
注文が届くまでの間、わたしたちは色々と喋った。
この後どこへ行くか、ミキの仕事ぶりはどうか、それから面白い動画やツイートの話などなど。
いつもなら学校帰りに制服姿で、ドリンクバー単品だと高いからフォッカチオなんかもついでに頼んで、二時間でも三時間でも喋っている。
でも今日のお店は友達が働いている。
ミキは週に三日も四日もここに来て、何時間も同じ景色を見ているんだ。
働いて給料をもらうって、どんなプレッシャーなんだろう。「お客さん」って、お店のひとからはどう映るんだろう。
「お待たせしました」
そうこうするうちに、頼んだ料理が届いた。湯気とともにイタリアンな香りがする。
ミキが料理や飲物を運ぶ動作はちょっと危なっかしくて、わたしたち相手なのに、緊張しているみたいだった。
「ご注文は、以上でおそろいですか」
「ミキ、沢の飲物、まだ来てないみたいなんだけど」
「あぅー、ごめん」
さっきから、五十嵐さんはアイス緑茶、わたしはカプチーノを飲んでいる。
沢のメロンソーダが来ていなかった。グラスの水がすっかり飲み干されていた。
「飲物がないぐらい、見て気づけよ」
沢がテーブルに肘を立てて言うと、ミキは下を向いて黙り込んでしまった。
「それに、声も聞こえづらいよ。さっきから」
ミキは仕事ぶりを批評されて、恥ずかしそうだった。
言い返せる立場でないだけに、ちょっと可愛そうになってしまう。
友達がバイト先に来ると、自分がミスしているところまで見られるから辛い。
「ちょっと、滝口さん」
男性の声が、ミキの名字を呼んだ。
横を見ると、さっきの男性スタッフが立っている。
沢がわたしのひじを小突いて、目で合図する。「やっぱこのひとでしょ?」と言いたいみたいだった。
このひとがミキの好きな先輩だ。
近くで顔を見ると、なおさらそんな気がした。
だからわたしも沢に「うんうん」とうなずいた。
五十嵐さんは男性が近づいて来るのを予想していたみたいで、目も向けず、黙ってお茶を飲んでいる。
「あっちのテーブル、きちんと拭けてなかったよ」
見ると男性の表情が怖くなっていた。声色もぜんぜん優しくない。
「すみません……やっておきますから」
「いいよ。暇だから俺やっといた」
ミキが辛いのを耐えるように、ぐっと口を結ぶ。
わたしも場の緊張感に、のどが詰まりそうになった。
「ところでさー君たち、滝口と同じ高校なんでしょ?」
同じひととは思えない、優しい声が聞こえる。見ると、男性が笑っていた。
「人手が足りてないし、うちに来れば? バイト募集中だよ」
ニッコリ笑う、男性の横顔が見えた。
なぜ横顔かというと、その男性は真っ直ぐに五十嵐さんを見ていたから。
五十嵐さんに笑いかけていたから。
わたしと沢は、さながら背景か、黒いシルエットぐらいなものだろう。
もちろんミキも。
このひとは一体、女の子をどう見ているのか、怖くて聞けないぐらいの優しげな笑みだった。
直感的に、このひとはミキに優しくなんかしてくれないと思った。
すると、どうでもよさそうに話を聞いていた五十嵐さんが、顔を上げた。
そして男性の方を見て、ニッコリ微笑んだ。
え、と心の中で思う。
そばに居たミキの目にも、ショックが浮かんでいた。
きっとわたしも同じような顔をしている。