BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【GL・百合】二次創作短編集(最終更新3月18日) ( No.42 )
- 日時: 2014/03/18 19:15
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
『中二病でも恋がしたい!』丹生谷×凸守 2/2
「あるわ。教えてあげる」
森夏は深呼吸すると、凸守の肩をぐっとつかんで、腰をかがめて目の高さを合わせる。
「ニ……ニセサマー。近い。近いデス」
目の前には凸守の奇麗な顔。
いつだったか、偽モリサマーが言ったように、ほんとに、顔だけは天使みたいに可愛い。
「はぅッ」
凸守がぎゅっと目を閉じた。
森夏は心を落ち着けて、くちびるを重ねる。
「な、何するデスか。ニセサマーのツバが凸守の口に入ってきたですぅ……」
凸守は顔を赤くしながら、ああばっちぃ、というように手で口をぬぐった。
「でも牛乳よりはマシだったでしょ」
「ぎ、牛乳は苦手です……ねっとりと生臭くて、生温かくて、いがらっぽいもろもろしたのが舌にずっと残ってて……あんなもの、一生受け入れられないデス」
「じゃあわたしならどうなの」
森夏は凸守の手を取ると、ゆっくりと自分の胸に当てさせた。
女性的なぬくもりを前にして、凸守は抵抗も何もできなくなってしまう。
「キス、本当に嫌だった? 嫌ならやめるけど」
「うぅ……そんなこと言わないで……デス」
凸守はもじもじしながら、チラ、チラとこっちに目を向けてくる。
森夏は凸守の背を壁にあずけさせた。
「こ、怖いよ……デス」
肩をすくめる凸守が、胸の前で両手をかまえている。
森夏は凸守のその両手に、優しく自分の手を重ねて。
「大丈夫。すぐ終わるから」
再び、キスをする。
ちゅるちゅると、吸い付くようなキス。
「ん……んん」
舌を差し込んで歯をこじ開け、凸守の舌先に自分のをこすり合わせる。
凸守とのキスは、今日が初めてではなかった。
去年のクリスマス。
あの時は凸守も酔っていたのだけれど、転んだ拍子に二人でくちびるを重ねてしまったのだった。
あれは事故。そう、事故なのよ!
そうは思っていたけれど、偽モリサマー……十九川菜摘(とくがわなつみ)っていったっけ。あの女との一件があって以来、あらためてクリスマスでの「事故」を思い出してしまうのだ。
今日の森夏はちょっと夢中になっていた。
「あぅ……ちょっ……こ……濃い……ニセサマ……のうこ……濃厚デス…………デス」
ふるえて涙ぐむ凸守の頭を、ぎゅっと抱きしめて。
ちゃぽん——。
水面に一滴の雫がこぼれ落ちたような音が、森夏の脳裏に響いた。気がした。
——————
数分後——。
西日が差してきて、さっきまで薄暗かった教室は、オレンジ色の夕暮れに染まっていた。
凸守は自分の顔を隠すように、体育座りになって身体をちぢめている。
丹生谷に背を向けたまま、苛立ちまぎれに喋った。
「お前はなんなのデス。お前のせいで、最近はマスターのことも、本物のモリサマーのことも忘れそうな自分が居るデス。お前はこの凸守の精神レベルを堕落させる腐れ一般人。モリサマーの名を語るお前は、凸守の中では永遠にニセサマーデス」
丹生谷はすっきりした顔で、机によりかかって窓の方を見ていた。
「堕落したんじゃなくて、あんたもみんなと一緒で、初めからそこに居たのよ。小鳥遊さんだって、モリサマー……いえ、中二病だった頃の私もそう。ねえ、他人に対して、人間に対して妥協してみなさい」
「妥協……デスか」
凸守が顔を上げて、こっちを振り向いた。
手は床につけたまま、片方の足だけ立てて、丹生谷を見つめる。
私の話、聞いてくれているな。
丹生谷はなおもすっきりした顔のまま、なんとなく黒板の上あたりに目をやって。
「ええ。それはひとと仲良くする努力をするということ。あんたには難しいでしょうけど、まあまずは私が相手ってところね。そうすればあんたも小鳥遊さんの気持ちが分か」
「そこまで、デス!」
ズザザザッ——空気を読まないスライディング。
足への衝撃とともに、視界がひっくり返った。
床に背中をつけて、天井を見つめている自分が居た。
「な、ななな……なんでなの〜!」
森夏は倒れたまま、足だけパタパタさせて。
「なんで私が何か良いこと言おうとすると、いつも誰か邪魔するのよ。最後まで言わせてよ〜!」
「うるさいデース! 凸守がお前と仲良くしてる絵なんて、なんか気持ち悪いのデース!」
勝ち誇ったように凸守が、ツインテールのお下げ——ニョルニルハンマーをくるくる振り回している。
そのとんでもなく可愛い笑顔を見ていると、なんとも安心できる“ムカつき”が自分の中に湧き起こってくる。
この子は絶対に私の思い通りになってくれない。
私は中二病をやめて、他人とうまくやっていくことを覚えたつもりだけれど。
凸守早苗——。この子はたった一人の、私が妥協できない相手なのだ。
(おわり)