BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

LL二次0405更新分 ( No.113 )
日時: 2016/04/06 00:24
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)

   「ラブライブ!」花陽×? 5‐1



まだ朝の九時——。

早い時間の秋葉原は気持ちいい。

空気もまだ綺麗な感じがするし。昼過ぎにはここがひとでいっぱいになるだなんて信じられない。


駅を出てすぐ見えるビルに備えつけられた巨大なモニターには、A-RISEのMVが流れていた。

やっぱりかっこいい。

私の今日の活動はスクールアイドルとは違うけれど、がんばろう。


せまい路地に入っていったところにある雑居ビルの二階が私の働くお店だ。

急な階段をのぼっていくと「キュアメイド喫茶」の扉がある。

古いビルだけどお店の中は新しくていかにもリフォームしたばかりという感じだった。かるーくアロマ的な匂いがする。

真っ白な壁には従業員らしいメイドさんたちの写真が貼り付けられていて、その中に私はミナリンスキーを見つけた。

やっぱりことり先輩が一番かわいい。


「おはよ、花陽ちゃん」


と思ったら本人が目の前に居た。

「おはようございます」

「慣れない仕事をすることになるけど、昨日はちゃんと眠れた?」

「え、ええ……大丈夫です」

そう言われて、自分が寝不足なのを思い出した。


確か、嫌な夢を見て目が覚めてしまったような気がするけれど。


私は見た夢の内容を忘れてしまう方だ。なんだか悪い夢を見たというのは覚えてるけど、その夢の内容が思い出せない。


まあ、忘れてしまうのは、忘れた方が楽だからかもしれない。


「今日は三人が来てくれて助かるよ。うちは多い時で八人くらいメイドさんが居たんだよ」

ことり先輩が話すのを聞きながら店の奥へと歩いていく。

「休憩室のすみっこがカーテンで仕切られてるからそこで着替えて」

ムダに重い扉を開けると「海未ちゃんメイド服似合ってるよ」「恥ずかしいからやめて」と、二人の声が聞こえてきた。


「穂乃果先輩、来てたんですね!」


私が大きな声を出すので、みんながこっちを向く。

「良かった……」

私がいちいち嬉しそうに言うと、穂乃果先輩は、

「来てるけど、なんで?」

と当たり前の反応をする。

「ふふ。穂乃果、遅刻するのが当たり前みたいに思われてませんか?」

海未先輩が笑うと、穂乃果先輩は「なにそれー」とむくれて私を肘でつついてきた。


「アハハハハハハ」


なぜか笑ってしまうほど嬉しい。

穂乃果先輩が遅刻しないで来てくれただけなのに、心から安心する自分が居た。


LL二次0405UP分 ( No.114 )
日時: 2016/04/06 00:25
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)

   「ラブライブ!」花陽×? 5‐2



「じゃあ一人ひとり、自己PRの動画を撮るよー」

ことり先輩がいつの間にかビデオカメラを片手に構え、液晶モニターをカパッと開く。

「それぞれ一分程度の自己紹介をしてもらって、その映像を一日に何度かお店の画面で流すからね」

自己紹介——つまり、あのカメラの前で独りで喋れってことだ。

私はスクールアイドルまでしているくせに、いまだに人前で喋ることとか苦手だ。

どうしよう。ちょっと不安。

「じゃあ花陽ちゃんからやってみよっか」

「ええッ? そそんな。私なんか。私なんか」

手をパタパタ振って遠慮する私を見て穂乃果先輩が、

「花陽ちゃんは緊張してるみたいだから、私からいこうか」

と提案する。

私も「そうして」と目で訴えた。

しかし、

「んーとね」

ことり先輩は穂乃果先輩と私を見比べてから言った。

「大丈夫。花陽ちゃん、やってみな」

変わることはないようだ。

言われたからにはやるしかない。


「えっと……えっと」

やるしかない。そう意識するほど。

「…………………」

何をしゃべればいいか、余計に分からなくなってくる。

どうしよう。沈黙を作っちゃダメだよぉ。

やっぱり穂乃果先輩に代わって欲しかった。


「焦らないで、花陽ちゃん」


録画中の動画にことり先輩の声が入った。


「難しく考えないで。普段の七割まで出せれば、もう大丈夫だよ」


そう言うことり先輩は決して私をテストするような目で見ていなくて。


私ができるまで、ただ待ってくれているみたいだった。


「は、はじめまして……カヨといいます」

私はつぶやきながら、チラ、チラとカメラの方を見る。

「得意科目は日本史と家庭科で、学校で飼っているアルパカの世話もしています」

なんとなく学校での自分の紹介から入っちゃったけど、長くなり過ぎるかな。

ちなみにカヨというのは私がお店で使う名前で。

「ハナヨ」よりカヨの方が愛称っぽくていい、ということだった。

穂乃果先輩と海未先輩は普通にカタカナにして「ホノカ」「ウミ」ということになった。

あれ? それでことり先輩は「ミナリンスキー」?

カヨ、ホノカ、ウミ、ミナリンスキー。

一人だけ、ロシア人だか宇宙人だか分からない名前になっちゃってるけど。

まあいいや。


「じ、実はこういうお仕事は初めてで……」

私は続けた。

「えっと……他の子たちみたいにうまくできるか不安で、もしかしたら、もしかしたらすぐクビになっちゃうんじゃないかって」

カメラの向こうで、穂乃果先輩と海未先輩が心配そうな顔をしているのに気づいた。

いけない。ちょっとネガティブになっちゃった。

穂乃果先輩が手を口の横にかざして、口パクで何か言っている。

助言をしてくれているのだろうけれど、なんて言っているんだろう。

その口の動きから、「ぴーあーる」つまり「PR!」と言っていることが分かった。

その瞬間、

「お店のPRもお願いね、カヨちゃん」

ことり先輩が普通に声に出して言った。「えッ! 喋っていいの?」と驚く穂乃果先輩だが、ことり先輩はそれには応えず、

「お客さんを想定して」

と指示を出す。

「ご、ごめんなさい……」

って、謝ることなんかないか。もっとポジティブにならないと。


よし。PRね。

このお店の良さなら、言いたいことがある。


「みなさん、このお店のメニューはご覧になりましたよね? カヨのおススメは、ずばり『ライス』です」

ここへ初めて来たのは今朝のことだけれど、既に私は目をひかれていた。

このお店には、「ライス」の単品がある。それも税込200円で、決して高いお値段ではない。

「メイドカフェっていうと、ご飯モノにしてもオムライスとか、カレーライスあたりが思い浮かぶんですけれども」

私はカメラの前で、考える仕草をする。


頭の中にイメージされるのは、子供っぽい絵に描かれた、山のような形をしたオムライスに、カレーライス。


だがそれ以上に大きな存在感を放つ、ホカホカの白いご飯。


その隣に置きたいのは、メイドカフェとは思えないほど豊富で本格的な、ここの料理。


「ここにはハンバーグだけで数種類もあります。他にもオカズになりそうな料理がいっぱいあって、迷うくらいなんです」

さっき、テーブル脇にあったメニューにザッと目を通したのだった。

ほんの斜め読みだったけれど。あれを思い出して喋る。

「どんな料理にも合う白いご飯は、カヨにとって魔法のパートナーです。みなさんもぜひおかわりしてみてください。そして二度でも三度でもご来店してください」


そこで言葉は終わった。

できるだけ嬉しそうに微笑んで、軽く首をかしげてみせる。

お店の宣伝を意識していたつもりが、いつの間にか自分がしたいことを率直に口に出すだけになっちゃったかな。


「……ハイ! OKだよ、花陽ちゃん」

ことり先輩が撮影の姿勢をやめて、満足そうに言ってくれた。

「ほんとですか? そんなにうまくいったとは思えないんですけど」

「うんん。お店のPRにしては、これ以上なかったんじゃないかな」

私にとってはちょっと意外な反応だった。

しかし海未先輩までもが誉めてくれる。

「花陽本人が、自分も本当にそれを好きでおススメしてるというのが伝わってきました。お客さんと同じ目線になれた時、宣伝の効果は非常に大きくなるものだと思います」

「あ、ありがとうございます」

なんだか変に評論家みたいな喋り方だけど、とりあえず良かったってことだろう。

「すごいよ花陽ちゃんは!」

穂乃果先輩も言ってくれる。

「お店のメニューをもう覚えちゃってるんだね。ゆっくり見てる暇なんてなかったはずなのに。すごい記憶力だよ!」

「そ、それは……」

素直には喜べないことだった。

だって、食いしん坊みたいだもの。

私、普段はべつに記憶力がいいなんてことないし。

「食いしん坊万歳じゃないですか」

「は?」

海未先輩がまるで私の心を読んだかのように言うので、私は「は?」としか言いようがなかった。

「魔法のパートナーという例えも、良かったですよ」

「あ、あれはですね……」

スルーされることなく、こうして誉められると逆に恥ずかしい。


さすが海未さんは作詞もしてるひとだから、耳に残っちゃったか。


白いご飯は魔法のパートナー。


実はこのフレーズの誕生には、凛ちゃんとのエピソードが関係しているのだけれど、それはまた、別のお話だ。



(つづく)