BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 『落としたら壊れちゃうんだよ』0918UP ( No.40 )
- 日時: 2013/09/18 16:24
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
二十五
気づくとわたしはブログを一気読みしていた。
時計を見ると三十分ほどが経っていて、のどが渇いている。
鉛でも飲まされたように、胸のあたりが苦しい。鼻の奥がツーンとする。
「はぁ…………」
沢は今日初めてこのブログの存在を教えてもらったんだ。
ブログの開始は四月からで、五月(今は六月)にはもう他のひとがコメントを入れていたのに。
それで慌ててわたしを味方に引き入れてくれようとしているのは分かるけど。
どこまでミキをおとしめれば終わりが来るんだろう。わたしの友達を。
『長南、あなた最近、KYになりかけてるよ』
放課後の、沢の言葉を思い出した。
『ミキだけじゃない。このままだと、あなたまで標的にされちゃうよ』
沢はもう、あっち側の人間になっちゃったのだろうか。
わたしもミキを裏切らないと、クラスのみんなからハブられちゃうんだろうか。
今夜中にでもコメントを入れて「わたしもこのブログの存在を知ってます。仲間です」とアピールしておけば、自分が標的になることはないのだろう。
でもそうすると、大事な何かを失いそうな気がする。
……ダメだ。わたしは書き込めない。みんなと同じようになんて、できない。
わたしは仰向けに寝たまま、腕を目の上に乗せた。
視界が真っ暗になる。
そして昔のことを思い出していた。
どことなく見慣れた教室風景の中に、中学校の制服を着た子たちが居る。
「では、男子三人、女子三人ずつで、グループを作ってください」
先生の声がした。
わたしが中一の時に担任だった、男の先生。
忘れもしない、あれは三年前の四月十一日。
一年生の席順を決めるのに、先生はクジ引きとかではなく、ただ気に入った相手を見つけて集まってグループを作るよう言ったのだった。
先生の掛け声と同時に教室内はざわめき、わたしの目の前で、すぐに二人や三人のグループができていく。
わたしは誰にも声をかけられず、ただつっ立っているしかできなかった。
「あのー、おさなみ……さんですよね? もしよければ同じグループになりませんか?」
そこへ声をかけてきたのは沢だった。隣にはミキも居る。
小学校卒業したばかりの、十二歳の沢とミキ。
ジャンパースカートの制服が野暮ったさ全開だけど、二人とも初々しくて可愛い。
そこからどうなったのか、よく覚えてないけれど、わたしたちは同じグループになった。
その日から帰りも三人一緒になった。
出会った初日から沢はよく喋るし、ミキも聞きながら笑っているから、てっきり二人は同じ小学校の友達なんだと思った。
だけれどわたしと同じで、三人が三人とも、会話をしたのはその日が初めてだと知った。
なんとなく冴えなくて、友達のできない者たちがこうして集まったんだ。
それでも勇気を出して初めに声をかけたのは沢だった。
わたしは人見知りして、沢が話しかけてくれても「うん」とか「そうなんだ」ぐらいの返事しかできない。
それでも沢は何度も何度もわたしに話を振ってくれた。
そのうちわたしの緊張は解けて、心を開けるようになってきた。一緒に居るのが楽しいって思えた。
「あの!」
曲がり道のところで、わたしが言うと、二人は「ん?」とわたしの方を見る。
「わたし……こっちの道だから」
途中から帰る道が別れていた。
わたしはヘタクソな笑みを浮かべながら、自分の行く道を指さした。
すると、
「じゃあ、わたしもそっちから行くよ」
沢が、さも当然のように言う。
「わたしもそうする。どうせそっちからでも帰れるし。遠回りになっちゃうけど」
ミキもそう言ってくれた。
二人ともまだ子供で「気遣い」なんてつもりはなかったと思う。
その後の三年間、わたしたちはずっと一緒だった。
テストの結果なんか三人ともダメダメだけど気にしなくて、中三の夏まで進路のことなんか全然考えてなかった。
好きな男の子の話も不思議と出ず(沢とミキはその点で遅れていたし、わたしはなぜか思春期に入っても男の子に興味を持てなかった)、自分の理想をただ語るだけの「恋に恋する」ぐらいで満足できていた。
修学旅行は「できれば行きたくない」で意見一致してて、消灯時間の後こっそり沢の布団に集まって携帯ゲームをやったのが一番の思い出だ。
そういうのも全部、思い出だ。
「うぅ……まぶしい。部屋の明かりが、まぶし過ぎるよ……」
わたしはぐずっと鼻をすする。涙が頬を伝って流れた。