BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

二次創作短編集(0117UP) ( No.31 )
日時: 2014/01/18 00:27
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   『恋愛ラボ』夏緒×莉子


___解説___
2013年アニメ化。宮原るりの漫画が原作。
藤崎女子中学校(通称、藤女)の生徒会室では、日々「恋愛研究」というものが行われていて、男の子にモテない女の子たちが、恋愛についてあーだこーだ話し合う……という話。
今回の登場人物は初期メンバーである真木夏緒(まきなつお)、倉橋莉子(りこ)、棚橋鈴音(たなはしすずね)。それと「ダッキー」は夏緒が妄想上の恋人にしている抱き枕の名前。



   ***



藤崎女子中学校の生徒会室にて——。

その日、真木夏緒ことマキ先輩は、抱き枕のダッキーを相手に、キスを繰り返していた。


そこへガチャリ——。
生徒会室のドアが開いて、「ワイルドの君」こと倉橋莉子こと、リコ先輩が入ってきた。


一瞬、二人の目が点になる。


マキ先輩は悲鳴を上げつつダッキーから離れると、恥ずかしさのあまりに小さくなってしまった。


微妙に気まずい沈黙が流れて、それから、リコ先輩が声をかけた。



「いや……ノックもしないで入ってきたあたしも悪いけどさ」

「ごめんなさい……。キスってどうすればいいのかなって思って、ダッチー相手に練習してたんです」

「ダッチーじゃなくてダッキーな。そういうことは、人に見られないようにしようぜ」

「リコの言う通りです。あの……こういうイメージトレーニングみたいなことって、けっこうみんなやってるんでしょうか?」

「さあな。ま……まあ、あたしはしないけど」

「どうしてそこで目をそらすの? それにしても、イメトレにもリアリティが足りません。せめてダッチーに手足でもついていればいいんですけど……」

「ダッキーな。手足までついてたら、もう抱き枕じゃなくて別の物になりそうだぞ」

「わたし、したいんです! 想像なんかじゃなくて、本物がしたいんです!」

「はいはい。主語を抜かさないで喋ろうぜ」

「ダッチー相手じゃなくて、人間としたいです!」

「お前、わざとだろ? ダッチーって言うのも、主語を抜かすのも」

「キス、人間としたいです! リコ、教えてください!」

「うっ……それはだな」

困ったようにリコ先輩は、顔を赤くして頬をぽりぽりかいている。

「リコは恋愛経験が豊富なんでしょう? キスぐらい、したことあるでしょう?」

「あ、あああ……あるさ」

「だからどうしてそこで目をそらすの? 経験あるのなら、キスの先輩であるのなら、わたしに教えてください!」

「お、女どうしてそんなこと……できるかよ。子供のおふざけじゃないんだし」

「こ、子供? 女どうしてそんなこと?」

マキ先輩がショックを受けたように、身体を硬直させた。

「うぅー、バカにして! リコにわたしの気持ちなんか分からないわよー!」

マキ先輩は叫びながら、ドアを勢いよく開けて、閉めて、どっかへ行ってしまった。


「マキ……」

残されたリコ先輩は悲しそうな声でつぶやく。

一人になったリコ先輩は、とりあえずソファに座って、雑誌なんかをめくっている。

落ち着きのない仕草だった。
まるで、マキ先輩が戻ってくるのを待っているみたいだ。

そこへ——。

「やー、さっきは失礼な態度でごめんね、倉橋さん!」

マキ先輩が戻ってきた。

でもそのかっこうは、ちょっと昔の男子生徒みたいな、黒い学ラン姿で。

長い髪も小さくまとめて帽子の中に収めている。

「げっ。ま、真木マキオ!」

リコ先輩がソファから軽く飛び上がった。

真木マキオっていうのは、マキ先輩が男装した時の名前だ。

男役の再現力が「ハンパない」ため、リコ先輩はこのマキオが苦手だった。

「さて、倉橋さん。シャルウィーキス?」

「やだよ」

「だって倉橋さん、女どうしでキスするのは幼稚だからダメなんだろう。男が相手ならいいってことじゃないか。さあリコ、キスしようか?」

「気やすく名前を呼ぶな! わわわ……来るな! 来るな来るなぁ!」

リコ先輩は飛び上がってソファの隅っこに逃げる。

とっさに胸を手で隠して、怖さに震えながら、シャレにならないって目でマキオを睨みつけた。

「フフ。怖くない、怖くないよ!」

マキオがリコ先輩に飛びかかった。

「嫌だー! せめて男装やめろー!」

リコ先輩がかわした直後、マキオがソファに着地する。

「アハハハ。ダッチーと違って、生きてる女の子は僕を手こずらせるね」

「ダッキーだっつの! お前が言うダッチーっていやらしい人形とかだろ!」

リコ先輩はドアまで走っていき、ノブに手をかけた。

「逃がすものか」

ソファの上に居たマキオの身体が、宙に浮かんだ。

まるでトランポリンの演技者みたいに、マキオの身体は信じられないくらい高く跳ねて、なぜか空中でぐるぐる回転しながら、数メートル先の——。

リコ先輩の隣に、奇麗に着地した。

「お前……どれだけ超人的な身体能力してるんだ」

「イメトレしてましたから」

そこだけマキオは、いつものマキ先輩の声で言った。

ガシッと腕がつかまれて、リコ先輩が押し倒される。

「やめ……ろ。放せ」

抵抗するリコ先輩の力は意外と弱く、マキオに簡単に押さえつけられてしまった。

マキオが上で、リコ先輩が下で。

「つかまえたよリコ! さあ、キスのレッスン始めようか!」

マキオがリコ先輩の顔をのぞき込む。


瞬間、事の重大さに気づいたように、その表情が変わった。


「うぅ……やめて……ほんとやめて」

リコ先輩が、泣いていた。

「リコ……」

上に乗っかったマキオの力が急に抜けて、声と表情に優しさと心配が浮かび上がる。

涙声ながらに、リコ先輩が喋り出した。

「実はあたし、男の子が怖いんだよ。少女マンガにありそうなシチュとか、想像してる時は楽しかったんだけど。いざこうやってリアルに体験するってなると、怖くって……」

リコ先輩は顔を隠したまま、ぐずっと鼻をすすった。

「リコ……ごめん。ごめんね」

「うぅ……とにかく男装やめてくれ」

マキオは帽子を脱いで、きつく結んだ髪を豪快にほどく。

キリッとした男の子の表情から、いつものおっとりしたマキ先輩の表情に戻った。

いつもの、マキ先輩だ。

「リコ……わたしだよ。真木夏緒だよ」

「分かってるけどさ……ぐすっ」

リコ先輩はそれでも泣きやまず、目元を手で拭う。

「もう。しょうがないな」

「っ?」

マキ先輩が、リコ先輩の鼻のあたりにチュッとキスをした。

「……な、何するんだよ?」

リコ先輩は顔中を真っ赤にして、マキ先輩と目を合わせる。

「女の子が相手なら、いえ、わたしが相手ならキスとか平気なんでしょ、リコ」

「う、うん……」

「くちびるにもしちゃっていい? そしたらわたし、欲求不満、なくなりそう」

「……いいよ」

リコ先輩は視線をちょっと下に向けると、小さな声で答えた。

「うふふ。さっきは『女どうしでそんなこと』って言ってたのに」

「あれ取り消す。あたしだって欲求不満ぐらいある。お前と……同じだよ」


昼間だっていうのに、学校内はずいぶんと静かに感じられた。

二人のくちびるとくちびるが触れ合う湿った音が、しばらく止まなかったから。



ちょっと時間が経って——。

二人はソファに並んで座っていた。


「あのねリコ。実はわたし、ある噂を耳にしたの」

「は? 噂?」

「そう。なんか、藤姫様とワイルドの君ができてる関係だって」

藤姫様はマキ先輩のあだ名で、ワイルドの君はリコ先輩のあだ名だ。

「できてるって、あたしたちが?」

「うん。わたし、リコに悪くてさ……。わたしがリコと仲良くし過ぎてるからそんな噂が出ちゃうんだもの。だからわたし、早く彼氏つくろうって焦っちゃって」

申し訳ない、といった顔でうつむくマキ先輩の肩を、リコ先輩がポンと叩く。

「バーカ。そんなの、言いたいやつには言わしておけばいいんだよ」

「リコ……」

「お前な、焦って変な男と付き合うようなドジだけは、絶対やめろよ。笑えねえから」

そこまで聞いて、マキ先輩は不安がすべて吹き飛んだかのように微笑んだ。

「はい。大丈夫です。わたし、優秀ですから。心配ないです」

「そう言ってるうちは、あたしはずっと心配だ」

リコ先輩がニッコリ笑って言った。

マキ先輩が、すっと目を閉じて、リコ先輩の肩に頭を乗せる。


あたたかい沈黙に包まれて、このままでいたいと思う二人だった。



おわり——。






「うぅーーーーーー! 良い話ですー! 感動しましたーーーーーー!」

と、ここでわたし——棚橋鈴音が、机の陰から姿を現す。

「きゃっ! スズ? いつからそこに居たのっ!」

「こっえーんだよ! お前もマキオも、こえーんだよ!」


残念。お二人の良い雰囲気も、わたしが壊しちゃいました。



   (おわり)