BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ラブライブ二次0327UP ( No.112 )
日時: 2016/03/28 01:32
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)

   「ラブライブ!」花陽×? 4



夏の夜明けは早い。まだ六時前だったのに、外が明るくて二度寝ができなかった。


それでもゆっくり支度をしていたら、けっこうぎりぎりの時間になってしまった。

小学生の頃から毎日通っている近所の道を、今日は仕事へ行くために歩く。

今日も朝から三十度近かった。暑い。


「あー、かよちん。どこ行くのー」

「凛ちゃん」


たまたま出会ったのは、同級生の凛ちゃんだった。


カラフルな袖なしTシャツのサイズはちょっと大きめで、下着なのか何なのか、細い肩ヒモが首のまわりに見えていた。


凛ちゃんは季節を楽しむように「今日も暑いねー」と、当たり前のことを感情込めて言う。


「凛ちゃんこそ、どこ行くの」

「んー、私はただコンビニにアイスとカップラーメン買いに行くだけだよ」

凛ちゃんはそれより私の目的が気になるらしく、「で、かよちんはどこ行くにゃ」と、目でとらえて放さない。


私は自信なさげにバイトのことを話した。

あくまでも穂乃果先輩に巻き込まれてそうなっただけ、というように。


「えー、それってかよちんがメイドさんってことー? 行く行く! 午後行くにゃ」

「い、いいよ恥ずかしいから……」

「ううん。行くしかないにゃ。どうせ暇だし」


凛ちゃんはがんばる私を想像しているかもしれない。

でも今の私が想像するのは、凛ちゃんとだらだら過ごす一日だ。

冷房の効いた部屋で、凛ちゃんと一緒に冷たいフローリングの上に寝そべったり、部屋ににおいが充満するのも構わずにカップラーメンを食べたり。

昨日、穂乃果先輩が何も言い出さなければ、あるいはことり先輩が誘ってこなければ、今日は全く違った一日になったかもしれないのに。


「かよちん、表情が良くないよ」

凛ちゃんが心配そうに私を見ていた。

「そ、そうかな」

「うん。困り顔のかよちんじゃ、ダメだよ」

そうか。今の私は「困り顔」になっていたのか。

凛ちゃんのことを思っていたらそんな表情になっていたわけだけど。

目の前の凛ちゃんはそんなこと、知らないよね。

「メイドさんに変身したら、表情だって変えないとね。凛の勇気と元気を、かよちんにあげるにゃ」

凛ちゃんは自分の胸に手を当てた。

そして「はい」と、その手を私の胸にポンと置く。

私はなんて言っていいか分からずに黙り込んだ。でも胸はドキドキしていた。

一瞬の間を置いて、凛ちゃんが苦笑いして言う。

「えへへ。夏休みでだらけちゃって、ちっとも使ってない勇気と元気だにゃ。かよちん、代わりに育ててあげて」

凛ちゃんからの、応援メッセージ。

「……録画しないと」

「え?」

「録画するから、応援メッセージちょうだい! 私に!」

私はスマホを取り出した。起動時の暗証番号をブラインドタッチで入力し、カメラモードにして凛ちゃんに向ける。

凛ちゃんは「あはは何それ」と笑っていたが私が本気だと分かると笑うのをやめ、ポーズや表情を気にしはじめる。

私は震えそうになる手を、もう片方の手でおさえた。


「んー、なんて言ったらいいかにゃ」


凛ちゃんが髪をいじりながら言った。コンビニに行くだけだった凛ちゃんは、寝癖もほとんどそのままだった。

私はいつだったか、凛ちゃんにこんな決めセリフがあったのを思い出して言った。

「あれやってよ、『勇気りんりん、あなたの凛です!』ってやつ」

「そんなのあったかにゃー?」

「え?」

そっか。流行らなかったから本人も忘れちゃってるのか。


やっぱり「にOこにこにー!」には勝てないか。

脳内で、あのツインテールの先輩のかん高い「にOこにこにー!」の動画が再生される。

終わったと思ったら、すぐに最初からリピートされる。

ウインドウごと閉てしまおう。左クリックで。これで安心。


「かよちん!」


凛ちゃんがハキハキと喋り出す。


私はまばたきを止めて、スマホの画面で凛ちゃんをとらえ続ける。


「今日の終わりには、万世橋から夕暮れでも眺めながら、今日の楽しかったことを私に話して聞かせてね。それまで凛の勇気と元気をあずけておいてあげる!」


凛ちゃんが片目を閉じてカメラをのぞき込み、ポーズを決める。


風が吹いて、植木鉢のたくさん並んだ民家の方から緑の匂いがした。


私がそのまま録画し続けていると、凛ちゃんは静寂を破るように猫のポーズで「にゃ」と付け足した。



「やっぱり恥ずかしいから今のなしぃ!」



凛ちゃんが手を横に振る。

私はくるっと振り向いて「保存」のボタンを押した。

まばたきを忘れていた目を、パチパチとさせて潤す。

凛ちゃんがすぐ背後に迫ってきてスマホの画面をのぞき込もうとするが、私は距離を取って、


「いただきました」


にやける口を、スマホで隠しながら言う。

「んもー、誰にも見せないでよ?」

語尾の「でよ?」と同時に首をかしげる凛ちゃんに対し、私はなおもスマホで口元を隠しながら、

「もう時間ですし。失礼します」

機械的に言葉を発していた。口は隠しても、目がにやけていたかもしれない。


じゃね、と手を振ると凛ちゃんが「行ってらっしゃい」と返すから、私も「行ってきます」と言い直した。



(つづく)