BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ゆり二次0502UP ( No.127 )
日時: 2017/05/02 19:53
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: dfpk6DJ/)

   『ラブライブ!』花陽×? 15



「大成功だったね、さっきのライブ!」

「ええ。騒ぎにならないように一曲だけで終わりにしましたけど、物足りないぐらいです」


仕事も、ライブも終わって、今は帰り道。


解放感とともに、私は穂乃果先輩と海未先輩の後ろを黙って歩いていた。「お腹へったー」とか「どっか食べに行こうか」っていう、二人のやりとりを見て、ホッとする。


今日を通して、二人の先輩とのきずながよりいっそう深まった気がする。


もちろん、ことり先輩もだ。


ことり先輩は18時まで店に居るらしく、先に終えて着替える私に「実はね」と、なぜかこんな話しをしてくれた。

「ここ二、三ヶ月の間に、お店の中で特に人気のあった子たちが立て続けに辞めていっちゃったんだ」

「そうだったんですか」

「うん。まあ、みんなそれぞれ事情はあるし、辞めてくのは仕方ないんだけど、あることがきっかけで仲が悪くなっちゃったんだよ。わたしはそれが残念でしょうがなかった」

ことり先輩が言う「あること」の正体は、私の予想通りだった。


キュアメイド喫茶の総選挙。


にこ先輩が半年以上の前の雑誌を持ってきて、見せてくれたっけ。

ことり先輩が大差で勝って、グラビアで特集が組まれた。

その中のインタビューでは「一番になんか興味なかった」って言ってたけど。

「うちのお店も、今みたいに有名になる前はみんな仲がよかったし、私もお仕事が楽しかった。そうやって私たちが楽しんで仕事してると、お客さんにもそれが自然と伝わって、お客さんも楽しい気分になってくれる。そういう空間だったんだよ。そう、私たちのミューズみたいに」

ことり先輩は「だから今日はすごく楽しかった」と、さっきまでのことを思い出したように笑った。それからまた真面目な顔に戻って言う。

「それを壊してしまったのが、あの総選挙だった。いや、あれを企画した当時の店長だった」

ことり先輩にも嫌いな人間というものが存在するんだ、と私は初めて思った。

その店長は、ある月から転任してきたかと思うと「今のままじゃダメだ」「こういうのやりましょう!」と、それまでうちではやってなかったことを提案してきた。


「おかえりなさいませ、ご主人さま〜」と、妙なイントネーションでお客さんを出迎えること。

料理を出す時に「おいしくなーれ」と、呪文らしきものをかけること。

そのほか色々で……まあ、常連さんの反応が悪いから開始三週間で廃止になったらしいけど。


要するに、その店長のセンスと、私たちや常連さんたちのセンスが全然違ったということ。


そういう、ちっとも新しくない「改革」の中に、総選挙があった。


誰が人気あって、誰が人気ないとか。

そういう基準で優劣をはっきりつけて、みんなを競わせる。

そうすることでみんなは今よりもっと頑張る。

選挙で勝つためには、強烈なアピールポイントが必要だ。

みんな、自分の「キャラ」というものを自覚して、それをお客さんにアピールしなさい。

とかなんとか、色々なことを当時の店長は言ってたらしい。


急にそんなこと言われても、キュアメイド喫茶のみんなはとまどうばかりだった。

これからどうすればいいのか、よく分からない。

それまで自然に発揮されていたドジっぷりも、ツンデレっぷりも、お嬢さまっぷりも、その店長からすればすべて「キャラ」とかいう言葉で説明される。

あの子はドジっ子キャラ、あの子はツンデレキャラ……。

総選挙とかいって、話題性があったおかげで新しいお客さんは入ってきたけど、それも初めのうちだけで、代わりの多くの常連さんが来なくなってしまった。

以前はみんなが自然に発揮していた「その子らしさ」が失われて。

選挙の順位が気になるから、みんなの関係もピリピリしてきて——。

そういうのが、分かるお客さんには分かってしまったんだろうって、ことり先輩は言う。

キュアメイド喫茶には、キュアメイド喫茶らしい在り方があったのに……。

結局、選挙が終わった頃には、みんなの仲が悪くなったとか、やる気をなくしたとかで、人気のあった子から順に辞めてっちゃったらしい。

残ったメイドさんたちの強い要望もあって、その当時の店長は外されて、前の店長が戻ってきた。

でもいっぱい人が辞めてっちゃった後だし、どうしよう。

というところに、短期だけど私たちが入ってきたんだった。


「仕事が楽しかったのは今日が久しぶり。花陽ちゃんたちのおかげだよ」

「いえ、そんな……」

「ほんとだって。今日に比べたら、これまでの数ヶ月間はなんだったんだって思うもん。楽しむのは自分たちじゃなくてお客さんなんだって言う人も居るけど、自分たちが楽しむことでしかお客さんに伝わらないものがあるんだよ。そして、うちのお客さんたちにならそれが伝わると思う。また昔のようなキュアメイド喫茶が取り戻せるって、今なら信じられる。わたし」


ことり先輩は熱く語り、そのついでに気持ちまで熱くなったのか「今日はほんとにありがとう」と、私に抱きついてきた。


「先輩……」

「いいの。花陽ちゃん。今日という日をもっと強く焼きつけるために、今だけでいいから、こうさせて。今日だけだから……」


今日だけという言葉が残念でないこともないけど、逆にそれで安心もして、私は無抵抗になって何もない白い壁を見ながらことり先輩に抱かれていた。



キュアメイド喫茶はそのうち秋葉原で一番のメイドカフェになるだろう。

ことり先輩はおそらく高校卒業までにはここを去ってしまうと思うけど、そうしたらことり先輩はキュアメイド喫茶の「レジェンド」になるんだ。

数年後、十年後には、ことり先輩は伝説のメイドさん。


その「レジェンド」が、私を熱く抱きしめていた。



(つづく)