BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ゆり二次0315UP ( No.124 )
- 日時: 2017/03/16 01:14
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: TjNkg5uO)
『ラブライブ!』花陽×? 13
時刻は15時30分——。
「あーあ……」
私はつまらなそうな溜息と一緒に休憩室から出てきた。
おつりを間違えるというミスの直後に休憩時間。
思い出すだけでも恥ずかしい。
たまたま凛ちゃんにもその現場を見られてしまうし、最悪だ。
胸がいっぱいで、持ってきたお弁当の味も覚えてない。
このままでは変な気持ちを引きずったままホールに出ることになってしまう。
もう、自分で自分をなぐさめてやるしかないじゃないか。こうなったら。
「……凛ちゃん」
キッチンのすみっこの、流し台のかげにかがみ込んで、スマホを開く。
スマホの「アルバム」の中に隠されている、凛ちゃん専用フォルダ。
制作、私。
たまに眠れない夜なんかがあると、お布団をかぶって、その中で凛ちゃんの画像ばかり見ていた。
もう夜も遅いのに。明日も学校なのに。何やってるんだ自分って思いながら。
それでついに、凛ちゃん専用のフォルダまで作ってしまった。
凛ちゃんの実物にはほとんど毎日会っているけれど、こうして画像の凛ちゃんと一対一になってみると、また別のドキドキがある。
制服姿の凛ちゃん。ダンスの練習着の時の凛ちゃん。
それから、いつだったか、勇気を出して撮影ボタンを押した、凛ちゃんの寝顔。この画像を手に入れた瞬間は、天に感謝したい気持ちだった。
と思ったら、今度は凛ちゃんの鼻のアップの写真が出てきた。少し下からのぞいた構図の、やたら即物的で、顔のパーツの一部にすぎない、凛ちゃんの鼻のアップ。
まあ、寝顔を撮る時に間違えて撮影ボタンを押した写真なんだけど、ピントは合ってるし、あとで独りで見ていたら消すのがもったいなくなってしまって、これはこれでいけるというか、まあ、こういう画像もあるからそのうち隠しファイルみたいにして専用フォルダまで作ってしまったんだった。
「……そこに居るのは、カヨちゃん?」
「ひぅッ」
ことり先輩の声がして、びくっとして立ち上がった。
流し台のかげに隠れるようにしていた私だけど、目の前に広がる光景は先ほどまで自分の居た仕事場だった。
「すみません。休憩時間、もう終わってました」
「うんん。それはべつに大丈夫なんだけど、カヨちゃん落ち込んでないかなーって思っちゃって」
「そ、それは……」
正直なところ、18時の終了まで失敗なしでいけるか不安な気持ちだ。
それと、ことり先輩には悪いけれど、同じことの繰り返しでイヤになってきている自分がいる。
アルバイトとかいって……始める前は、何か新鮮だなとか、お小遣い増えて欲しい物が買えるなって思って、わくわくもしたけど。
なんだか、今は投げやりになってしまいそう。
そんな私にことり先輩は言った。
「さっきは凛ちゃんがお客さんとして来てたけど、カヨちゃんは凛ちゃんを十分におもてなししてあげることができたかな?」
「えっと、それは……」
凛ちゃんはなぜか苦手なコーヒーばかり頼んでくるし、私が砂糖を入れてあげたら今度は入れ過ぎで飲めないほど甘くなっちゃうし。
あれで凛ちゃんが喜んでくれたかは分からない。
でも、結果はそうだけど、凛ちゃんをおもてなししてあげようっていう気持ちは本当だったはずだ。
私が心の中で思っていると、
「さっきのカヨちゃんは、十分に熱心だったと思うよ」
意外にも、ことり先輩はほめてくれた。
「そ、そうですかね……」
「うん。たまに失敗したとしても、あの熱心さと、ひたむきさは、立派なメイドさんだよ。まあ、凛ちゃんにかかりっきり過ぎだった気がしないでもないけど」
「あぅ……」
確かに。凛ちゃんにだけ気を配っていたかも。
「ただね、凛ちゃんの前で立派なメイドでいられたのなら、他のお客さんの前でもできるはずだよ」
さっきは凛ちゃんが相手だからって、もてなす方の私も楽しかったけど。
あれと同じように、他のお客さんにもしようってこと?
人生初のアルバイトをしている私にとって、凛ちゃんが来てくれたあの時間が、今日のピークだった気がしていた。
どういう流れで仕事するかっていうのは、ひと通り聞いてやってみたし、それで午後になって凛ちゃんが来てくれた。
私がメイドで、凛ちゃんがご主人さま。
私にとって特別な時間だったのはそこまでで、凛ちゃんが居なくなったら、あとはただ同じことをくり返すだけ。
そう思っていたところで、おつりを間違えるというミス。
「くッ……」
悔しさに、下くちびるをかむ。そして私は言う。
「分かった気がします。私におもてなしされた凛ちゃんも、おつりを間違えられたお客さんも、今日ここへ来てくれた大事なお客さんの一人だったっていうこと」
「にこちゃんは?」
「にこ先輩もです。忘れてないので大丈夫です」
私が言うと、ことり先輩はちらっとホールの方を見る。さっきよりはお客さんも減っていた。
「じゃあ、お仕事、再開しようか」
「はいッ」
こうして、気持ちの切り替えはできた。
けど。
大事なことを思い出した。
しまった。せっかくのシチュエーションだったのに、さっきは凛ちゃんのことを一度も「ご主人さま」って呼んでない。
あれでは、私はただメイド服を着ていただけで、二人の関係はいつも通りでしかなかったじゃないか。
「くッ……」
悔しさに下くちびるをかんだ。
もう一回。
もう一回だけやらせてって、凛ちゃんに言いたい。
(つづく)