BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 『落としたら壊れちゃうんだよ』(0907UP) ( No.32 )
- 日時: 2013/09/07 17:12
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
二十
ミキは、わたしが後ろをついてくるのに気づくと、声をかけてきた。
「長南は、あの二人の味方じゃないの?」
ミキの、わたしを疑うような目。
こんな目で見られたことなんて、今までなかった。
わたしはミキと並んで、階段の踊り場の手すりによりかかる。
「味方とか、敵とかって……そんなのないでしょ」
どっちが悪いかなんて、そんなの問題じゃない。
わたしはただ、友達が喧嘩しているのが嫌なだけだ。
ミキはちょっと心を開いたように、語り出した。
「わたし、沢に自慢したくて、あることないこと、嘘ついてた。なんでだが、『せめて沢よりは先に経験したい』って思ってたんだよ」
こう言った後でミキは「どうせわたしも沢も男の子になんか縁ないだろうし」と付け足した。
なぜその中にわたしが入っていないんだろう。
男子に縁がないのはわたしも一緒だ。
「わたしは五十嵐さんみたいに魅力的じゃないし、沢の言う通り『中の下』で、性格もブスなんじゃ、うまくいきっこないよね」
ミキはわたしと目を合わせた。
「そんなことないよ!」と否定してあげたかったけど、できなかった。
だってそれが「現実」のような気がしたから。
わたしはただ緊張して唾を飲み込むだけだった。
「でも五十嵐さんだって何も悪いことして美人に生まれてきたわけじゃないし、妬むのは筋違いだよね。もう、言葉で嘘ついても何も変わらないって分かったよ。いや、最初から分かってたけど、認めるしかないって思ったよ。わたし、もうなるべく嘘つかない」
ここまで言ってすっきりしたのか、ミキは「ふー」と溜息をついて、顔を上げた。
わたしもミキの本音を聞いて気恥ずかしく、顔が熱くなっていた。
わたし一人だけでも「聞き役」になってあげられてたら、よかったんだけど。
わたしは、ミキのくじかれた気持ちを思わずにはいられなかった。
五十嵐さんは、あの先輩の態度を見て、すぐにミキの嘘に気づいたはずだ。あの先輩はミキのことなんか全く見ていなかった。
なのに、それに追い討ちをかけるように先輩に微笑みかけて。
それもミキの見ている前で。
五十嵐さん自身はあの先輩を何とも思っていなかったのに。
しかも五十嵐さんの狙った通り、あの先輩がすぐ彼女に興味を持ってしまうんだからすごい。
うまくいくひとは、本当にうまくいくものなのだ。
もちろん、あんな男性に好かれてもどうせ良いことなんかないだろうけど。
ミキは目の前で五十嵐さんに力の差を見せつけられて、「現実」を突きつけられて、どう思ったんだろう。
なんだかそれを考えるとわたしまで心を痛めてしまう……。
わたしは、久しぶりにミキと二人でお弁当を食べた。
あの二人のもとへ戻るには、まだ気持ちが整理できていなかった。
中庭のベンチで、ちょっと良い雰囲気だなと思いつつ食事した。
教室へ戻ると、沢がわたしに非難の視線を向けてくる。
「どうしてミキの肩もつんだよ。あいつが悪いんじゃん」
わたしはべつに、ミキの肩をもったわけではない。ただ放っておけなかっただけだ。
わたしはどっちの味方でもない。どっちが悪いとか正しいとか、そんなことはもうどうでもいい。
それにしても、なぜ沢はミキのことになるとこんなに怒りを露わにするんだろう。
ミキも「沢より先に経験したい」とか言っていたし。
なぜ二人はこうしていがみ合うんだ。
もう、昔みたいに仲良くできないのか。
五十嵐さんはというと、遠くの席で他の男女と喋っていた。
わたしとは親しくない男女だ。話しかけられない。
午後の授業中、ミキからメールがあった。
『確かにバイト先の先輩は、わたしにはちょっとだけイケメン過ぎたかも。もう少し志望男子のランク落としてみるよ!』
そんな文面に、顔文字が添えられていた。
わたしは苦笑いし、自分の頭を軽くこづく。
ミキ、本当に反省しているんだろうか。
ミキには、イケメンなんかじゃなくても、優しくて真面目な男の子に出会って欲しい。
だって友達じゃん。幸せになって欲しいって思うよ。
ミキの方を見ると、「メール見たでしょ?」というように、笑顔を向けてくる。
わたしもそれに応えておいた。
ちょっと後ろの席に視線を移すと、五十嵐さんも授業を聞かず、膝元でこっそり携帯をいじっていた。
さっきから、携帯で長い文章でも書いているみたいだ。
まわりを見ると、他にも何人か、携帯をいじる生徒たちが居た。
あまり良い光景ではなかった。