BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ゆり二次0323up ( No.125 )
- 日時: 2017/03/24 16:24
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: IGWEqUps)
『ラブライブ!』花陽×? 14
店内に設置された液晶に、海未先輩の自己紹介動画が流れている。
私たちが開店前に撮影したものだ。
映像の中で海未先輩は自己紹介をしつつ、お店のメニューも宣伝している。
その海未先輩の表情や喋り方が、今と全然違う。たった数時間前の映像なのに。
今の海未先輩は、もっと「活き活きした」感じがするし、それに、なんというか、かわいい。そのかわいさが、朝に比べると、ずっと自然な感じなんだ。
海未先輩って、私ほどではないにしろ恥ずかしがりやで、あんまりかわいい衣装とか着て人前に出るのは苦手なタイプって思ってた。
それなのに、どうしてこんなに頑張るんだろうって、思わなくもない。
そういえば昔、真姫ちゃんが海未先輩にポーズや表情のアドバイスをしたことがあった。
カメラを向けてみても、いまいち表情が硬いとか、ポーズのバリエーションが少な過ぎるとか。
真姫ちゃんはちょっときつい言葉でズバズバ指摘するし、海未先輩は表情もポーズもすぐにネタが切れてどうすればいいか分からずカメラの前で固まってしまうし。
そのうちに、真姫ちゃんが「こうしたらいい」とか「こういうのもある」と、海未先輩を自分の思ったように操りはじめた。
「真姫が、私に色々な写真うつりのコツというものを伝授してくれました」
海未先輩が、感謝の意を込めつつ語っていたっけ。
「もっと、上目遣いで、甘えるような目でカメラを見てみなさいとか。私が、甘える相手とは誰なんですかと聞くと、真姫は『例えば年上の優しい男性よ。パパ……じゃなくて、例えば、お兄さんとか』って言うんです。私が、お兄さんなんて居ませんと言うと、真姫は顔を赤くして『イメージでいいのよ、イメージで! 理想像よ、あくまで!』って言います。とりあえず言われるままにやってみたら、『いいわね、その表情よ。じゃあ今度は、自分の親指をそっとくわえてみて』と言うので、やってみたら……」
と、こんな話をする海未先輩は、真剣そのもので、恥ずかしさとか、自信のなさとかはどっかに消えていた。
弓道をしている時の海未先輩と、表情とかは全然違うけど、どちらも「真剣なんだ」って感じがする。そこは一緒だ。
それで今日はキュアメイド喫茶の、メイドのウミ。
穂乃果先輩は別物というか、与えられた役割を最初から楽しんで、しかもそれでうまくいっちゃってるんだけど、そんな穂乃果先輩を横目に見つつ、ちょっと違ったタイプの海未先輩も良い勝負をしてるって気がする。
二人が並んでるのなんて、本当に良い絵になってる。
私は今日の仕事をスクールアイドルの活動に比べたら地味と思っていたかもしれない。
でもそういう気持ちが少しでもお客さんに伝わっていたとしたら、それは嫌だ。
今はキュアメイド喫茶のメイドなんだから、与えられた役割をまっとうしないと。
時刻は17時になっていた。
「花陽ちゃん」
ことり先輩が声をかけてきてくれる。
「もうすぐ終わりだね。この時間までやってみて、今はどう?」
疲れた身体に、先輩の声かけが嬉しい。
私は短く返事をしただけだけど、先輩は私の表情から充分に読み取ったらしく、安心したように微笑む。
私は午前中と同じ、単調な作業を繰り返していただけだ。
でも心構えみたいなものは、だいぶしっかりしてきたと思う。
やってることは同じでも、その一回一回を集中してやってみた。
それで時間の流れも速く感じるようになった。
ただ時間が経つのを待って、終われば帰れるとか、そういう姿勢でいると逆に苦痛であることが分かった……ような気がする。だって、退屈なだけだもの。
なんというか、充実感が今はある。
「何にでも一生懸命で、えらいね花陽ちゃんは。昼頃までに比べて顔つきも変わったよ」
「そう……ですかね」
ことり先輩に顔をのぞきこまれて恥ずかしい。ことり先輩の顔が、今日最高の近さだったかも。今。
昼か……。おつりを間違えるなんて、普通だったらありえないミスまでして。思い出すだけでイヤになる。
自信なさそうにしていたら、ことり先輩が言う。
「おつりの間違えくらいなら、わたしだってやったことあるよ」
「え?」
本当なの? と思って、つい聞き返してしまう。
「うん、本当。あの時は、お金の計算もできないのかって、すごく自分を責めてしまったけど……そういう失敗も経験なのかもしれない」
ことり先輩は、説教くさい雰囲気に耐えられなくなったように「なーんてことを、今では思ったりなんかして」と笑ってごまかした。
先輩でも、失敗してるんだ。
「自分だけじゃない」って思うと、気持ちが急に軽くなる。
もちろん、そういうのに甘えてはいけないんだけど。
さっきまでは同じことの繰り返しって思ってたアルバイトが、実は奥が深かったりして。
日々に対するおどろきは、意外とこんなところにあるのかも。
この場所でしばらくがんばってみたら、私も大きく成長できるのかな。
今よりいろんなことを経験して、苦労して、強い私になれる未来。
残念ながら今度のアルバイトは夏休みだけだから、見ることのできない未来だけど。
「じゃあ、お店のことは今日はもうこれぐらいにして」
ことり先輩が時計を見て言った。
「せっかく穂乃果ちゃん海未ちゃん花陽ちゃんも居るから、一曲歌うよ。みなさんの前で!」
(つづく)