BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ラブライブ二次0413UP ( No.115 )
日時: 2016/04/14 01:15
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)

   「ラブライブ!」花陽×? 6−1



「じゃあ次は私だね!」

穂乃果先輩がスッと迷いなく進み出てくる。
ことり先輩がカメラを向けた。


「はじめまして、ホノカといいます。得意科目は……えーっと、そうじゃなくて、好きな科目は音楽です!」

お勉強が苦手な穂乃果先輩は、得意科目を「好きな科目」と替えて言った。

「歌うことが好きです! それと、他に趣味は……」

「他人に水をかけることですか?」

海未先輩が言った。穂乃果先輩は画面の外に向かって「違うでしょどう考えても!」と言い返す。

というか、自己PRといってもこうやって普通に会話していいんだ。

「聞いたところによると、穂乃果の家の前で水をひっかけられた被害者が居るとか」

「あれはわざとじゃなくて、水を撒いてたら少しかけちゃっただけ。ほのかの家はお店をやってるから常に綺麗にしておきたいのと、通りかかるひとが少しでも涼しい気分になってくれればと思って撒いてたの。確かに不注意だったけど……」

穂乃果先輩は「えっとそれからそれから」と言葉をつなぎつつ、続けた。

「好きな食べ物は、いちごです!」

「本当ですか?」

また海未先輩だ。

「ほんとだよ! なんで疑うのさ!」

「ごめんなさい。でもいちごが好きって、アイドルっぽ過ぎて……それに穂乃果は和菓子屋の娘でしょ」

「うんん。あんこなんか飽きたもん」

「みたいですね」

「そこは疑って!」

穂乃果先輩は「もー、さっきから海未ちゃんいじわるだなー」と画面の外へ困った顔を向けて言う。撮影中でなければ海未先輩の肩にでも抱きつきに行っていそうだ。

「穂むらのお菓子に、飽きなんか来ないよ」

穂乃果先輩はカメラを見すえると、大好きな家族の話しでもするみたいに言う。

古くから続く和菓子屋「穂むら」の看板を背負うひとなんだ、と思った。

「あんみつが一番人気のメニューだけど、ほのかが好きなのはおまんじゅうだよ。口に入れた瞬間にホロリと崩れる『穂むら』のおまんじゅうは素朴で優しい味だから、飽きが来ないんだ」

穂乃果先輩は「ぜひ食べて欲しいなー」と頬に手を当てて目を閉じた。

おまんじゅうを食べる自分を想像しているのか、演技に気持ちが入ってきている。

「ほのかが小さい頃から食べてきた味だから、きっとほのかの味がするよ。食べる時は、ほのかのことを思い浮かべて。そうしたら、それがほのかの味だよ。きっと」

穂乃果先輩がうっすらと目を開ける。その目はやや潤んでいて、気持ちの高ぶりを表わすように、頬がほてり始めていた。

穂むらのおまんじゅうは、穂乃果先輩の味。

どんな味だろう。なんとなく、柔らかくて表面がつるつるした丸いものに、歯を立てないようにしてかぶりつくのを想像してしまう。


「今は『穂むら』の宣伝ではないですよ、穂乃果」


海未先輩の声がして、私の想像は中断させられた。

ほんとに、メイドカフェの宣伝をするはずが、いつの間にか「穂むら」の話しになっていた。

「……そうだった。ごめん」

穂乃果先輩は素直に謝って、「んー……」と考える姿勢に入る。が、なかなか言葉が出てこなかった。

海未先輩が言う。

「口に入れた瞬間にホロリと崩れるとか、素朴で優しい味だとか、良い表現を使ってたじゃないですか。さっきは」

「でもそれは『穂むら』のおまんじゅうに使っちゃったよ」

「このお店のメニューのために取っておけばよかったんです……。今は『穂むら』じゃなくて、『キュアメイド喫茶』でしょ」

穂むらから、キュアメイド喫茶へ。

ようやく穂乃果先輩の、そして私の考える内容が軌道修正される。

だがそこへ口を挿んできたのは、ことり先輩だった。

「うんん、『穂むら』を軽く見ちゃいけないよ、ウミちゃん」

「ミナリンスキー……」

海未先輩が「これ以上余計なこと言わないで」と目で訴えるが、ことり先輩はノリノリで穂乃果先輩に話しを振る。

「この前の冬に食べたシベリアサンドがすっごく美味しかったな」

「あー、あれね? 実は去年の冬の限定販売で、もうやる予定はないんだ」

「えー? それはもったいないよ。また売られるんだったら、ぜったい買いに行くもん」

「ほんと? じゃあ今年もやるようにって、うちの親に話してみようかな」

ことり先輩は「えへへ、嬉しい」と笑う。カメラ横のベルトに片手を突っ込んでいちおうは穂乃果先輩を映し続けているが、手ぶれや傾きは半端ないだろう。

「……もういいですかね。しめてもらって」

海未先輩が遠慮しながら言うと、ことり先輩は「あー、ごめんごめん」と言いながら一歩さがって、改めて穂乃果先輩をカメラでとらえる。


「ホノカちゃん、最後に意気込みをどうぞ。お客さんに対して」

「はーい」


穂乃果先輩が前髪を一瞬だけいじって画面のド真ん中に立った。


「宣誓! 私、ホノカは、メイドとしての奉仕の精神にのっとり、できる限りのおもてなしをすることを誓います」

横を向いてうつむき「世界中を幸せに……とまでは言わないけど。与えられた役目に感謝して……」と言ってから一歩、二歩と歩く。

そして決意を秘めた表情でクルッとこっちへ振り向いた。

「今日ここで出会ったひとだけでも、幸せな気分になってもらいたいと思います!」

穂乃果先輩がこう言う時、私はその160センチにも満たない小さな身体から、何か大きなものを感じてしまうのだ。

それは「たまに」とか「時々」ではあるけれど——。

穂乃果先輩がスカートを軽くつまみ上げて、ゆっくりと一回転する。黒い制服の上で真っ白なフリルがところどころで揺れた。

本人も自信を持ってやっているせいなのか、それがやたらと決まっていて、みんなもつい無言のまま見てしまった。

ちょっと前まではことり先輩と一緒にふざけていたはずなのに、決めようと思えば、すぐできてしまうひとなんだ。このひとは。


「さすが……ですね」

穂乃果先輩の作る「絵」に見とれていた海未先輩が、やっと口を開いた。

「最後だけは強引にまとめましたね。途中は『穂むら』のお菓子の話しで脱線ばかりでしたけど」

海未先輩の講評に、ことり先輩が加わる。

「カヨちゃんがご飯モノのPR担当だったとすれば、ホノカちゃんはスイーツ担当だったわけだね」

「どこがです」

「じゃあウミちゃんには、サイドメニューの宣伝を交えながらやってもらおうかな」

「……分かりました」

海未先輩はそう言うと、真剣な表情で軽く深呼吸をした。



(つづく)


ラブライブ二次0418UP ( No.116 )
日時: 2016/04/19 00:54
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)

   「ラブライブ!」花陽×? 6−2

「じゃあウミちゃんには、サイドメニューの宣伝を交えながらやってもらおうかな」

「……分かりました」

海未先輩は真剣な表情で軽く深呼吸をする。頭の中で台本を作り上げているみたいだ。


「はじめまして、ウミと申します。得意科目は現国と世界史。それと小さい頃から弓道などをやっております」


そう言うと海未先輩は、弓を引く振りをして弓道の「型」を演じてみせる。

素人には分からない独特のゆっくりした美しい動作が経験者であることを示していた。

海未先輩が絞った矢を放つと、ジェスチャーだけど向こうにマトがあるつもりらしく、二秒ほどそっちを見つめてから納得の表情をする。的中したみたいだ。

それをただ黙って見ている、穂乃果先輩とことり先輩。

こういうのを大真面目に最後までやってしまうのが海未先輩らしいけど。


「お店のメニューに関しては、私はサイドメニューをみなさんにおススメしたいです」

海未先輩が言うのを聞いて、私はまたメニューを思い出した。


フライドポテト、から揚げ、ほうれん草のソテー、イカのパプリカソース漬け、などなど。


「種類の豊富さはもちろんですが、お値段も250円とたいへんお手頃なので、友達とシェアすればたくさんの味が楽しめますね」

そうかもしれない。
食べて喋って、それで飲物の注文が増えれば、チャリンチャリン。イメージする映像の中で小銭が積み上げられていく。

「まあ、私はまだここでは未熟者で、まごころぐらいしか提供できませんけれども」

ちょっと間を置いて、言う。

「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』って言いますし、こういう場所でも何か良いことあるだろうと思って、頑張りたいと思います」


両手で軽くにぎり拳を作って、カメラを見すえる。


「……これでいいですか?」

照れた顔で首をかしげると、監督のことり先輩が「ハイ、OKだよ!」と満足気に言ってから、コメントを加える。

「要点をしっかりおさえていて、とても良かったよ」

「ありがとうございます」

「『穂むら』について話してないけど大丈夫なの?」

「大丈夫です」

ことり先輩が誉めた通り、海未先輩のPRは確かに三人の中では一番よかったと思う。

まあ、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」っていう表現は微妙な気がするけど。

お客さんは危険な「虎」ですか? って。


「ウ〜ミ〜ちゃ〜ん」

不満そうに声をかけてきたのは、なぜか穂乃果先輩だった。

「な、なんですか。ホノカ」

「もー。ウミちゃんの自己PRなら『メイド服が似合います』って、ぜったい言わなきゃダメだったよ」

「な、なんて?」

顔を赤くする海未先輩に、穂乃果先輩がぶつかりそうな勢いで寄り添った。

「だって、見た目でも性格でも、一番ぴったりなのはウミちゃんじゃないの」

穂乃果先輩は海未先輩の両肩に手を置いて身体を寄せると、カメラの方を見る。

穂乃果先輩が明るい色なら、海未先輩は落ち着いた色、という感じか。

二人が同じ制服を着て並んでいると、絶妙なコントラストが生まれる気がする。

「せっかくこれだけ似合ってるんだからさ。カメラの前で一回転、してみせてよ」

「えッ? さっきホノカがやったみたいなのをですか」

穂乃果先輩は「そうだよ。さ、どうぞ」と自分だけ画面の端に消える。

「え、遠慮しておきます」

海未先輩が強く言って、そっぽを向く。

穂乃果先輩が「そんなこと言わないで、やろうよ」と言っても海未先輩は動かない。

そこへ入ってきたのは、ことり先輩だった。

「ウミちゃん、お願い!」

「え?」

「どうしても必要なの。ことりからもお願い!」

ことり先輩が、切実そうな目で海未先輩を見る。

どうしても必要ってことはないと思うけど。

「わ、分かりました……。お客さんが幸せな気分になってくれるなら……」

そう言って、海未先輩は両足をそろえて直立する。

両手を軽く広げて、一回転。

子供がバレーの真似ごとでもするような、あまり綺麗じゃない、速いだけの一回転。

「……はい。これでいいですよね」

「えー。もっとゆっくり見せて欲しいのにー」

穂乃果先輩が、物足りなそうに言う。

「い、一回転は一回転ですからね。二回やってくれとは、言われてませんよ」

なんというヘリクツ……。

「しょうがないなー。メイド服のウミちゃんの後ろ姿は、あとでこっそり見るしかないってことだね」

「のぞきみたいなことしないでくださいよ」

「立体のウミちゃんは、こっそり見てやるしかないね」

「普段は立体じゃないみたいな言い方しないでください」

二人のやり取りを見て、ことり先輩が笑う。平和な光景だった。


こうして撮られた私たちの動画は、いったい裏にどんな技術者が居たのか、お昼には見易く編集されて店内に流された。二時間に一回くらい。

お客さんにも好印象だったようで、私たちを知ってもらうのに役立った。

あとで穂乃果先輩に聞いた話では、この後の数日間、「穂むら」には常連でない若いお客さんが増えたという。

あの動画を見れば、それは確かに「穂むら」を探したくなるよね。

宣伝する店を間違えてるって言いたかったけれど、穂乃果先輩が嬉しそうだったから、まあいいか。



(つづく)