BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

『落としたら壊れちゃうんだよ』(0908UP) ( No.33 )
日時: 2013/09/08 16:55
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   二十一

波の音がしていた。目を開けると、隣にあおぎりが座っている。

「こうして、何も喋らないでいるのも悪くないね」

先に声を出したのはわたしの方だった。
わたしが黙っていると、あおぎりはいつまでも黙っていそうだ。


犬や猫が寄り添って寝ているのを見ると、とても可愛いんだけど、考えてみると動物って一緒に居ても会話をするわけではないのだ。
人間ってその分、面倒くさいかもしれない。

「長南が一緒だからいいんだよ。長南相手だとコミュニケーションとか要らないし」

「そうなの?」

わたしの出した声は、寝起きみたいに力が入ってなかった。
本当に、あおぎりとこうしていると落ち着くかも。

なんだか、二人で居るのに二人じゃないみたい。調和っていうか……。
わたしは一人になりたいって思う時があるけれど、一人ぼっちはやはり寂しい。そんなに強い人間でもないし。


「あおぎり、わたしたちって……友達?」

「違うの?」

あおぎりが不思議そうにこっちを向いた。わたしは目を細めていて、あおぎりの姿が、潤んで見えた。

「友達ならさ、もっと寄り添ってもいい?」

「え? 友達なのに、もっと寄り添うの?」

「そう。友達だから。ただの友達だから、大丈夫だよ」

何が大丈夫なのか、自分でも分からない。

でもわたしの心は複雑になっていて、そうすると、ついあおぎりに大胆なことも言えてしまう。


わたしは腕と腕がくっつくまで、あおぎりに身体を寄せる。

そしてあおぎりの肩に、自分の頭を乗せた。

あおぎりは驚いた様子で、恥ずかしそうに顔をそむけてしまう。が、わたしのことは受け入れてくれた。

わたしは海へと視線を戻す。
ちっとも落ち着かない。胸がドキドキしている。

でもこのままで居たい。

あおぎりの体温が伝わってくる。あおぎりの匂いがする……。

「あおぎり、やっぱりひとは、見た目が大事なのかな」

わたしが呟くのを、あおぎりは黙って聞いていた。

「異性が相手でも、同性の友達が相手でも、やっぱり容姿が良くないと、何も始まらないのかな。容姿がダメなら、何をやってもダメなのかな」

あおぎりは、すぐには答えてくれなかったけど、間を置いてから、言った。

「仕方ないけど、そうかもね」

そうだ。
わたしだって、思ってもないのに「そんなことないよ」とか言って、変に慰められたくはない。

あおぎりなら、本当のこと言うに決まってるって思ってた。

「でもさ」

あおぎりが言いながら、わたしの手をそっと握る。

砂がついて、じゃりじゃりしたあおぎりの手は、思った以上に小さかった。

「長南は“かわいい”の部類に入るから、大丈夫だよ」

冗談っぽく、さらっと言った言葉でも、わたしには重く響いた。

「可愛いって……わたしが?」

「うん。長南、可愛いよ」

そこまで言われて、わたしの耳はカッと熱くなってしまう。
海へと視線を向けたまま、固まってしまった。
あおぎりの顔なんて今は見られない。



と、後ろの方で聞き慣れた話し声がした。

沢と五十嵐さんの声だ。

「長南、あなた放課後は部活やってたんじゃないの?」

わたしは振り向いた。

堤防のところに、二人は立っていた。

ミキは居ない。