BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ゆり二次 0410UP ( No.126 )
日時: 2017/04/10 20:27
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: AFVnreeh)

   『ラブライブ!』花陽×? 14



「一曲歌うよ、みなさんの前で!」

と言われた十分後——。


私たちは秋葉原の街頭に出ていた。

中央通りぞいに、見慣れたようでめまぐるしく変化していくビルが立ち並んで、遠くには電車の走る高架線が見える。


そんな所で私たちはマイクをもたされて、持ち運べるくらいに軽いスピーカーを左右に置いて、ガードレールを背にして立つ。


衣装はメイド服のまま。

目の前を行きかうのは、とても多くの人々。

今日、秋葉原へ来たみなさん……。


「ことりちゃん」

穂乃果先輩が疑問を口にする。


「みなさんの前で歌うって言ってたけど、それってお店のお客さんじゃなくて」

「そう」

ことり先輩がニコッとして、

「秋葉原のみなさんだよ」

なんとなく答えは分かっていたけど、穂乃果先輩と海未先輩が「えーッ!」とおどろく。


「秋葉原で路上ライブやってるひとって、あんまり見たことないんだけど……」

多くの通行人を前にして、穂乃果先輩がやや不安そうに言う。

「そうですよ。それに」

海未先輩がとても不安そうにして、ことり先輩の無邪気な笑顔を間近に見る。

「許可の問題とか、色々あるのでは……」

「ないよ」

「ありますって絶対」

「大丈夫だよ。アキバはミューズの所有地みたいなものだから」

ことり先輩は当たり前のことのようにさらっと言う。

「どこがです……」

「まー、それはちょっと言い過ぎかもしれないけど、わたしにとってはね、なんていうのかな、『受け容れてもらえる』っていうのを感じる、そういう場所なんだ。秋葉原は」

「あっ……」

そう言われて、穂乃果先輩と海未先輩は、何かに気づいたように無言になった。


私も、同じことを感じていたかもしれない。


今回、事のなりゆきに任せていたら、私はメイド喫茶で働いていた。

私みたいに人前に出るのが苦手っていう子でも、心の内ではそういうことしてみたいって気持ちがあったと思う。

だけど、思い切ってやってみたら本当にうまくいったっていうのは、多分、自分の力だけじゃなくて、それを受け容れてくれる場所があったからこそなんだ。

スクールアイドルの活動もまさにそれ。

私たちが、音乃木坂ではうまくいったこと。


それが、秋葉原ではどうなのだろう。

気がつくと、さっきは忙しげに通り過ぎていくだけだったひとたちの流れが、ゆるやかになっている。

邪魔にならないよう、道の端っこに立ち止まって、私たちを見ているひとたち。

通行人の中から「観客」ができてきている。

同じ年くらいの女の子がほとんどだけど、男の子も少し。


「花陽ちゃん」


周囲のざわめきの中からことり先輩の声がして、振り向いた。


「花陽ちゃんがセンターポジションで、歌い出しも花陽ちゃんだよ」

「で、でも。キュアメイド喫茶で一番人気があるのはことり先輩だし、穂乃果先輩や海未先輩だってお客さんを楽しませていたのに」

「そうやってほめられるなら、花陽ちゃんにだって同じことが当てはまるよ」


微笑むことり先輩の横で、穂乃果先輩と海未先輩も、納得しているようにうなずいて、私を見つめた。


「分かりました。やります」

私はマイクを両手で重ねるようにして持って、目を閉じる。

——今こうしていられることに、感謝している。

ふーっと、深く息をしてから、目を開けた。

そして私は大きな声で喋りはじめた。私たちを見てくれている、お客さんたちの前で。

私たちは、キュアメイド喫茶のメイドであること。

そしてミューズというグループのこと。


喋っているうちにお客さんたちの注目がますます集まってきた。


不思議な感覚に包まれる。


早く歌いたい。


私をセンターにして、先輩三人がそれぞれの位置について、歌の姿勢に入る。


——秋葉原が、私にとってどんな場所なのか。

そんな気持ちを込めて歌います。

曲は「ワンダー・ゾーン」。



(つづく)