BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

1028UP ( No.3 )
日時: 2013/10/28 17:29
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   『ひだまりスケッチ』乃梨×なずな


___解説___
蒼樹うめの漫画が原作。2012年に四度目のテレビアニメ化。
山吹高校に通う主人公たちが「ひだまり荘」というアパートに住んでいる。
ゆのと宮子は二年生。
乃梨となずなは一年生で、アニメでは三期の「ひだまりスケッチ☆☆☆」に初登場。



   ***



なずなは宮子先輩とゆの先輩が羨ましかった。

二人はとても仲が良い。今も宮子先輩は猫でも膝に乗せるような感覚で、ゆの先輩を後ろから抱っこしている。

自分も乃梨ちゃんに背中から抱かれたら、どんな気分だろう。

なずなはギュッと拳を握ると、先輩たちとお喋りしている乃梨にぎりぎりまで近寄る。

そして無言のまま、乃梨に背中をあずけた。

「ちょっ……なずな?」

乃梨がビクンと反応した。

宮子先輩とゆの先輩もこっちを見て驚いている。

「な〜ず〜な〜!」

乃梨が声を出すと同時に、なずなはドスンと床に倒れ込んだ。

乃梨が嫌がるように身体をどかしたのだった。


「い、いきなり何するんだよぉ!」

乃梨は顔を真っ赤にしていた。

「ごめん……乃梨ちゃん」

「せ、先輩たちの目もあるってのにさ」

乃梨がシュンとなって顔をそむける。

「おー、なずな殿。よければわたしのところへ来るかい」

宮子先輩が手招きした。

「いいんですか」

「うん。いいよーそれぐらい。ごめんゆのっち、ちょっとどいて」

ゆの先輩が宮子先輩の膝から離れた。

空いた席に、なずなは遠慮がちに座る。

本当は乃梨ちゃんの背中がよかったんだけれど。

あ、でも宮子先輩に背中をあずけると、温かくて柔らかくて、とても気持ちいい。ひだまりの中に居るみたいだ。


「どうだね、なずな殿?」

「はい〜。気持ちいいです」

「ちょっと宮子先輩、なずなとくっつき過ぎです!」

「いいじゃないの。乃梨っぺにはゆのっちをあげるからさ」

宮子先輩は笑って、乃梨ちゃんは怒っていた。「あげる」と言われたゆの先輩は、ただただ苦笑いしていた。


その後、解散するまで不機嫌のままだった乃梨に、なずなは心配になって「ごめんね」と言ったが、乃梨は「何が?」と言って睨みつけてくるだけだった。



なずなは自分の家に帰って、夕飯の支度をする。

「あっ、唐揚げ作り過ぎちゃった」

乃梨のことを考えていたら、揚げ物バットの上に食べきれないぐらいの唐揚げができていた。

「乃梨ちゃん、夕飯まだかな」

窓を開けてみた。

なずなの住む203号室のすぐ真下が乃梨の103号室だ。

換気扇から夕飯の匂いがしてこないかと思ったが、何も分からなかった。

なずなはフローリングの床に耳を当てた。冷たい床に頬がぺったりくっつく。

しかし何も聞こえてこなかった。

「乃梨ちゃん、何してるんだろう」

結局、何もできないまま夜が更けていった。

明日にはこの気まずさを解消したい。

そう思いながら、お風呂に入って、出てくると、リビングの照明が付かなくなっていた。

停電か? しかしテレビは付く。

蛍光灯が切れたみたいだが、これは先日に買い替えたばかりだ。

「どうしよう。買い置きもないし、わたし、明かりがついてないと眠れないのに……」

あとは寝るだけと思っていたのに、暗いのが怖くて眠れなくなってしまった。

テレビの音量を上げてみるが怖いことに変わりはなかった。

その時——。


コンコン。


「ひぅっ……!」

玄関のドアを叩く音がした。なずなは身体をちぢこませる。

トン、トン、トン。

今度は遠慮がちなノックの音。

変なひとだったらどうしよう。帰って。帰ってよぉ!

トン、トーン、トーン。

「…………!」

なずなは布団をかぶって震えた。

それでもまたトントントン。三回叩く音がする。

「……あれ? このリズムはもしかして?」

「な〜ず〜な〜」

トン、トーン、トーン。
三回叩く音に合わせて、小さく自分を呼ぶ声がした。


「乃梨ちゃん!」

玄関のドアを開けるとそこには乃梨が立っていた。

「ごめん。もう寝ちゃってた?」

「うんん。まだ起きてたよ」

「え? だって部屋、真っ暗じゃん。っていうかなずな、寝る時でも明かりついてないとダメなんじゃ?」

なずなは、お風呂に入っている間にリビングの照明がつかなくなっていた事情を話した。

「そうなんだ。わたしがちょっと、見てあげるよ」

玄関のドアが閉まった。

なずなが前を歩いて、二人は部屋の奥へと歩いていくが。


ギュ——。


なずなの肩にまわされる乃梨の腕。

「なずな……さっきはごめん」

乃梨の寂しそうでかすれるような声が、耳元でささやかれる。

「乃梨ちゃん……」

「わたしだってなずなとしたいことあるけど、人前じゃできなくて。恥ずかしいんだもん。ごめんね」

背中から、乃梨の温もりと香りが伝わってくる。

後ろからなので顔は見えないが、声からもその表情が読み取れた。


部屋は相変わらず暗いままだった。

さっきまで怖かったはずが、今はもう少しだけ、暗いままであって欲しいと思ってしまう。

「わたしの胸、宮子先輩みたいに豊かじゃないんだよ」

「ううん。充分。乃梨ちゃんだって大きいもん。わたしやゆの先輩なんかよりは」

「ゆの先輩は比較対象として、どうなのかな」

照れ臭さに耐えきれず、つい先輩の話をしてしまう。

それもいつしか止んで、二人はお互いの温もりを伝え合う。



パチン。チカチカ——。

「あ、電気ついた」

ベッドで寄り添う二人を、真っ白な明かりが照らした。

「蛍光灯、ゆるんでたみたいだね。カチンって音が鳴るまでしっかりハメないとダメなんだよ」

「そうなの……わたし、よく分からなくて」

「よしっと。これで大丈夫! なずなも寝られるでしょ。わたし、今日はもう帰るから」

あくびを一つして、乃梨は玄関の方へ歩いていく。

「あ、あのね乃梨ちゃん!」

「なに?」

「実は、唐揚げを作り過ぎちゃって……明日はお弁当にしようと思ったんだけど。乃梨ちゃんの分も作っていい?」

「本当? もちろんいいよ!」

乃梨は笑顔で応えた後、去り際にも一言。

「たーだーし、宮子先輩に嗅ぎつけられないように。わたしたち二人だけでね」

一瞬の間を置いて、その意味を理解したなずなが、くすっと笑った。