BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

0430UP、ラブライブ二次(凛とラーメン) ( No.117 )
日時: 2016/04/30 20:17
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)

   『ラブライブ!』花陽×? 7



私は、白いご飯を「魔法のパートナーです」って、ちょっと恥ずかしい表現をしたけれど。

そのご飯が、私と凛ちゃんをつなぎとめてくれたことがある。

だから「魔法」なんだ。






私たちは音乃木坂の中学校を卒業するとそのまま高校に進学した。

凛ちゃんとは幼稚園の頃から一緒で、高校生になってもずっと一緒でいられると思っていた。

だけど——。


「高校デビューだにゃー!」


四月のある日、授業が終わると凛ちゃんはそう言って席から立ち上がった。


目的地は、ラーメン屋さん。


凛ちゃんにとっては放課後にラーメンを食べに行くという「外食の自由」が高校生になった証だったらしい。


「かよちん、また明日ね!」


学校を出てまだそんなに歩いていないのに、凛ちゃんはラーメン屋が見えると楽しそうにそっちへ行ってしまう。

凛ちゃんは堂々とノレンをくぐって男性客の中に混じっていき、肩をぶつけ合うようにして丸椅子に座る。

私は店の外で、ノレンの下に見える凛ちゃんのお腹から下だけしばらく見ていたけど、ずっとそうしているわけにもいかないので独りで帰った。


「今度は遠征だにゃー!」


凛ちゃんは秋葉原や神田だけでは飽き足らず、そのうち総武線に乗って水道橋や飯田橋のお店まで行くようになった。

後日、私は思い切ってついていくことにした。

すると、凛ちゃんは神田の手近なお店を選んでくれた。

地元の有名なお店でその日も行列ができていたのだけれど、私にとっては知ってはいても毎回ただ素通りするだけのお店だった。


——かよちん、近所の民家が迷惑するからお店の外では私語厳禁だよ。


凛ちゃんは慣れた風で、私を連れて行列に加わるとそれっきり黙ってしまった。

油っこいぬくぬくした匂いが外までしていて、建物の脇には赤いビールケースが積まれていた。

いざ席に着いてみても狭いし、混んでるしで、凛ちゃんから「何にする?」と聞かれても「凛ちゃんと同じのでいい」としか言えなかった。


肩をちぢめるようにして待つうちに、ラーメンが届いた。


すると凛ちゃんは、楽しそうにこう言った。


「ラーメンはさー、まず『お顔』から見たくなるよね」

「お顔?」


横を見ると、凛ちゃんはどんぶりの縁にそっと両手を添えて、ラーメンの盛り付けをただジッと眺めている。

「食べる前に、いつもこうして眺めるんだー。店によって表情が違うもんね」

「……なるほど」

そう言われて私もじっくり見てみたけれど、とんこつラーメンのスープがミルクみたいに白くてきらきらしていたのを今でも思い出せる。


ラーメンは一口食べた瞬間から、とっても美味しかった。

「ここはトッピングが無料なんだよ」

凛ちゃんがカウンターテーブルに置いてあるワカメやコーンをどんどん足していって、私のどんぶりにまで入れてくる。

ラーメンの中へお箸を入れる度に味が変わっていく。


「かよちん、替玉を一緒に頼む?」

凛ちゃんがお財布から百円玉を出して私に聞く。店内に貼り付けられた『替玉百円』の意味がやっと分かってきた。

「どうしたのかよちん。まだ食べられるでしょ」

「えっと……私は」

確かにまだ食べられなくはないけれど、足りないのは麺じゃない気がしていた。

その足りない何かに気づいたのは、私より凛ちゃんの方が先だった。

「そうだ、ご飯がないよね。かよちん、半ライスも百円だよ」

「ライス? ラーメンに?」

「うん。これが普通に合うんだにゃ」


凛ちゃんの提案で、色彩あざやかだったラーメンの横に、真っ白なご飯が顔をそろえた。


「合うでしょ」

「うん」


ラーメンを一口、ご飯を一口。それからレンゲでスープを飲んで。



「ラーメンまで好きにさせるんだから、かよちんにとってご飯は魔法のパートナーだにゃ」

「魔法の、パートナー?」

「にゃはは。今の表現はやっぱり恥ずかしいから、忘れて」



それからはお互い食べることに集中した。

二人でひたすら黙って麺をすする時間がとても貴重に思えた。



店を出ると私は制服の袖のにおいばかり嗅いでしまった。


でも今は凛ちゃんも同じにおいがしているんだ。


そう思うと満たされた気分だった。



(つづく)