BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ゆり二次 最終回(2017年5月9日) ( No.129 )
日時: 2017/05/09 18:26
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: MbxSjGAk)

   『ラブライブ!』花陽×凛



「で、今日はどうだったにゃ?」

凛ちゃんがスマホで話すのをやめて、私のそばまで来た。

「うぅ……色々……」

「いろいろ?」

「色々……あったよ。あり過ぎたよぉ」

さっきまでの「やりとげた感」と自信はどこへいってしまったのか。

凛ちゃんに会ったら、いつもの私にすっかり戻っていた。


「それより凛ちゃん、お腹すいてないの?」

「え? な、なーにかよちん。凛の顔を見るなりそんなこと」

うん。なんか、凛ちゃんが私の仕事から帰るのを待っていたって思うと、それが気になっちゃったんだ。

なんてことは、秘密にしておく。

「でも凛ちゃん、昼間にうちのお店へ来てから、何か食べたの?」

「た、食べてないにゃ」

「そうなの? お店でもコーヒー飲んでただけだし。めずらしく」

「えっと……まあ色々と事情があって……」

「事情?」

凛ちゃんは目をそらしてごまかそうとしていたけれど、私の表情が心配そうに見えたらしい。


少し黙ったあと、凛ちゃんがそっと私の手をとる。


その私の右手が、凛ちゃんのよく着ているカラフルなシャツの、すその中へと入れられていく。


色あざやかなシャツの下は当たり前だけど人間らしい肌色で、凛ちゃんのおへそのくぼみが見えたかと思うと、私の手がそこへ重ねられた。


子猫みたいにあったかい身体の温度と、凛ちゃんが息をする度にお腹がふくらんだりへっこんだりするのが感じられた。


でも一体、私たちなんでこんなことしてるのかが分からない。


「凛ちゃん、私が触っているのは、ここでいいんだよね?」

分からないなら聞けばいいじゃん。

そう思って、聞いてみた。

「うん……。そこで、合ってるよ」

凛ちゃんのすべすべしたお腹をなでている。それ以上の情報がない。

人通りも決して少なくない所であれこれと想像をめぐらせていたら、凛ちゃんが言った。

「かよん。凛とこうしてて、何も感じない?」

「えっ……」

感じても、いいの?

凛ちゃんはあっさり言っちゃったけど。

今って、まさにそういう状況?

どうしようと思って、私はただ黙ってしまう。ドキドキして、舌もかわいちゃって、なんて言ったらいいか分からない。

「もー。感じたままを言っちゃえばいいのに」

「えっと、それなら……」

私が正直な子になろうとしたら、凛ちゃんは答えを自分から言ってしまった。

「実はね、昼間、家でごろごろしてた時にお腹をさすってみたら、前よりちょっと出てる気がして……体重を量ってみたら、やっぱり増えてたんだにゃー」

私が「何キロ?」と聞くと、凛ちゃんは「よんじゅうXXキロ」と教えてくれた。

それでも私よりずっと軽いんだけど。

「だからね。暇そうなにこちゃんを誘ってあちこち歩いたりしてたんだにゃ」

「そっか。お店のコーヒーでお砂糖の量を気にしてたのも、そのせいなんだね」

「うん。かよちんの働いてる姿が見られて、とっても良かったにゃ」

「そんなことないよ。お客さんとうまく喋れてたか分からないし、失敗だってしちゃったし」

そう。仕事すると、失敗もしちゃうんだよね。

そういう姿は凛ちゃんに見られたくない。

仕事の話しも、あんまりしたくないよ。

「違うんだにゃ、かよちん」

「え?」

凛ちゃんは、私をなぐさめるというのではなく、本当によかったんだという表情で言ってくれた。

「そういうところも含めて、カッコよかったんだにゃ。働いてるかよちんは」


恥ずかしいって思ってた気持ちが、凛ちゃんの言葉で、表情で、すっかり洗い流されてしまった。


「……ありがとう」


本当にうれしい気持ちだったんだけど、私の受けとめ方がまじめ過ぎだったのかもしれない。

凛ちゃんは「あはっ」と笑って空気を変えてから、言う。

「凛なんてさー、毎日家でごろごろしてばかりいるうちに、曜日の感覚までなくなっちゃったよ」

「それはちょっと、どうなのかな。さすがに」

昨日の登校日も凛ちゃんは完全スルーだったところを見ると、もしかして今のは本当?

せっかくの登校日だったのに。制服着て学校で会えるはずだったのに。


来なきゃダメじゃないの。


私は凛ちゃんのシャツのすそに手をつっこんでいた。


凛ちゃんは一瞬ビクッとするが、されるままにしていた。


さっきも味わった凛ちゃんのやわらかい感触を、また味わう。


ダンスの練習でも着ているような、凛ちゃんのシャツ一枚下は、ぷにぷにだ。


そう。ぷにぷに。で、肌色。


「……やっぱり太ったかも、凛ちゃん」

「ふぇっ? やっぱり?」

私がまじめな表情を保ったまま凛ちゃんのお腹を触っていると、凛ちゃんがだんだん泣きっつらになってくる。


「かよちんばっか働かせて、凛は……凛は……うぅ……せつないにゃ」


みじめな自分が悔しいみたいに、ぽろぽろ涙がこぼれてくる。

凛ちゃんは丸めたこぶしを目元に持ってきて、それをぬぐう。

「ほんと言うと、凛もかよちんと一緒にお仕事したかったにゃ。穂乃果ちゃんたちがうらやましい……」

泣き声で「わがまま言ってごめんね」と申しわけなさそうにする凛ちゃん。

私が凛ちゃんの頬をなでてあげると、凛ちゃんは潤んだ目でこっちを見た。

そして私は言う。


「じゃあ、冬休みは一緒にやろっか。アルバイト」


「……そうだね」


凛ちゃんが泣きやんで、笑った。



冬休みっていったら、ケーキ屋とかかな。それとも、ことり先輩のお店にまた行けるだろうか。

まあ、その時になって凛ちゃんと一緒に探すのも楽しそうだ。


幼なじみの凛ちゃんとの話題が、またひとつ増えた。


時間が経つことって、なんか楽しい。




穂乃果先輩がとつぜん言い出したことから始まった、今回のアルバイト。


私はたまたまそれに巻き込まれる形だったけど、今になって先輩に感謝している。


先輩だけじゃなくて、昨日のこと、今日のことを含めて、不思議なめぐり合わせに感謝している。


そんな、高校一年生の夏休みだった。



(おわり)