BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【百合】二次創作短編集(最終更新11月8日) ( No.13 )
- 日時: 2013/11/13 23:25
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
『スイートプリキュア』響×奏
___解説___
2011年放送のプリキュア。
響(ひびき。キュアメロディ)と奏(かなで。キュアビート)の二人が初期メンバー。
後半にキュアビートとキュアミューズが加わる。
この二次創作に登場する北条サクラはアニメ第8話のみに登場する。そしてその正体は敵役のセイレーンが化けたもの。
***
バレンタインの数日前のこと——。
その朝も響と奏は二人並んで通学路を歩いていた。
ピシッ。
「わっ、水溜り凍ってる」
響の吐く息が白くなる。足下では、凍った水溜りにヒビが入っていた。
「ふふ。すべって転ばないようにね、響」
「んなことしないってば。うぅーー、寒い。寒いよぉっ」
ぶるぶる震える響を見かねて、奏が微笑みながら、
「しょーがないな」
カバンから真っ白な毛糸の帯を取り出した。
「それは?」
「私の編んだマフラーよ。編んだというか、今編んでるマフラー。バレンタイン当日に渡すつもりでまだ未完成だけど、学校に着くまで使うといいわ。寒いんでしょ」
奏が優しく、響の首すじにマフラーをかけようとするが、
「ひ、び、きーー!」
こっちが恥ずかしくなるほど遠くから大声で名を呼んだのは、北条サクラだった。
いつの間にか響と親しくなっていた、紫のセミロングに黒ブチメガネの女の子。
そのサクラが蒸気機関車のように真っ白な煙を吐きながら、響に近寄ってくる。
「わたし、マフラー作ったんです。使ってください!」
バサッと無遠慮に、響の首にマフラーがかけられた。
ところどころ糸がほつれていて、ゴワゴワしたマフラー。
突然の邪魔者に、響と奏は目を見合わすが、
「あ、ありがとう」
響は笑顔でお礼を言った。
首がチクチクするのか、むずがゆそうにしている。
「冬の間、このマフラー使ってくださいね。わたし、毎日チェックしてますから」
サクラの一言に、奏はムキになった。
「ちょっと、北条さん。響には、もう使う予定のマフラーがあるのよ。どれを使おうと、選ぶのは響なんだからね」
「奏、いいんだよ。せっかくサクラが作ってくれたんだから」
「せっかくなのはわたしも同じよ! わたしの方が上手くできてるんだから!」
「やめなよ、奏」
響が目で制止した。怒ったその目つきに、奏は引っ込む。
再び響は笑顔をサクラに向け、「ありがとう、サクラ」なんてお礼を言っている。今度は親しげにサクラっていう名前まで添えて。
奏は片手に持った自分のマフラーをカバンに押し込むと、ツカツカ独りで学校まで歩いて行った。
その夜、奏の家で——。
「ソウタ、バレンタインにチョコ作ってあげるよ」
奏は弟に言った。
「姉ちゃんのくれるチョコなんか要らないよ」
「材料、もう買っちゃったのよ。余りそうだから食べてよね」
奏はつまらなそうに溜息をつく。
弟のために作ってあげるチョコではなかった。
でも響に作る気も、今日でなくなってしまった。
サクラだってどうせ響にあげるんだろうし。
「あーあ…………」
奏は肩を落としながらも、つい編みかけのマフラーを手に取ってしまう。
編み棒を差し込んで、マフラーを紡ぎはじめる。
思い浮かぶのは、響と、その横に居るサクラのこと。
北条サクラ。
名字が響と同じかと思えば、柔道が好きなこととか、道端に落ちているゴミが嫌いなところまで、響と一緒。
自分と響は意見が合わないで、ぶつかったり喧嘩したりなんて、しょっちゅうなのに。
「こんなマフラー、完成させてどうするんだろう」
でもやらないわけにいかなかった。
こうなったら、響をおどろかすぐらい良いのを作ってやる。サクラのなんか目じゃないくらい良いのを。
だけど、連日連夜こんな調子で編んできたからか、奏はウトウトし出して、ベッドの上で座り込んだまま、意識が飛んでしまった。
ガチャ——。
部屋に誰か入ってきた。ソウタ?
目を開けると、そこに居たのは響だった。
「……響?」
「風邪ひくよ、奏」
時間的にはまだ夕飯前だった。
響は、今朝のことを奏にどうしても謝っておきたくて、家まで来てしまったらしい。
「サクラはさ、気を遣っちゃうっていうか……なんだか、誉めなきゃいけない気がしたんだよ。ごめんね。奏の場合は上手いのが当たり前みたいになってて、今さら誉めるのも照れ臭くて」
響はここまで言うと、恥ずかしそうに目をそらした。
でもそれは、奏には分かっていることだった。
自分とサクラの板挟みになっている響の気持ちも。
自分よりサクラを誉めてあげるのが、響の優しさだったってことも。
奏はそれが分かっておきながら、ついムキになって、響を困らせてしまったのだ。
「わたしだって、たまには誉めて欲しいのよ」
それでも奏はわがままな自分で居続けた。
「ごめん。バレンタイン、楽しみにしてるよ」
「もっと。それだけじゃ足りない。もっと、サクラよりわたしが特別だってところ、見せて欲しい」
響は頬をぽりぽり掻いて、困ったような顔をして周囲を見渡すが。
気づいたように奏のマフラーを手に取ると、首にかけた。
ボフッ——。
奏の座るベッドに、もう一人分の体重が乗った。
響がこちらを向く。
今、目の前に響の顔がある。ベッドがきしんだ。
響は自分にかけたマフラーを、奏の首すじにも巻きつけた。
一本のマフラーを二人で共用するには短くて、二人の距離は自然とつまってしまう。
輪をかけたようにマフラーが二人の顔の下半分を隠していて。
すっと目を閉じると、
「ん…………」
雪みたいに白い帯の向こう、二人の横顔がくっついた。
「あたたかい……」
奏が思った時には、マフラーがひらりと床に落ちていた。
とろんとした気分で、奏が目を開けると、響はドアのところに立っていた。
「じゃ、帰るね」
奏は目を潤ませ、くちびるを押さえたまま、響が帰るのを見送った。
確かめるようにくちびるを噛んだり、舐めたりしてみる。
自分はこんなに幸せなのに。
その上、大好きなひとにわがままを言って困らせてしまった。
ドキドキする胸に手を当てながら、ちょっぴり反省する奏だった。