BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

『落としたら壊れちゃうんだよ』0923UP ( No.45 )
日時: 2013/09/23 14:49
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   二十六

翌朝、わたしは布団から出られなかった。
昨日のことがショックで、眠れないまま朝を迎えた。

携帯のアラームが鳴り出して、それを止めると急に眠気が来た。
学校、行きたくない。そう思うとすぐに寝ていた。


午後からでも出ようと支度するけど、制服を着たままベッドに座り込んで動けなくなってしまった。


ミキは何も知らないんだ。だから、私も知らないことにしておけばいい。

だけど——。

もう以前のようにミキを見ることができない。わたしの中に、どこかミキを見下している自分が居る。


わたしは力なくベッドに横たわった。

みんなは……沢や五十嵐さんは、今日も同じように日常生活できるのだろうか。
昨日までみたいに、ミキと友達らしく顔を合わせられるのだろうか。

わたしは沢の忠告を無視して、あのブログにコメントを入れなかったけど。

それでもし「やってないのはお前だけだ」みたいになって、自分がハブられても、それはそれで仕方がないと思っている。

でもショックだったのは、あのブログの存在だけじゃない。

沢がミキを「はめる」のを見せられてきたことがショックだった。

今はもう六月だ。
でも事の始まりは四月にはあったはずだ。

わたしが勇気を出して「やめようよ!」と言ってれば、こんな取り返しのつかないことにまでならなかったかもしれない。

わたしは最後まで勇気を出せなかった。自分の安全を考えていた。

ひとを傷つけて平気な顔してる人間なんだ。


その時、ぶるるると携帯が震動した。
朝にアラームを止めてから、ずっと枕の下にあった。

「なーんだ」

メールが来てると思ったら、よく行く店のクーポン券だった。

どうでもいい! と思ってわたしは携帯を放る。


ちょっと待って——。
『新着メール2件』って書いてあった気がする。


見ると、朝の十時頃に知った名前でメールが送られてきている。

あおぎりからだった。

本文は「今日来ないの?」だけ。

あっさりしているのが、あおぎりらしい。
わたしが学校を休んでも、決して余計な心配まではしないのだった。

今日は早めに学校も終わるはずだ。わたしは本気で、もう休んじゃえって思ってた。

このまま部屋から出ないで、不貞寝しようか。惰眠を貪ろうか。

それで夕飯の時間になったら、お母さんがいい加減に怒って呼びに来るだろう。

明日学校に行ったら、いや、行きたくはないんだけど、あおぎりが居るから。そうしたら会える。

何も変わらなかったことにして、明日からまた同じように日々を迎える。


……嫌だ。
今日、あおぎりに会いたい。


   ***


わたしは海辺に来ていた。
水平線に灰色の空が広がって、湿っぽい風が吹いてくる。


ここは、わたしがあおぎりと出会った場所。

まだ二ヶ月しか経っていない。

あの時もわたしは孤独で、自分に居場所がないと感じていた。
それで波打つ海に向かって、思いのタケをぶつけた。

人間関係なんてめんどくさい。わたしはひとりで生きてやる。ひとりぼっちなんか怖くないって。

ついでに、お腹が空いていたから「ラーメンライスに餃子が食いたい」とも。

誰も居ないと思って叫んだけど、堤防の真下にあおぎりが座ってて、それで聞かれちゃったんだ。

同じ制服、見覚えのある顔。そうだ、クラスのあおぎりさんだって思った。

海辺にひとりで居るあおぎりは、どこか醒めたような目をしていて、ひとりぼっちなのに、意志のこもったような瞳をしていた。

だけどわたしはその時、寂しかった。

友達が嫌で、学校や部活も嫌で、ひとりを選んだつもりだけど、やっぱり寂しかった。

そんな時にわたしはここであおぎりに出会ったんだ。

きっとあの瞬間から、わたしはあおぎりのことを……。


「長南」

息を切らして堤防に立つわたしを、あおぎりが呼んだ。

わたしは黙ったまま砂浜まで歩いていく。

「もう学校終わっちゃったよ」

「うん」

わたしは肩で息をしながら、それだけ返事した。心拍数が戻ってない。

「どうしたの。目、赤くなってない? 腫れぼったいよ」

あおぎりの顔が近づいてくる。

わたしは高鳴る胸に手を当てて、自分を落ち着かせようとする。でもできない。

「もしかして……泣いてた?」

心配そうなあおぎりの表情と言葉から、わたしは優しくされていることを感じた。

同時に起こるのは、今まで経験したことのなかったような気持ち。


わたしはあおぎりに抱きついた。


あおぎりの身体は細くて頼りなくて、背中の方にまで腕をまわすと骨にぶつかってるみたいだ。

背の高い子供に抱きついているような感じだった。

でも頬に当たる胸の膨らみはとても柔らかかった。

「……長南。大丈夫?」

「うん」

初めてひとと抱き合いたいって思った。

今まで他の誰にも感じたことのない気持ちを、わたしはあおぎりに抱いていた。