BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Love Live 二次 0918UP ( No.122 )
- 日時: 2016/09/18 20:38
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)
『ラブライブ!』花陽×? 11
アイスカフェオレを出した後も、私は凛ちゃんのすぐ後ろに立ち続けた。
通行の邪魔にならないように壁際に立って、姿勢を正しくし、両手は前に出して組み合わせる。
メイドらしく、しなければ。私は凛ちゃんのメイドなんだから、今は。
「ちょっと花陽、これ見てみない?」
「ん? なんですかそれ」
にこ先輩がA4サイズの雑誌をテーブルに広げた。
グルメ系か、街の情報誌みたいだけど。
見るとそこには、メイド服姿のことり先輩がうつっていた。
それも「たまたまうつった」なんてものではなくて、グラビア雑誌みたいにしっかりうつっている。
写真の背景が、どっかで見たと思ったら、このお店だ。他にひとが居ないから、開店前の早い時間かもしれない。
そしてページの端っこにはインタビューが載っていて、ことり先輩は「ミナリンスキー」と呼ばれている。
「半年前にこのお店が特集された、秋葉原の情報誌よ」
にこ先輩が言って、雑誌の表紙をちらっと見せてくる。『秋葉原ウォーカー1月号』と、綺麗なロゴで書かれていた。
「すごい。ことり先輩、自分が雑誌に載ったなんて一言も言ってなかったのに」
私はこのお店を——というか、ことり先輩を特集した記事へとページを戻す。
ことり先輩、私たちの知らないところでこんな仕事もしてたんだ。
普段のことり先輩を知らない読者は、この写真のことり先輩を見て、どんな想像をふくらますだろう。
「あたしもこの店のこと調べてるうちに初めて知ったのよ。それで今日ここへ来る前に、神保町で雑誌を見つけてきたの。凛と二人でね」
「え?」
にこ先輩の言葉を聞いた瞬間、私は思わず手を止めて、二人を見る。
「見つけた時は興奮しちゃったよね、にこちゃん」
凛ちゃんがその時のことをリアルに思い出したように笑った。
この『秋葉原ウォーカー1月号』は、二人で神保町の古本屋をいくつかハシゴしてやっと見つけ出したらしい。
炎天下を歩きまわり、凛ちゃんが先に「もうやめよ」と言ったのを、にこ先輩が「もう一軒だけ。あと一軒だけ、思い当たる店があるのよ」と言って無理に引っ張っていったんだとか。
その時は凛ちゃんも不機嫌になったけど、最後の一軒でこの雑誌を本当に見つけちゃったんだとか。
それで二人とも一気にテンションが上がったんだとか。
そういうわけなんだとか。へー。
いわばこの雑誌は二人の「戦利品」で、二人は戦友?
凛ちゃんが楽しそうに「さすがだにゃー、にこちゃん」と言うと、にこ先輩は「ふん。まあね」と得意気になる。
そんな二人の会話も、一枚の扉を隔てたように遠くに聞こえていた。
神田の古本屋街って、すごく近くだし、前から興味はあったけど、私みたいなのが一人で行く勇気はなかったんだ。
そこへ今日、二人で行ってたなんて。羨ましい。
私なんて朝からずっとこの狭い店内で働いてたのに。
「グラビアを飾っているのはことり一人で、文章もことりの単独インタビューみたいになってるわ」
にこ先輩が言う。
確かに、従業員の女の子なら他にもたくさん居ただろうに、雑誌で取り上げられているのはことり先輩だけだ。
「んー……どうやら、メイドさんの総選挙をやって、ことりが首位になったらしいわね」
にこ先輩が記事を読みながら説明した。
首位になったことり先輩だから、こうして単独で特集してもらってるんだ。
「えーっと、第一回キュアメイド喫茶総選挙、3位がマーチャン」
「マーチャンって?」
「ここのメイドさんでしょ。今日は居ないみたいだけど。そのマーチャンが3位で56票」
「うん」
「2位がリナタンで60票、1位がミナリンスキーで1019票。投票の総数は1165票だって」
にこ先輩はインタビュー記事に目を通しながら、その重要な所だけ淡々と私たちに話してくれた。
インタビュアーがことり先輩の人気っぷりを誉めると、ことり先輩は「大したことしてないです」と、自分の頑張りを否定する。
ことり先輩は言う。
『一番になんか興味なかったんですけど』
『ある朝、店長から、一位おめでとうって言われて、初めて知ったんです。それまでほんとに気づかなくて』
『でも一つ思ったんです。そういえば最近、お店のメイドさんたちがピリピリしていたり、そわそわしてたなって。もしかするとみんな、総選挙の結果を気にしてたのかな? って』
にこ先輩が淡々と読み上げる。
記事の終わりには従業員の女の子全員の集合写真が掲載されていた。ことり先輩を真ん中に置いて。
「まあ、さすがはことりってところね。飛び抜けて可愛いのは確かよ」
にこ先輩が言う。
確かに他の女の子もみんな顔は綺麗だし、精一杯の笑顔でうつっているのだけれど。
なんというか、それだけなんだ。言っちゃ悪いけど。
そんな、ミナリンスキーのすごさに改めて気づかされる記事だった。
(つづく)