BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

『落としたら壊れちゃうんだよ』(0831UP) ( No.28 )
日時: 2013/08/31 17:27
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   十八

男性と五十嵐さんは、世間話程度に、ちょこちょこ会話をした。
当たりさわりのない会話なのに、とても楽しそうな雰囲気だ。

それは、五十嵐さんが笑っていたからだと思う。
男性も、もちろん口には出さないが、美人だなって思っているだろう。

顔でモテるって、こういうことか。初めて分かった気がする。まだ出会って数分も経っていないのに。

すっかり空気と化したミキが、寂しそうに去っていった。沢のメロンソーダも持ってこなきゃだし。っていうか男性も仕事中だ。

それにしても五十嵐さん、ここでバイトする気なんかないだろうし、彼氏だって居るのに、どうしてそんなに愛想よくするの。相手はミキの好きな先輩なんだよ。


間もなく男性も仕事に戻っていった。五十嵐さんは余韻に浸ることなく、

「まあ、これで分かったよね」

すぐにいつもの、わたしたちと居る時の五十嵐さんに戻る。

「そうだね。メロンソーダ飲んで帰ります」

沢がストローをくわえると、メロンソーダの緑色が、一気にコップの半分くらいまで減っていく。

「ってかさぁ、長南はそんなに食べるの?」

「え?」

ジーっと目を細める沢が、テーブルの上の皿を見つめる。

ナポリタン、バタートースト、海草サラダに、お代わりのコーヒー。

家を出る前に軽く食べてきたんだけど、メニューを見たら美味しそうなので注文してしまった。

「わたしと五十嵐さん、もう用が済んでるんですけど」

沢が羨ましそうに料理を見つめる。

小皿をもらって、二人におすそ分けした。



「ありがとうございました」

ミキの手から釣銭をもらって店を出ると、わたしたちはエレベーターに乗り込む。

「ドリンク代、いくらだっけ? 食べ物はわたしと五十嵐さんで半分払えばいいかな」

「いいよ。わたし昼食代もらってきてるし、おごりで」

そんなことを話しながらエレベーターは一階に着く。

ドアが開くと、我慢の限界のように、

「あれは脈ないよねー!」

五十嵐さんが言った。
ミキはあの先輩との間に、脈がないってことだろう。

「顔もそこそこイケメンだったし、どうせ彼女居るよ。ミキはほんと、高望みのし過ぎてっていうか、自分の階級が分かってないね昔から」

「男を見る目も怪しいね。あのひと顔がいいだけで、優しくないと思うよ」

二人が話で盛り上がっている。

五十嵐さんもわたしと同じで、あの男性が優しくないって分かってたんだ。やっぱり勘が鋭い。

でもそれなら、なんでニッコリ微笑んで、ミキが居る前で楽しそうに喋っていたの。

ミキ……大丈夫かな。