BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

【GL・百合】二次創作短編集(4月29日更新) ( No.49 )
日時: 2014/04/29 18:06
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   『ご注文はうさぎですか?』チノ×ココア 1/2


___解説___
Koiの漫画が原作で、14年4月からアニメ化された。
舞台はどうやら日本とは違う、木組みの家と石畳の街。
ココアは高校生で、チノの家に下宿させてもらっている。
「ラビットハウス」は、チノの家が経営する喫茶店。
チノはしっかりした子だが母親をなくしていて、少し寂しそうだった。
そこへココアが一緒に住むようになって……というストーリー。



   ***



ここは喫茶店ラビットハウス——。

カウンターテーブルの上には、チノが淹れた三つのコーヒーが香りを立てていた。


「チノちゃん、これあそこのテーブルのお客さんのだよね」

ココアが「わたし持ってくね」と言いながらコーヒーをトレーに乗せる。

ココアはこの春からチノの家に下宿させてもらっていて、その代わりに普段は店を手伝っていた。

「今はお客さんも少ないですし、私がやるからいいです」

チノがココアへ視線も向けずに言う。

「いいから。リゼちゃんの代わりにわたしが持ってくよ」

ニコニコしながらトレーを運んでいくココアの背中を、チノは不安そうに見送った。

直後——くるっと振り返ったココアの顔は、苦笑いになっていた。

「チノちゃん。その……どのカップがなんのコーヒーか、分からなくなっちゃった」

戻ってきたココアが手に持つトレーには、白い無地のカップが三つ。

「同じように見えるコーヒーでも、香りはぜんぜん違うんですよ」

「そ、そうだよね……えっと、これがブルーマウンテンで」

「コロンビアです。今のはただ何となく知ってる名前を言ってみただけですよね?」

「ごめん。えっと、こっちがキリマンジャロで」

「それがブルーマウンテンです。」

「うぅ……あ、でもこっちのはわたしでも慣れてる香りだよ。ネスカフェのゴールド……」

「ウチのオリジナルブレンドです。……そもそもインスタントなんてお客さんに出すわけないじゃないですか。時間の無駄ですから、早くそれを運んでいってください」

ココアはすっかり自信をなくして、しょんぼりしたままカウンターを離れていった。


と、今度はツインテールで長身の少女が姿を現す。

「チノ、表の電球の差し替え、やっといたぞ」

「ありがとうございます、リゼさん。さっき急に切れた時は焦りました。やっぱりリゼさんは頼りになります」

珍しく他人を誉めたチノが、上目遣いでリゼを見る。

「うっ……ま、まあな」

顔を赤くしてリゼは目をそらす。

「で、でも、今はココアも居るんだから、頼りにしてやれよ」

「ココアさんをですか……」

低いトーンのまま、チノはジトーっとココアの方を見た。

「な、なんでそんな目でわたしを見るの?」

三人の中で、自分だけが不利な立場にある気がして、ココアはたじろぐ。

「わたしたちは姉妹じゃないの。そんな冷たい目で見ないでよ」

ココアは訴えかけるように言いつつ、チノにゆっくり近づいて。

両手を広げて抱きつこうとした。

が——。

「やめてください」

チノは真っ直ぐ伸ばした手の平でぐーっとココアの顔を押しのける。

「いたたたた」

顔をおさえてひるむココアと、チノは距離を置いて体勢を直す。

“もふもふ未遂”だった。

「今は真面目な話をしているんですよ。それに私とココアさんは姉妹ではありません」

「それじゃわたしのことシスター・コンプレックスって言ってくれたひとに訂正して回らなきゃいけないじゃないの」

「回ってください。お店の仕事だってもともとアルバイトのリゼさんが居て間に合ってたんです。ココアさんは窓際で日光浴でもしていてください」

チノが突きつけた“いらない子宣言”に、ココアは凍りついた。

リゼはフォローを入れてやることもできず、さっきのお客さんが帰ってから、店はますます暇になって、気まずい空気の中、時計の針とにらめっこをして仕事が終わるのを待つしかなかった。


長い沈黙の後、仕事の終わり時間が来て——。


「お疲れー」

私服に着替えたリゼが店を出ていこうとする。

「お疲れさまでした、リゼさん」

チノは浮かない顔をしたまま、カウンターテーブルの上に両肘を乗せてうつむいている。

「どうした。ほんとに疲れてないか? チノ」

「大丈夫です。ただココアさんのことで少し気が疲れただけです」

チノは元気のない声で言うと、溜息をつく。

すると、心配そうに見ていたリゼがゆっくり話しはじめた。

「あのさ、私が見た限りでは、お前は前より幸せになれてると思うぞ」

「どこがですか。ココアさんが来る前の私は、こんな風に怒ったり落ち込んだりしてませんでしたよ。ただ毎日が平和でした」

「そこなんだよ」

リゼは肩をすくめて、軽く笑みを浮かべる。

「そこって、何がですか。分かったような顔しないでください」

「私はさ、チノにも信頼されてて仕事は充実してるけど、たまにココアが羨ましいって思うこともあるよ」

「……分からないです。リゼさんの言ってること」

「ウフフ、そっかそっか。じゃあ今日はこれで帰るな。お疲れ!」

さっぱりした笑顔でリゼは帰っていった。



   (つづく)