BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ラブライブ二次2(0302更新) ( No.110 )
- 日時: 2016/03/02 17:54
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: utrgh/zS)
「ラブライブ!」花陽×? 2
「んー、まず何すればいいんだろう」
穂乃果先輩と海未先輩、それに私の三人でアルバイトをすることが決まった。
私は巻き込まれた感じだけど。お小遣いが増えるのは嬉しい。
「ネットで探すんじゃないですか」
私は軽く手を上げ、提案してみた。
「そうですね。あとは履歴書を作成したりするんでしょうけど……やったことないですよね」
海未先輩が穂乃果先輩と私の顔を順に見回すが、誰も経験はなかった。
どうしたものだろう。
三人とも困っていたところに、救世主はやって来た。
「みんなで何してるのー?」
普通からワンテンポだけずれたようなキュートな声。
ことり先輩だった。
落ち着いた物腰でニッコリ微笑みながら穂乃果先輩と海未先輩に話しかける。
ついでに私のこともちらっと見る。
今日もかわいい。ことり先輩は、二年生の中でもまた独特なひとだ。
「ことり、実は私たち夏休みだけアルバイトしようかって話してて」
「アルバイト?」
ことり先輩は、一瞬、なんのことか分からないような顔をして言った。
「それって非正規雇用とかの、あのアルバイト?」
「そうです」
「夜中に牛丼よそってばかりいる、あのアルバイト?」
「それはすき家か松屋のアルバイトですわ」
「吉野家を忘れちゃいけないよ、海未ちゃん」
「どうでもいいですわ! いずれにせよ、高校生じゃ夜中はできないですよ」
海未先輩は、とりあえず思い立ったまではいいけど、まず何をすればいいのか分からないことを、ことり先輩に話した。
ことり先輩はうんうんと頷いた後で、楽しそうに笑う。そして、
「だったらさ」
こほん、と咳払いして言った。
「二人とも、私のお店に来ればいいんだよ」
「え? いいの?」
穂乃果先輩が聞き返す。
「いいよ」
そうだった。
ことり先輩は秋葉原のメイドカフェ「キュアメイド喫茶」で働いているのだった。
いわばアルバイトの先輩。
さらに“みなりんすきー”と呼ばれる、カリスマメイドでもある。
「その……私と海未ちゃんだけじゃなくて、花陽ちゃんもなんだけど」
「そうなの? いいよ。じゃあ三人とも来なよ」
なんという太っ腹。
話しによれば、今は夏休み期間中だから学生のお客さんで繁盛するらしい。
ことり先輩のお店は女性客が多い。それが他のメイド喫茶と違うところであり、人気の秘密でもある。
「よかったですね。渡りに舟ですわ」
「ほんと、ことりちゃんが居て助かったよー」
ことり先輩は胸を張って「ハハハ、いいってことよー」とふざけてみせる。
なんだか、あっさり決まってしまった。人脈の力、おそるべし。
とりあえず私は「用事があるので」と、なんでもない顔で退室し、そこから全力疾走。
飼育小屋まで息を切らせて走った。
アルパカがものすごい勢いでエサを食べている。
そりゃもう、エサ箱に顔を突っ込むほどの勢いで。
「ハァ…………」
私はそれを眺めながら、ちょっと溜息。
初めてのアルバイトが不安なのと、それから凛ちゃんが居ないのと。
凛ちゃんも誘いたかったけど、さすがに遠慮した。
ことり先輩は二年生の二人だけでなく、おまけの私まで受け入れてくれたのだから。
とにかく、凛ちゃんが居ないのは寂しいけど、頑張ろう。
「アルパカ元気ー?」
「わッ」
いきなり声をかけられ驚く。
振り向くと、ことり先輩が居た。
「えへへ、夏休み中だから花陽ちゃんアルパカのこと忘れてるんじゃないかと思っちゃった」
「そ、そんなことないですよー。ちゃんと面倒見てます」
「えへ、もちろん冗談だよ。でもアルパカってラクダに似てるから、お水がなくても生きていけるんじゃないの?」
「ないです」
それにラクダでも水がないと生きていけません。
「実はね、花陽ちゃんにも履歴書を作成して欲しくて呼びにきたんだ」
ことり先輩の手には大きめの茶封筒。中には真新しい履歴書が入っていた。
「履歴書ですか……。いったい何を書けばいいのやら」
私は襟足を指でよじるようにしながら、言う。
「他の二人も同じだから大丈夫だよ。仕事は全く初めてだし、学校だってみんな一緒じゃん。でも顔写真ぐらいは欲しくてさ。むしろ、それさえあれば一発合格だよ」
顔写真にどれほどの威力があるというのか。ことり先輩は自信満々に言う。
「アハハ。それで、面接はいつですか」
「要らない」
「え? ほんとーですか?」
「店長には私から言っておくから。三人とも、明日から来て欲しいな」
「明日から……ですか」
「どうしたの? 心配なの?」
「……はい。全くないと言えば、嘘になってしまいます」
ここまで、なんとなく楽しい雰囲気でポンポン決まってしまったが、いざ始まると思うと、不安にもなってしまう。
ことり先輩はパッと明るい表情になって背筋を伸ばし、
「私は楽しみだよ」
と言って微笑んだ。
「それは、友達が一緒だからですか」
「うん。友達というか、穂乃果ちゃんや海未ちゃんだからかもしれない」
ことり先輩は身をひるがえし、片方の手を手すりの上に置いた。
そうしてもう片方の手は自分の胸に当て、遠い校舎の方を見た。
「ミューズはもちろんだけど、メイド喫茶も、私にとっては大切な空間なの」
私は、ことり先輩が自分の居場所や空間をとても大切にするひとだというのを思い出した。
「だけど最近、お店があんまり楽しくないんだよ。新しい子が入ってもすぐ辞めちゃうし、長く居る子は長く居る子で、仲も良くないし」
ことり先輩は嫌なことでも思い出したような表情をしたが、私の方へ振り向くと、すぐにまた明るい表情で、
「今のお店に穂乃果ちゃんや海未ちゃんみたいな子が入れば、変われる気がするな。お店も、そして私も」
と言った。
変われることを願うことり先輩。
穂乃果先輩と海未先輩が、その助けになれるといいな。
お仕事の時のことり先輩がどんなことり先輩なのか、見てみたい。
風が木々を揺らす音に気づいて顔を上げると、緑の葉がそよいでいた。
深く息をすると気分が落ち着いて、これからのことを考えたくなる。
「穂乃果先輩と海未先輩は部室ですか? 行きましょう。アルパカの世話はもう済みました」
「うん。顔写真はスマホで撮ったのをプリントアウトすれば簡単だから。残るはこれだけだね」
そう言ってことり先輩は履歴書の入った茶封筒をかざした……つもりなのだろうが、手には何も持っていない。
そういえば、ちょっと前からことり先輩はずっと手ぶらだった。
「さっきの封筒、どこへやりましたか」
「あれー? おかしいなー」
ことり先輩はにぎり拳を胸に当てて、左右を見やる。
「なーーーーーーうッ!」
声をあげたのは私だった。
封筒のある場所を、ビシッと指でさす。
どっかへ置いたままだと思ったら、アルパカがくわえていたのだ。
いつの間にかエサを入れる大きなタライの中に落ちていたのかもしれない。
アルパカがくわえてムシャムシャやり出したところを、慌ててひったくる。
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ」
息を切らす私の横で、ことり先輩がのんびり言った。
「やっぱりヒツジに似てるから紙も食べるんだね」
「食べません。それと紙を食べるのはヒツジじゃなくてヤギです」
「んー。ラクダでもないし、ヒツジでもない。じゃあアルパカって、一体なんなの?」
「ア・ル・パ・カ・です!」
「アニマルの方の?」
「そう。アニマルの方です」
二年生の先輩は、こうやって私から不安を忘れさせてくれる。
その後は穂乃果先輩たちとみんなで明日の準備をした。
写真付きの履歴書もうまくできたし、ことり先輩も、今度こそ無事に持って行ってくれるだろう。
家に帰って、夜、お布団に入る時には、もう大丈夫だって思えた。
あんな夢さえ見なければ、ね。
(つづく)