BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 0814UP ( No.119 )
- 日時: 2016/08/14 14:22
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)
『ラブライブ!』花陽×? 9
厨房では「困ったちゃん」な穂乃果先輩だけど、お客さんには既に人気だ。
お客さんに紅茶を配膳する時には、カップやティーポットと一緒に、角砂糖の入った器も一緒に持っていって、
「砂糖はおいくつですか、ご主人さま」
と聞くのだけれど。
その時のお客さんの顔が、なんとも嬉しそうなのだ。
穂乃果先輩が落ち着いた動作でゆっくりと角砂糖を紅茶の中へ溶かし込んでいくのを、みんな嬉しそうに見ている。それも、男女関係なく。
そのうち「こっちも角砂糖、お願いします」と声がかかる。他の席からもだ。
みんな、砂糖を追加したいがためだけに穂乃果先輩を呼んでいる。明らかに、穂乃果先輩に入れてもらいたいみたいだ。
「今日は紅茶がよく売れるねー」
キッチンとホールの中間に立って、ことり先輩が言った。
なので隣に居た私も、
「そうですねー」
と、やや気の抜けた返事をしつつ、顔を横に向けたら、
「はッ…………」
思わず息を飲んでしまった。
海未先輩がキッチンの内側からすごい形相で穂乃果先輩の方を見ている。
でき上がった料理をホールへ渡すためのステンレス製の台が上と下で二段になっているのだけれど、そのすき間から穂乃果先輩を、というか、穂乃果先輩と楽しそうに喋っているお客さんを見ていた。
「紅茶の追加オーダーがいっぱい入ったよ」
穂乃果先輩がニコニコしながら帰ってきた。そして、角砂糖の器が空っぽになったのを見せながら、
「えへへへ……『角砂糖の女の子』って言われちゃった」
と、照れてみせる。
いいな。そういうあだ名なら、私も呼ばれてみたいかも。
注文をたくさん取ってきた穂乃果先輩を、ことり先輩は誉めた。私も素直に「すごい人気ですね、先輩」と声をかける。
「あははは、二人ともありがとう。この調子で頑張るね。……あれ? 海未ちゃん、どうしたの? 怖い顔して」
穂乃果先輩が、じーっと不満げに自分を見つめる海未先輩の視線に気づいた。
「さすが穂乃果。お客さんと仲良くなるの早いですね」
「なーに言ってるの。海未ちゃんだってできるよ」
「いいえ」
海未先輩は否定し、背中を向けてつぶやいた。
「ここはライブと違って、お客さんが近過ぎて……」
「近くて何が悪いの」
「え?」
いつの間にか、海未先輩の背中に、穂乃果先輩がぴったり寄り添っている。海未先輩のうなじに吐息がかかりそうなぐらいに。
「ちょっと穂乃果……近いです」
海未先輩が離れようとすると、穂乃果先輩がぴったり歩を合わせてくる。
「海未ちゃんはこんなに可愛いんだもの。こんな可愛い海未ちゃんを間近で見られるなんて、今日のお客さんは幸せだよ」
「ちょっ……いい加減なこと言わないでください」
海未先輩が顔をそむける。
それでも相変わらず、二人の身体は密着したままだ。
「ね、花陽ちゃんもそう思うでしょ」
穂乃果先輩が私に振ってくるので、「うんうん!」と激しく同意しておく。
確かに、ライブっていうのはお客さんとの距離が決まっているものだ。
舞台と席の間には、しっかり隔たりがあるし。
海未先輩でも舞台上で歌って踊ることは、なぜかできている。
それに比べると、今日はお客さんとの距離が近いわけだ。
まあ、今の二人は近過ぎだけど。
「もう……離れてくださいって」
もがく海未先輩の両ひじを、穂乃果先輩ががっちりおさえている。
「海未ちゃんは可愛い」
「それもやめてください」
「海未ちゃんが認めるまで、誉めるのをやめない」
穂乃果先輩は「海未ちゃんは可愛い」と言いながら今度は頭をなではじめる。
「あー、もう。分かりました。私は可愛いってことでいいです」
くすぐられるのも限界、というように海未先輩が言うと、穂乃果先輩はやっと身体を離して、
「なんか投げやりだね」
取っ組み合いの後で、ちょっとバテ気味に言う。
「私は可愛いです! これでいい?」
海未先輩は開き直ったように、今度ははっきりと穂乃果先輩の目を見て言った。
「ただし、私に言わせればあなたの方が絶対可愛いですよ、穂乃果!」
時間が止まった。
子供みたいにじゃれていた穂乃果先輩が、急に胸を打たれたような表情をして、海未先輩を見つめている。
なんと言っていいのか分からず、しばらく穂乃果先輩は唇の間から綺麗な白い歯だけをのぞかせていたが、
「……と、とりあえず……ありがとう」
震える声で言って、落ち着きなく目をパチクリさせる。
力で海未先輩を押さえつけていた穂乃果先輩が、急に女の子になったみたい。
「も、もちろん」
海未先輩は二人だけの空間に耐えられなくなったのか、今度は私やことり先輩の方を見て言った。
「ことりも同じくらい可愛いですし、花陽も同じくらい可愛いです。私に言わせれば」
一人だけ抜きん出た穂乃果先輩が、私とことり先輩の同列に直された。
そうやって修正してこの場はおさまったみたいだ。
でもちょっぴり残念だったりして。
(つづく)