BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ゆり二次0829UP ( No.120 )
- 日時: 2016/08/29 22:12
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)
『ラブライブ!』花陽×? 10A
午後のゴミ出しを頼まれて、私は今、店の外に居る。
店のすぐ裏に出しておけば業者が来た時に回収してくれると、ことり先輩は言っていた。
こんな用事のついででも、ひとりでお店の外に出られるのは良い気分転換になりそうだ。
だって朝の9時からずっとあの店内に居たのだから。外の空気だって吸いたくなる。
指定された場所へ行くと既にゴミ袋の山ができていた。その山のてっぺんを目がけて、自分が持ってきた袋を両手で力いっぱいに放った。
これであとはお店に戻るだけだけど、どうしようか。ゆっくり戻った方が休めていいかなと思ったりして。
そこへ、
「かよちん!」
声をかけられた。
見ると、凛ちゃんが居る。そしてなぜか、にこ先輩も。
凛ちゃんはいつもの動きやすくてカラフルな服装の上に今度は白い薄手のパーカーを羽織っていた。
にこ先輩は下はミニスカートだけど日焼けを気にしてなのか上は長袖で、ちょっと気取った感じのサングラスをしている。
「二人とも、どうしてここに?」
「かよちんのお店を探してたんだよ」
凛ちゃんが嬉しそうに言った。
「午後に行くって言ったでしょ。それでね、にこ先輩なら秋葉原にも詳しいからかよちんのお店がすぐ分かると思って、連れてきたんだ。どうせ暇だろうし」
「あたしが暇なのは今日だけ。たまたまよ」
にこ先輩が訂正して、不機嫌そうに目を細めた。
凛ちゃんは私の制服を見ては、可愛いと言って誉めてくれた。
でも初めて会うのがゴミ出しの瞬間だっていうのは、ちょっと決まりが悪かったかな。
「来てくれてありがとう。じゃあ案内するね」
3人で薄暗い雑居ビルの急な階段をのぼっていく。遠くで建設工事の音がしている。
ビルの二階がどっかの会社の事務所で、三階が私たちのお店。重い扉を一枚開ければ別世界だ。
店内に入ってちょうどいちばん近い席が空いていたので二人をそこに通した。
「あれー? 二人ともどうしたの?」
最初に気づいたのは穂乃果先輩だった。トレーに載せたメニューを運んでいる最中で、忙しそうだ。
「ごめんー。今、にこちゃんの相手してる暇ないんだ。仕事中だから」
「あたしは客よ!」
にこ先輩が遠ざかる穂乃果先輩の背中に向かって叫ぶ。
今度は海未先輩が通りかかったので、私が声をかけた。
「海未先輩! 凛ちゃんとにこ先輩が来てくれましたよ」
だが海未先輩も穂乃果先輩と同じように料理を運んでいる。立ち止まって微笑み、「そうですか。来てくれてありがとうございます」と言ってはくれたけど、他のお客さんのところへ行ってしまった。
「まあ、仕方ない反応よね」
にこ先輩が言う。
ことり先輩の姿も見えないし、なんなんだろう、せっかく凛ちゃんとにこ先輩が来てくれたのに。
そういうことなら、私がぜんぶ対応してやろうじゃないか。凛ちゃんを……凛ちゃんとにこ先輩を、精一杯、おもてなししてやろうじゃないか。
「ドリンクメニューはいかがなさいます、ご主人さま」
「あたしは白ぶどうジュースで」
「凛は……コーヒーでいいにゃ」
「コーヒー? 凛ちゃんが?」
「うん」
「分かった。アイスカフェオレだよね」
「うんん。ブラックコーヒーを、ホットでお願いしますにゃ」
なんと。
ブラックコーヒーなんて、ちっとも甘くないもの。どこが美味しいんだろうって。私たち二人は言い合っていたものなのに。語り合っていたものなのに。その昔。
「……かよちん、どうしたの? 大丈夫?」
「……え?」
見ると凛ちゃんが心配そうな顔をしていた。
「心ここにあらずって表情、してたわよ」
にこ先輩が言う。
いけないいけない。コーヒーを頼んだ凛ちゃんは、もしかすると大人になってしまったのかって、一瞬でも想像したら私の心がどっかへ行ってしまっていた。
私は落ち着きを取り戻し、言う。
「……かしこまりました。ブラックコーヒーですね。やってみましょう」
「定番メニューだにゃ?」
ドリンクは自分で作っていいことになっているので、私は厨房に入って二人分のそれを作る。
凛ちゃんのコーヒーを……凛ちゃんに美味しく飲んでいただくコーヒーを、淹れます!
まあボタンを押すだけなんだけど。ポチッとね。
コーヒー用のサーバーから震動音がして、とぽぽぽ……とコーヒーが出てくる。
私は真っ白でつやつやしたカップに熱々のコーヒーが注がれるのを、じーっと見ていた。
少しでも美味しくなるようにと、念じつつ。
- 0829UP ( No.121 )
- 日時: 2016/08/29 22:20
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)
『ラブライブ!』花陽×? 10B
「お待たせいたしました。ブラックコーヒーと、白ぶどうジュースでございます」
「ちょっと。これ、炭酸抜けてないわよね?」
にこ先輩がテーブルにあごを乗せるようにして、出された白ぶどうジュースを見つめる。
冷たいグラスの底から、炭酸の泡がぷかぷかと浮き上がってくる。
「はい。コーヒーより先に入れてしまいましたので」
「炭酸が後でしょ普通! まあいいわ」
にこ先輩はストローを用意すると、軽くくわえる。
「花陽はコーヒーがうまくできたかどうかで、頭いっぱいみたいね」
としゃべるにこ先輩の口元で、くわえたストローが上下に揺れる。
コーヒーを飲んだ凛ちゃんがどんな反応をするのだろう。私とにこ先輩の視線が向けられる中、凛ちゃんがコーヒーを一口すすって、
「やっぱ苦いッ」
辛そうな顔をして飲むのをやめてしまった。
でも私には、それが嬉しかった。
にこ先輩は凛ちゃんが美味しいと言ってくれないのを見て、「ふふ、残念だったわね」と賭けに勝ったように得意げな顔で私の方を見たが、私のにやけた表情を見ると「って、どっちなのよ!」と声をあげる。
「ちょっと花陽。凛はブラックコーヒーなんて飲めないでしょ?」
「みたいですね」
「もー。飲まないんじゃもったいないから、あたしのジュースと交換してあげるわよ、凛」
こうなることを予想していたか、にこ先輩は白ぶどうジュースをまだ飲んでいなかった。
真っ黒なコーヒーとは全然違う、透明で甘い香りのするジュースを凛ちゃんに差し出そうとする。
なので私は、
「ぬぁー、ダメです! ダメダメー!」
それを手でさえぎる。
「一体なんなのよ!」
にこ先輩がびっくりした顔で言った。
「さ、さささささ、砂糖あるから。砂糖!」
「お砂糖?」
凛ちゃんが首をかしげて聞く。
私はトレーに載せてきた秘密兵器——というほどのものではないが、角砂糖を入れる小さな器の、模様だけは高級そうなフタをそっと開けた。
「ほら、凛ちゃん。お砂糖だよ。これ入れれば、コーヒーだって飲めるでしょ」
小さなトングで角砂糖をつまんで、コーヒーの中へと落とす。
「あ、あはは……ありがとう」
それでも凛ちゃんは、あまり喜んでくれない。それどころか、やや困った顔をして固まるだけだった。
「お砂糖……足りないかな? 分かったよ。凛ちゃんでも飲めるように、もっとたくさん入れてあげるね」
「えッ。ちょ、ちょっと待っ……」
私は「甘くなーれ」と言う度に角砂糖をぽちゃんと落としていく。
「甘くなーれ、甘くなーれ、甘くなーれ……」
ぽちゃん、ぽちゃん。いくつもの白い砂のカタマリが、コーヒーの底へと沈んでいく。
「うぅ……もうやめてにゃ、かよちん」
凛ちゃんは、どういうわけか、お仕置きでもされているみたいに辛そうな顔をしていた。
「凛……飲むから。がんばって飲むから、もうそれ以上、入れないで……。お砂糖だけは今は、かんべんしてにゃ」
凛ちゃんはカップを両手で持って、そっと一口すする。
そしてすぐに真下を向いて黙り込んだ。
髪の毛で隠れちゃって表情は見えないけど、細い首のあたりがぷるぷる震えている。
「あま……あま……ッッッッッッ、ほ、ほとんど砂糖だにゃ。砂糖にコーヒーの味がついてるだけだにゃ」
にこ先輩が凛ちゃんからカップを奪って、ギトギトに甘いコーヒーを一口飲み、
「どうするのよ、こんなにしちゃって。誰も飲めないわよ」
責めるような目で私を見る。
「……作り直します。ご主人さま」
「じゃあアイスカフェオレ」
凛ちゃんはすぐに手を上げてこっちを見た。少し涙目で。
(つづく)