BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 1221UP ( No.25 )
- 日時: 2013/12/21 18:29
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
『のんのんびより』蛍×小鞠 2/2
「れんちゃん、まだ寝てないです」
先輩の部屋に戻ると、わたしはナツミちゃんに言った。
れんちゃんがなかなか寝てくれない。
れんちゃんの寝る部屋をこっそり見に行って、ドアの隙間からのぞいてみたけど、れんちゃんは目をパチクリ開けていた。
「れんちゃんは大晦日の夜もずっと起きてるくらいだし、意外と夜に強いんだよなー。どうしよう」
ナツミちゃんが考える顔になって、時計をチラリと見る。
まだ夜の10時だった。
「決行は2時なんですよね。いくられんちゃんでも、その時には寝てるんじゃないですか」
「だろうけどさー。でも、サンタがもう限界なんだよ」
わたしとナツミちゃんは、ベッドの方を見る。
サンタクロースの先輩が、こくん、こくんと、さっきから頭を上げたり下げたりしている。
「おーい、姉ちゃん。まだ寝るのは早いぞー」
ナツミちゃんが肩をゆすっても、先輩は「んー」と喉から声を出すだけだ。
「子供よりサンタさんが先に寝ちゃうよ。どうしよう」
「わ、わたし、れんちゃんを寝かしつけてきます!」
「そっか。じゃあウチは姉ちゃんを起こしておく」
わたしは寒い廊下を歩いて、れんちゃんの居る部屋まで行った。
すーっと、ゆっくりふすまを開ける。
「ほたるん、眠れなくて退屈なのん」
れんちゃんが布団からガバッと身を起こした。
「ほたるんたちだけ向こうの部屋で遊んでるなんて、ずるいのん! ウチもそっち行くん!」
「もう10時だよ。子供は寝る時間でしょ」
「いくら子供でもこんなに早く眠れないのん! ウチも小鞠やナッツンと遊ぶん!」
「二人とも遊んでるわけじゃないんだよ」
わたしはふすまを閉めて、部屋の出入り口に立ちふさがる。
今、先輩の部屋に行かれたら、サンタの格好しているのを見られてしまう。
「今夜はクリスマスイブでしょ。良い子にしてれば、サンタさん来るかもしれないよ」
「いくら良い子でも10時就寝は早いのん! サンタさんもこんなに早くは来ないのん!」
そのサンタさんがもう眠気の限界だから、子供に早く寝て欲しいというのが現状である。
「分かった。じゃあ、絵本を読んであげるね。れんちゃんの布団、入っていい?」
わたしは越谷家の本棚から手頃な絵本を持ってくると、れんちゃんの布団に入る。
本をぱっと開いて、ああ、懐かしいって思った。
こういう日にふさわしい、イギリスの意地悪なお金持ちが心を入れ替えて、貧しいひとにほどこしをしていくという話。
十分もしないうちに、隣からすーすー寝息が聞こえてきた。
「子供を寝かしつけるのも大変だな」
わたしはれんちゃんの寝顔を見つめる。
こんな可愛い女の子、東京でも見たことなかった。小鞠先輩の次に可愛いかもしれない。
起こさないようにそっと布団から抜けて、部屋の外に出る。
暗い廊下を歩いて、先輩たちの居る部屋を目指した。
「ただいま戻りましたー。れんちゃん、どうにか寝てくれましたよ」
返事はなかった。
見ると、ベッドの縁に背中をあずけて先輩が寝ている。
ナツミちゃんに至っては、先輩のベッドでしっかり布団にくるまって寝息を立てていた。
「ちょ、ちょっとナツミちゃんまで。どうしたの? 先輩を起こしといてくれるんじゃなかったの?」
わたしは寝ているナツミちゃんを揺り動かす。
「んー、そうだったんだけどぉ。もう眠いってゆーかー」
ナツミちゃんは幸せそうな寝顔によだれまで垂らして、起きそうにない。
「まだ10時過ぎたばかりですよ? 修学旅行だってこんなに早く寝られないでしょ?」
「うっさいなー。田舎の夜は早いんだよ」
ナツミちゃんの腕がわたしを払いのけた。
そっか。
ナツミちゃんは都合の良い時だけここを田舎というけれど、今は田舎なんだ。
一人で起きてても仕方ないし、わたしも寝ちゃおうかな。
その前に、プレゼントだけはれんちゃんの枕元に置いて来よう。
わたしはプレゼントの包みを持って、部屋を出ようとする。
「んん……蛍……」
先輩に呼ばれて、わたしは振り返った。
先輩は変わりなく、頭を垂れて寝ている。
ただの寝言みたいだ。
「蛍……ウチ……頼りないサンタでごめんね」
「先輩……」
きっと夢でも見ているんだろうけれど、先輩が夢の中でわたしに謝ってくれている。
「蛍は……ウチのトナカイなのに」
がくん。
それを聞いた瞬間、ずっこけそうになった。
先輩がサンタなら、わたしはトナカイ。
トナカイがサンタを運んでくれるけど、最後にプレゼントを届けるのはサンタさんだ。
わたしが先輩を支えて、先輩は、最後に見せ場を持っていくんだ。
なるほどね。
やっぱり、そうでなきゃいけないと思う。
わたしはプレゼントをベッドの上に置くと、先輩の横に座る。
眠っている先輩と同じ毛布にくるまった。
小鞠先輩は小さくて可愛くて、それから、持ち運び易いから便利だ。
でもお姉さんだから、ナツミちゃんやれんちゃんの前では、お姉さんらしくあろうとして無理をする。そして失敗する。
そんな時は、わたしがよく励ましてあげた。フォローしてあげた。
小鞠先輩も妹たちの前では強がっているけれど、わたしにだけは時おり、弱いところを素直に見せてくれた。
それがわたしにとっては特別な気がして嬉しかった。
毛布は温かくて、先輩の匂いがする。
わたしは毛布を鼻までかぶって、幸せな気分だ。
約束の時間になるまで、先輩の寝顔も見放題だった。
それから、どれほどか時間が経った。
深夜になり、家の中は完全に静まり返っていた。
「……はっ。今、何時だろう?」
時計を見ると、間もなく二時になる。
「よかった。まだ夜中だ。先輩、起きれますか? れんちゃんにプレゼントを届ける時間ですよ」
「ん……」
強く肩を揺らすと、先輩が強く目をこすって、立ち上がる。
でも顔は寝たままだった。
「大丈夫ですか? はいこれ、プレゼントの包みです」
目も開かない先輩に包みを差し出すが、先輩は速足で部屋を出ると廊下を右に曲がる。
「先輩そっちじゃないです! れんちゃんの部屋は反対方向ですよ」
「トイレ」
「あ、そうですか」
わたしもこれで一安心だ。
「プレゼント、置いて来たよ」
「れんちゃん、起きませんでした?」
「大丈夫。うまくいった」
先輩はニコッと笑って親指を立てる。
それから妹の方を恨めしそうに見て、
「全くナツミは寝ちゃってさ。頼りないよね」
「そ、そうですね」
「蛍が起こしてくれなかったら、うまく行かなかったと思うよ。ありがとう」
「先輩……わたし、トナカイ合格でしょうか」
「えっ? トナカイ? な、なんのことかなー」
さっき、先輩が寝言で言っていた。
でもわたしをトナカイだと思っていることは、先輩にとって内緒であったらしい。
ぎょっとした顔をして、都合が悪そうに目をそらす。
「トナカイでいいんです」
「え?」
「わたし、トナカイでいいんです。サンタを補佐する役目で。だから」
「だから?」
「よくできたなって、頭を撫でてくれませんか」
「頭を……撫でればいいの?」
先輩の問いに、わたしは黙ってこくりと頷く。
「こんな感じかな?」
先輩の手は小さいけれど、お姉さんの手って感じがした。
ナツミちゃんやれんちゃんに向けられる優しさも、頼りないけど、きっとお姉さんのものだったんだ。
「……蛍、顔が赤いけど、大丈夫?」
先輩がわたしの顔を心配そうにのぞき込んでくる。
「……大丈夫です。平気です」
「そっか」
先輩はわたしの気持ちに気づいてはくれないだろう。
わたしはずっと先輩の補佐役であり続けるだろう。
でも東京から来たわたしがここの生活を好きになれたのは先輩のおかげでもあるのだ。
良い気分で今年が終えられそうだった。
(おわり)