BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 【GL・百合】二次創作短編集(最終更新2月23日) ( No.38 )
日時: 2014/02/23 19:25
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   『ヤマノススメ』あおい×ひなた 2/2



「ここなも待ってるし、そろそろ下におりようか」

ひなたが声をかけると、二人は展望台を下り始めた。

あおいも階段を下りようと、手すりに手をかける。

上る時は何ともなかったのに、今になってこの階段の急なこと、展望台の高いことに気が付いて視界が一瞬ぼやけた。

「あおい!」

階段を踏み外して、あおいはバランスを崩した。

二段ほど下でひなたが受け止めてくれていなかったら、どこまで転げ落ちていただろう。

「……痛っ」

「あー、膝から血が出てるね」

ひなたの手をにぎったまま、あおいは座り込んだ。その膝から、わずかだが血が出ている。

「痛い……痛い……」

「だいじょーぶだってそれくらい。あそこに水道があるから、洗ってあげるよ。さあ立って」


水飲み場まで来ると、あおいは靴と靴下を脱ぐ。

怪我した方の足を軽く浮かせて、ひなたの肩に手をかけた。

黙って自分の足を洗ってくれているひなたの、頭のてっぺんをじっと見つめていた。

「うん、きれいになったよ。怪我もぜんぜん大したことないよ」

立ち上がってひなたは、濡れた両手の水滴をぱっぱと払う。

「しまったー。洗う前にタオル出しておくんだった。あおい、タオル貸して?」

濡れた両手を胸の前で垂れ下げながら、ひなたがあおいを見る。

タオルが渡されるのを待っていたひなたの両腕にはぜんぜん力がなくて。

あおいはひょいとその手首をつかんで開くと、ひなたに顔を近づけた。

そして何が起こっているのか分からないまま、ひなたにキスをしていた。


耳鳴りがするほど静かだったと思うと、「ん……」というひなたの息をつく音。

「ひなたは、わたしが男の子にモテた方が嬉しいの?」

顔を離して、あおいは呟いた。

「わたしにはひなたが居るもの。『モテない』でいいんだよ」

言い終えると同時に、再びキスをする。

ひなたが欲しくて、重ねたくちびるにきつく吸い付いてしまう。

ちゅるちゅる、という音の後で、「ぷあっ」と顔を離す。

少しやり過ぎただろうか。

あおいが見つめると、ひなたも顔を赤くしてこっちを見ていた。
が、口元に手を当てたまま、一言も喋ろうとはしない。

「……ごめん。いきなりこんなことして」

キスをされている間、ひなたは無抵抗だった。

しかし、ただ黙って居られると、不安になってしまう。

自分のしたことに、今さら後悔を感じるあおいだったが。

「くひびるが……」

ひなたが不自由そうな発音で、

「くちびるが……痺れてるんですけど。あおいに吸われ過ぎて」

言うと、ジーっと、非難めいた目であおいを見つめた。

「うぅ……ごめん」



ちょっとだけ気まずさを残したまま、三人は山をおりた。

釣りに興じていたひなた父とも合流して、帰る準備をする。

疲れたここなを先に車に乗せて、あおいとひなたはトランクに荷物を積めた。

「よし、準備完了!」

ひなたがバタンとトランクを閉めたのを合図に、運転席の父がエンジンをかける。

「あおい」

ひなたがあおいを見て、微笑む。

「わたしがしてきたことは、もちろん『ただのお節介』なだけじゃないよ」

ひなたの言葉はエンジン音に邪魔されながら、あおいに届いた。

「あおいが寂しいのは嫌だし、あおいが笑ってるのは、好き」


ひなたのくちびるが、あおいのに重なる。

ちょうどうまい具合に車の陰に隠れて。

ひなたと、今日三度目のキス。

見られたらどうしようっていうドキドキと合わさって、一瞬のキスなのに、なんだか凄く気持ちいい。


「今度はどう? うまくいった?」

ひなたの口調は、遊んでいる時と同じで、特別な感じではなかった。

そうするとあおいの緊張もなくなって、ただ素直に「うんうん」とうなずけた。

「やっぱりあおいは、リードが下手なのよ」

ひなたが得意そうに、歯を見せて笑う。

「なんですってー!」

あおいはそうやって怒って見せるけど。

ひなたに身をゆだねていると、とっても安心できる。


「じゃ、車に戻ろうか」

「あ、あのね、ひなた」

「今度はなーに?」

エンジン音に負けてしまいそうなくらい小さい声で、あおいは言う。

「あの……わたし、山は好きになれたし、ここなちゃんみたいに友達もできたけど、男の子だけはまだ苦手だからね」

あおいとしては勇気を出して言った方なのに。

ひなたは気にすることもなく、車のドアに手をかけながら、こう返した。

「分かってる。ぜんぜん分かってるよ、そんなの」

ひなたの、いつも通りな笑顔を見て。

帰りの車内でこっそり手をにぎってやろうと思う、あおいだった。



   (おわり)