BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ラブライブ二次0509UP ( No.128 )
日時: 2017/05/09 18:15
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: MbxSjGAk)

   『ラブライブ!』花陽×? 16



さっきまでのことり先輩との熱い体験が頭から離れないものだから、私は穂乃果先輩と海未先輩の会話に入っていく気にもなれない。


というか、入っていける雰囲気じゃない。


私は相変わらず、前を行く二人と一定の距離を保ったまま歩いている。


その二人の表情が、とてもいい。


実際、仲のいい二人なんだけど、今日は、というか、今は特別な気がする。

確かに、今日は朝から一緒に居て、色々とみんなで大変だったり、でも最後にはライブまでやったりして、みんな一つになれたって気がする。

そういう「一つになれた」って熱さを、気持ちが、それと身体が忘れてくれないで、確かめたくなるんだ。

「どっかで食べてこうかと思ったけど、気分が変わっちゃった」

穂乃果先輩が思いついたように言う。

「うちのお菓子、最近食べてなかったんだ。久しぶりに、それがいいかも」

「穂むらのお菓子ですか。今朝も、穂乃果はよく話しに出していましたね」

「うん。そのせいもあるかも。あはは……で、よかったら海未ちゃんも来ない? ごちそうするよ」

穂乃果先輩は顔を赤くして、まるで断られるのを恐れるように、うつむきがちに聞いた。

「ぜひ、そうします。私も気になってたんです」

「ほんと? じゃあ海未ちゃんのためにわたしが作っちゃお!」

「それなら穂乃果の好きな苺のお菓子がいいです」

「じゃあ苺だけこの近くのスーパーで買っていこうか」

デートを取りつけでもしたみたいに、嬉しくて最高の笑顔になる穂乃果先輩だった。

海未先輩も本当に自然な笑顔になっていて、一瞬、二人が子供に戻ったみたいに私には見えた。

海未先輩は真姫ちゃんには「表情がとぼしい」とかってダメ出しを受けてたことがあるけど、今のこんな表情を見せれば、一発合格だよね。

でもそれは海未先輩が穂乃果先輩と居る時の笑顔なんだ。

強そうに見えて強くない海未先輩が、穂乃果先輩のやさしさに包まれて、安心しきった時に見せる笑顔。


きっと子供の頃からそうだったんだろう。

この二人にはかなわない。


穂乃果先輩は私のことも気にかけてくれたけど、私は苦笑いしつつ「おかまいなく」と遠慮をした。こんな雰囲気の二人を、邪魔なんてできっこない。

穂乃果先輩も察してくれたようで、すぐ海未先輩に向き直ると「泊まっていきなよ」とか言い始める。それを海未先輩は「一度家に帰って、きちんと支度してから行きますね」と返していた。

そうだよね。今日は汗いっぱいかいたから、一度は家に帰りたいよね。


神田川の手前まで来たところで、二人が別方向に歩いていくのを私は見送る。

一人ぼっちになった。

思わず「あーあ」と、溜息だけつく。

今日は初めてのことだらけで、ほんとーに長い一日だった。

立ちっぱなしで、足なんかすごく疲れてるんだけど、それもなんだか心地いい。

川のそばには区画された喫煙スペースがあって、サラリーマン風のおじさんたちがタバコをぷかぷかふかしている。

近くにはガラス張りのカフェがあって、そこのウエイトレスがお客さんの注文をとっているのが見えると、さっきまでの自分と重ねてみたりして。


いつもと変わらないはずの景色を、今は違った気持ちで見ていた。


みんな、毎日働いているものなんだ。


私だって、きっとやっていけるって思う。明日も、その先も。


夏の夕暮れが照りつける街を眺めながら、そう思った。


「さーてーと、おうちに帰ろう」


家に帰って何しよう。

やりかけのゲームも今夜はする気分じゃないかも。


なんて思っていたら、スマホがメロディをかなではじめた。


私はすぐにスマホを開いた。


だってそれは私のいちばんのお友だちの曲だったから。

凛ちゃんからの着信だとすぐに分かったから。


『かよちん、お仕事終わった?』

「うん。終わったよ」

『そーなんだ。今どこに居るの?』

「今は、えっと……」


私は万世橋のところに居た。


そしてすぐに「あ、居た居た!」という凛ちゃんの声が、電話と生音とで二重に聞こえてくる。

凛ちゃんが立っていたのも万世橋の上で、神田川がオレンジ色にきらめいてるのを見た時、私は思い出した。


——かよちん! 今日の終わりには、万世橋から夕暮れでも眺めながら、今日の楽しかったことを話して聞かせてね。それまで凛の勇気と元気をあずけておいてあげる!



今朝、凛ちゃんがそう言っていたことを。



(つづく)