BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ラブライブ二次1(3月1日更新) ( No.109 )
- 日時: 2016/03/01 14:47
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: utrgh/zS)
『ラブライブ!』花陽×? 1
___【解説】___
始まりは雑誌『G'Sマガジン』の2010年7月号から。
曲の発表や声優たちのグループ「ミューズ」のライブ活動などから人気が上昇。
二度のテレビアニメ化に加え、2015年には劇場版も公開。
残念ながらミューズの活動はこの春で終わりということらしいので、筆者としては一度は二次創作を書いて残そうと思いました。
ちなみに今回の登場人物は、花陽、穂乃果、ことり、海未、凛の予定です。
***
私——小泉花陽は、生まれて初めてアルバイトをすることになりました。
穂乃果先輩、海未先輩、それからことり先輩。
大好きな三人の先輩たちと一緒です。
今回は、そんな高校一年生の夏休みの話です。
八月某日——。
ここは秋葉原にある伝統校、音ノ木坂学院。
今日は登校日だというので学校に来てみたけど、授業もないし、来てる生徒は少ない。
真姫ちゃんが海外旅行で日本に居ないのは分かるとしても、凛ちゃんまで居ないなんて。
凛ちゃんが居ないなんて……。
私は真っ直ぐ帰るのが嫌で、なんとなく廊下を歩いていた。
あちこちの窓が開けっぱなしになっていて、吹いてくる風が暑さをやわらげてくれる。
「夏休みまだ半分もあるよ。暇だーッ!」
ドアの開いた教室から、聞き慣れた声が聞こえてくる。
二年生の、穂乃果先輩だ。
「私は部活もあるしそんなことないですけど」
それに応えている、このゆっくりした感じの喋り方は、海未先輩。
「暇とかいうなら、勉強して普段の遅れを取り戻したらどうです。夏休みの課題は進んでいるの?」
「ぇえッ? そ、それはちょっと……そうだ! アルバイトとかしてみればいいじゃん!」
「アルバイトですか? 私は必要ないですけど。他にやることありますし」
「そんなこと言ってないで、海未ちゃんもしようよ。暇なんだよー」
「穂乃果だって勉強すればいいじゃないの。だいたい、夏休みが暇だなんて高二の言うことじゃないわよ」
「社会勉強だよ、海未ちゃん! 机に座ってるだけじゃ学べないことがあるよ」
「それは、そうかもしれませんけど」
「机に座ってるだけじゃ見えない景色があるよ」
「あなたの場合は机に座ってるのが嫌ってだけでしょ」
穂乃果先輩は海未先輩を説得しようと熱くなり机にダンと手をついて顔を近づけていたが、やがて私が教室のすみから覗いていることに気づいた。
なんとなく出ていきづらくて身を引っ込めたら、「花陽ちゃーん」と穂乃果先輩が手を振って私を呼ぶ。
「ぐ、ぐうぜんですね」
「ここ二年生の教室だよ。今日は凛ちゃんは?」
「来てないです」
それが寂しくて、つい私もここへ来てしまった。でもそんなことは言えない。
「そっかー。登校日だってこと忘れてるのかもしれないよね。そういえば花陽ちゃん、アルパカの調子はどう?」
「は? アルパカ?」
私は穂乃果先輩が言った言葉を頭の中で繰り返す。
あるぱか、あるぱか……トルコあたりの言葉だろうか。
「なーに言ってんの、アルパカだよ。飼育小屋のさ」
「はッ!」
そうだ。動物のアルパカだ。アニマルの方だ。
私の顔は驚きで青ざめていたかもしれない。
「もしかして忘れてましたの?」
海未先輩が心配そうに言う。
「い、いえ、そそそんなわけないじゃないですか」
そうでした。私は校内でアルパカの世話をしていたんです。
でも安心です。あとで様子を見に行ってみたら、アルパカはしっかり“生存”してました。
エサはとっくになくなって、水を入れるタライさえ渇ききっていましたけど。
「今ね」
穂乃果先輩が話しを戻す。
「夏休みにアルバイトしようって海未ちゃんと話してたんだけど、海未ちゃん乗り気じゃなくて」
「そうなんですか」
「だって、どんな仕事するのかまだ分かりませんけど、お客さんの前に出ていく仕事だとうまくやれるかどうか……」
「大丈夫だよ。お客さんだっていいひとばかりだから」
「それは、穂乃果は自分の家が和菓子屋で慣れてるからいいでしょうけど。私は穂乃果みたいにできません」
海未先輩は自信なさげだ。
学校の中では、自分に厳しくて、真面目な方なのに。
スクールアイドルとしての海未先輩も自信に満ちて、キラキラしていて、私はとても好きだけど。
外に出て仕事するってことに関しては、まだ人見知りみたいところがあるのかな。
「そっか。分かったよ」
穂乃果先輩がそっと言い渡し、今度は私の方を見る。
「じゃあ花陽ちゃん、一緒にやろっか」
ポンと私の肩に手を置く。
「え?」
「二人で外の世界を見に行こうよ」
「でも……」
「二人で大人の世界を見に行こうよ」
穂乃果先輩が私を見つめている。
いつでも、誰よりも高くて広い世界を見ている、穂乃果先輩のまなざし。
目力に吸い込まれてしまいそう。
このひとは、普段は子供っぽいけど、たまにこうして誘引力があるんだ。
「穂乃果さん……」
私の中で答えは決まった。でも、ただこうしていたくて、言葉が出せない。
そこへ海未先輩が口をはさんできた。
「待ってください、穂乃果」
海未先輩がわざわざ穂乃果さんの手を引いて、自分の方に向かせる。
「やっぱり私もやりますわ」
言い終わってから、二、三秒の沈黙。
すると穂乃果先輩は急に表情を崩し、「なーんだ。よかったよかったー」と、またいつもの元気が有り余った先輩に戻っていた。
私の肩には穂乃果さんの手の感触が残っている。胸が少し高鳴っていた。
(つづく)