BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 君と僕と、ピンクとグレー。 ( No.11 )
日時: 2013/08/11 13:46
名前: 冬華 ◆tZ.06F0pSY (ID: 3Sm8JE22)

(星空、25とかくらい。社会人です。)


が、って鍵がささる音。がちょがちょ、じょきんっ、鍵が乱暴に開かれて、ばぁん!……がちゃんっ、ドアが開いて閉まって。

玄関がやたら騒がしい。 まぁ、その主くらいは見なくとも分かるのだけど。

どたどた足音が近づいて、部屋のドアも開いて閉まった。


「星!」

「おー、おかえり、っうわぁ」

エプロンをしたまま振り返ろうとしたら変な角度で体当たり混じりに抱きつかれる。

「ただいまぁっ…!」

「痛いよ空……。」


実に1ヶ月ぶりの再会、ではあるけどこれはひどい。
全く、俺はお前のおもちゃじゃないんだから……。

「ぅー星ー…。 会いたかった会いたかった会いたかったよぉっ」

ずるずると俺に抱きついたままずり落ちていく空。
俺のシャツも一緒に引きずられて、襟元が絞まってるんですが……。

「うん、俺も会いたかったってば、ちょ、くるしっ、」
「……ん、んん〜…っ …お腹、痛いぃ……。」

俺の言葉なんかお構いなしにぎゅうぎゅう俺のシャツを握り締める空。
なんだどうした、どっか故障しちゃったか。
不思議に思って上半身を屈めてその顔を覗き込む。


……泣きそうに眉毛を寄せて奥歯を食いしばった顔。うわぁ、どうしちゃったんだよ空。
いつもの綺麗な乳白色の肌はと言えば、白いなんて騒ぎじゃない色になっている。


「……おいおい、お前大丈夫かお前?」
「、っんんー……」

しんどそうな顔して、床にへたり込む空。少しは強くなったんじゃ、なかったのかよ。

「……そら?どう、…どーしたぁ?」

声がふにゃふにゃと揺れて、我ながら情けない。昔はこんなの、いつもだったじゃないか。
ほら、コイツの母親死んですぐの頃とか。 あぁもう、また余計なことまで思い出しちゃうし。。




「もう後半くらいからずっとだよ…薬飲んでも直んない腹痛がぁ……くそーほんっとに行かなきゃ良かったぁー。もう、恨むぅ…マネージャーのあほぉ、死ねぇ……」

人のベッドでうずくまってぐちぐちぐずぐずとうだる空。


コイツの職業は基本的自由業の芸術家。でっかい絵を描いたり、小さい切り絵してみたり、詩や小説を書いたり。

これが毎回驚くほどの額で買い取られて、小説なんてベストセラー。
普段本を読んだりする素振りは少しも見せないのに、書いたら書いたでベストセラー。

まぁ今回も、画家としての研修会やら自分の展示会回るやらサイン会やら、だったらしい。
美術館だとか、もう実は日本中でひっぱりだこだったりして。まだ若いのに!って、みんなが言う。

まったく、神さまは不公平だ。どんなに俺が必死に絵を描いても値なんか付きっこないのに、空がぼんやりした顔で描いたそれは億単位。

もとから俺は絵なんて描かないけどね。


あぁ、俺ってほんとだめだなぁ。ずるい、とか思って。





「んん……っ」

ちいさな声を漏らして俺の肩に額をすりつける空。
たかが1ヶ月でこんなになって、コイツこの先どうする気なんだ?

空の涙か、はたまた鼻水か、俺の肩はぐちゃぐちゃに濡れている。

「星ぃ、星……。」

虚ろになったミルクティー色の瞳。
淡いオレンジのランプが灯るだけの薄暗い部屋。なんだかたまらなくなって、ぎゅうっと空を抱きしめた。


ちくたく、ちくたく、夜の時間はゆっくりしっとりと過ぎてゆく。


「…星ー?」

しばらく、そうして自分のことを抱きしめたまま、静かになってしまった星。

きゅ、と痛んだ腹部に思わず顔をゆがめてしまう。
っ、とその服を握ると星は曖昧な声を漏らして自分ごとベッドに倒れこんだ。

「……星、?」

もしかしてこいつホントに聞こえてない?
ちょっと可笑しくて小さく笑うと、星が薄く目を開いた。

「そら、」

「なーに?」

「んー…んん…」

小さな声。 ちょっと掠れて、優しい低さの声が好き。
眠そうな瞳。ちろりとのぞいている赤みがかった茶色の瞳が好き。

そんな風に数えだしたらきりがないのに、声にして伝えられるのはほんの少しで。
その少しも、なんか好きって言葉で濁してしまってうまく言えなくて。

不器用でごめんね、そんな気持ちをこめて君のために絵を描くけどそれもいつも空振ってしまって。




眠っているのか寝ているだけか、そこまでは分からないけど星の寝顔。

何故かその顔がものすごく寂しそうだった。
気が抜けているようで変な部分力入っちゃってる、みたいなむずかしい顔。

まるで昔の自分を見ているみたいな苦い気分になって誤魔化すみたいにそのおでこに口付けを落とす。


離れる辛さもたまには、なんて。
そんな嘘を吐いて、僕を安心させようとしたの?


「ばかだなぁ……。」

寂しい時はさびしいって言ってくれた方が安心するし、そう言われたくらいで仕事をほっぽって家に帰るほどもう子供じゃない。

……数年前ならやりかねなかったから寂しいなんて言えないのかもしれないけどさ……。
昔にあった色んなことを思い出して、思わず少し苦笑した。


いつもごめんなさい、心配かけてさびしい想いさせて。

チョコレート色の君。優しくて甘くて、ちょっと意地っ張りな君。

とろけてしまうね、そっと微笑する。





ねぇ、聞こえてるかな??


「愛してる、」



そっと耳元でささやいて。聞こえてなくたって構わない。


離れる辛さもたまには、なんて。そんな嘘、もう二度と吐かせない。