BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

『落としたら壊れちゃうんだよ』(0911UP) ( No.35 )
日時: 2013/09/11 18:28
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   二十二

「まあ、部活を辞めてることは数日前から気づいてたけどさ」

沢が、堤防の上からわたしたちを見下ろす。ちょっと残念そうな顔をして。

「それならそれで、言ってくれてもよかったじゃん」

言われて、わたしは黙り込んでしまった。

わたしは自分の新しい居場所が欲しくて、ある部活を始めた。しかし三日で辞めてしまった。そこもわたしの居場所ではなかったのだ。

しかしその後も「部活があるから」と言い訳して、沢たちと一緒に下校しなかった。

ちょうど独りで帰った時に、ここであおぎりに出会ったのも理由にあった。ここに独りで来ればあおぎりに会えると思った。だから部活を辞めたことは、つい言えずにいた。


「ミキとは……あの後、何かあったの?」

「ん?」

その話かよ、というように沢が不機嫌な顔を取り戻す。

「ミキはしばらくは、わたしたちと一緒しないと思うよ」

沢が言った後、五十嵐さんが、

「でもどうせ行くところなんかないでしょ、あの子」

と言って小さく笑う。


沈黙がおとずれてから、沢があおぎりの方を見た。
クラスメイトで、もちろん顔と名前くらいは知っている二人だ。
沢が「ども」と軽くあいさつすると、あおぎりも会釈だけした。

わたしは不安になってあおぎりの顔を見る。

あおぎりの目は険しかった。しかし視線の先にあるのは沢ではなく、五十嵐さんだった。

見ると五十嵐さんも、あおぎりのことを睨みつけている。いつもは何に対してもクールで、何に対しても興味なさそうな二人なのに。


「じゃ、長南さん。わたし行くから」

五十嵐さんがニコッとして、わたしに言う。五十嵐さんは、まだ優しい目でわたしを見ている。

五十嵐さんが去っていくと、すぐに沢がついていく。

わたしは、二人についていくべきか迷って、たじろいだ。

「行きたいなら一緒に行けばいいじゃない。長南がそうしたいなら」

あおぎりが言った。

わたしが不安そうな目を向けても、あおぎりは、わたしを止めてなんかくれなかった。

あおぎりの立つ砂地には、さっきまでわたしたちの座っていた跡が残っている。

あおぎりが、衣服についた砂を手で払った。

「長南が行きたいなら行きなよ。でも友達ってのは、社交関係じゃないんだよ」

分かってる。分かってるよ……。


わたしは「また明日ね」と言って、あおぎりに背を向け、二人の跡を追った。

堤防を上がると、沢が銀色の手すりに腰かけて、わたしを待っていてくれた。五十嵐さんは、もうだいぶ先の方を歩いている。

「沢……」

わたしはなんだかホッとして、声をかけた。

沢は笑顔一つなく、わたしを真っ直ぐ見つめると、冗談でも何でもないような表情で言った。

「長南、あなた最近、KYになりかけてるよ」

胸がギュゥッと圧迫されたかのように、息苦しくなった。