BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

0808UP ラブライブ二次 ( No.118 )
日時: 2016/08/09 01:16
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)

   『ラブライブ!』花陽×? 8



「花陽ちゃん、30分だけ休憩入って」

「はい」

「15時になったら穂乃果ちゃんが休憩終わるから、それと交代ね。ごめんね遅くなっちゃって」


ことり先輩に言われて私は静かな休憩室に入った。

無機質な長机にひじを置いて、ふーっと溜息をつく。

お店が繁盛していただけにこれまで休憩する暇がなかった。


私のバイトデビューから、やっと5時間が経過したわけだ。


店は10時開店。お客さんが入ってからの対応は開店前に練習したとおりだけど、いざお客さんを目の前にすると緊張しちゃってうまくできなかった。

言葉はなめらかに出てこないでメニューの名前もうまく言えなかったり、確認のもれがあって一度はオーダーを取ったお客さんのところへまた戻らなければならなかったり。

海未先輩も似たようなものだったけれど。

そんな中で穂乃果先輩だけは初めからうまくできていた。機械的に注文を取るだけじゃなくて、一言や二言だけでもお客さんと会話をしてみたりして、上機嫌のお客さんから制服の可愛いことを誉められたりもしていた。

しかし穂乃果先輩は厨房でミスするんだ。

水の入ったコップをトレーに載せて運ばせれば、とりあえず引っくり返してこぼす。

そばに居た海未先輩に、頭からドバッとかけてしまった。

プラスチック製のコップが床に転がって、穂乃果先輩の目の前には、水をかぶった海未先輩。

「……お客さんでなくてよかった」

半笑いの穂乃果先輩が、言った。

「よくないです!」

海未先輩が怒り出した。まあ、当たり前だけど。

「あなたは水があれば誰かにかけずにはいられないんですか」

「その相手が海未ちゃんでよかったよ」

「だからよくないですって! これではまるでオトリです、私は」

海未先輩のアゴから水がしたたり落ちた。左足と右足の間には水溜まりができてきている。

それでも今は仕事中。お店が優先ということで、

「海未ちゃん、お願い。今はゆるしてあげて」

という、ことり先輩の一言でどうにかおさまった。


——はずだったのだけれど。


水の次はパスタだった。

どういう意味かというと、さっきは水の入ったコップをトレーごと引っくり返した穂乃果先輩が、今度はお皿に盛られたパスタを丸ごと一人前こぼしたということである。

穂乃果先輩のにぎっていた平たいお皿から、パスタの部分だけがフリスビーのようにすべって飛んでいくのを私は見た。

お皿が平たいとはいってもスープではないのだし、まさかこぼすとは思わなかった。

でも海未先輩は予測していたようで、パスタがお皿から離脱した瞬間には身をかわしていた。海未先輩の立っていた位置に、飛んできたパスタが落ちた。

「びっくりしたぁ」

穂乃果先輩がまたしても半笑いで、言う。

「ミートソースのスパゲティがこんなにすべるとは知らなかったよ」

「すべりませんけど。でもあなたは特別だからこうなることもあろうかと思っていましたよ」

海未先輩は、このお店のパスタはゆであがった後でバターをからめるから、パスタはバターの油でつるつるしている。だから平たいお皿に盛るとすべってこぼすこともある、という。

なるほどね。

うん。読めないです、そこまで。

「さすがは海未ちゃんだね」

穂乃果先輩が誉めた。

「さすがじゃなくて、気をつけてください。お水とは違うんだから、さっきみたいに頭からかぶっていたらどうなっていたか」

そこへことり先輩が掃除の道具を持ってやって来た。危機感ゼロの笑顔を浮かべながら、

「私も昔やったよ。パスタってすべるんだよね」

と言う。

「すべりませんって、こんなに」

ことり先輩は穂乃果先輩に同意を示していたが、今度は海未先輩の目を見る。

「私の時はカルボナーラだったよ、海未ちゃん」

「料理名はどうでもいいですわ! もう一度言いますけど熱々ですよ。ゆでた麺の破壊力とか考えたことあります?」

海未先輩がにじり寄る。穂乃果先輩は少し後ずさりして言った。

「確かに。海未ちゃんがオトリになってくれなきゃどうなっていたか」

「なりませんよ、オトリには」

「海未ちゃん……パスタ好きじゃないの?」

「好きですけど頭からかぶるほど好きではありません」

二人のやり取りを見て、またしてもことり先輩が、

「海未ちゃん、お願い!」

お祈りする時のように両手を組み合わせて海未先輩を見つめるが、

「嫌です」

今度ばかりは海未先輩も拒否した。

「まだ何をお願いするかは言ってないよ」

「オトリになってくれってことでしょ? っていうか、なんでお皿やコップを引っくり返すひとと、それを受け止めるひとが最低一人はいる前提なんですか。そもそも穂乃果が気をつければそれで済む話しじゃないですか」

海未先輩がここまで言うと、ことり先輩はポケーッとした表情で黙り込んだ。

ちょっとの間を置いてから、海未先輩の話しを理解したようで、急に冷静になり、

「だってさ。穂乃果ちゃん」

ボソッと、隣の穂乃果先輩に言う。

「じゃー仕方ないね」

穂乃果先輩が言った。

ふざけるのはもうおしまい、というように、その後はきちんと掃除をして、みんな自分の仕事へと戻った。



(つづく)