BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【GL・百合】二次創作短編集(最終更新5月27日) ( No.53 )
- 日時: 2014/05/28 00:26
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
『咲-Saki-』咲×衣 A1/2
___【解説】___
小林立(りつ)の漫画が原作。
2009年にアニメ化され、現在も再放送中。
「阿知賀編」「全国編」などあるが、今回題材としたのは最初のシリーズ。
時期は主人公の咲たちが高校二年生で、全国大会へと続く県予選を終えた直後、という設定。
ちなみに宮永咲と天江衣は、県予選の決勝戦で対決した関係である。
***
その年の夏、あるホテルの通路で——。
ブロンドヘアーに大きなリボンカチューシャをした女の子が一人。
龍門淵(りゅうもんぶち)高校の天江衣だった。
衣は清澄(きよすみ)高校の「あのひと」を待っていた。
この日は県内の麻雀の強豪校を集めた合同合宿の日。
当然、清澄も来ているはずだ。
「まだかなぁ……」
四角い無機質な通路をさっきから眺めているが、いつまで経っても静寂なだけだった。
「こ〜ろ〜も、何してるんだ」
「ひぅっ」
ふいに、背後から声がしたと同時に、頭を撫でられる。
「や、やめろ〜。セクハラじゃんしぃ」
衣に抱きついてきたのは、プロの雀士である藤田だった。
「いやいや。お前の背中が、なんとも寂しそうだったんでな」
「う、うるさいっ。寂しくなんかないぞ! あ、あたま撫でるな〜」
口では抵抗してみせるものの、撫でられることで衣の表情から締まりがなくなっていく。
藤田プロはそのまま衣の首筋に鼻先を持っていき大きく息を吸いこもうとするが。
「ちょっと藤田さん。うちの衣にいたずらするの、やめてくださいませんこと?」
保護者然とした態度できっぱり注意してきたのは——。
衣のイトコである、龍門淵透華(とうか)だった。
「あらあら、母親の登場か。じゃー仕方ないな」
藤田雀士が衣から手を放した。
ぱっと離れて衣は、藤田に敵意の視線を向ける。
「衣はトウカと同い年だ! 誕生日だって衣の方が早いんだから、衣はこどもじゃないぞ!」
「そうですわよ。もう頭を撫でられて喜ぶような子供じゃございませんわ」
「うっ。そ、それは……」
透華の後押しに、なぜか衣は困った顔を浮かべる。
「ごめんなー。でも衣だって、まんざらじゃないだろ?」
「そ、そんなこと……」
否定し切れない衣に、藤田は目線の高さを合わせて、
「お前の頭の位置って、ちょうど撫でたくなる高さなんだよ」
そう言うと、衣はまた不機嫌を取り戻した。
「のけ! この『まくりの腐女王』めが!」
大声を出されて藤田もたまらず「はいはい。のけますよ」とその場から去っていく。
「おのれ〜フジタめが。そのうち衣がまた麻雀で負かしてやるからな」
「ほんと、『まくりの女王』も困ったものですわね。ところで衣、一人で部屋を抜け出して、何をしてましたの」
「えっと……べつに何も」
「そう。じゃあ部屋に戻っていらっしゃい。明日は清澄との交流試合がありますのよ。絶対に勝つため、今から私たちでやっておくことがありますわ」
「苛酷な練習は不要だ。あくまで交流試合なのだぞ。明日は楽しく麻雀をやるのが大切なのだ」
「そうは言ってもねぇ……。明日こそは、原村和(のどか)をぎゃふんと言わせたいのよ」
透華が呟くと同時に、
「ハラムラノノカ!」
衣が前の方を向いて叫んだ。
「え?」
見ると、廊下の奥からセーラー服の女子生徒が二人、こっちに歩いてくる。
清澄高校の原村和と宮永咲だった。
「な……原村和!」
透華はセーラー服の、ピンク色の髪を二つに結んだ方の少女——原村和と視線を合わせた。
「あら、龍門淵高校の…………?」
和は語尾を延ばしたまま首をかしげる。自分の名が覚えられていても、相手の名前が出てこなかった。
「龍門淵透華ですわ! 龍門淵高校の理事長は、私の祖父ですのよ!」
「はぁ……そうでしたね」
「反応が薄いですわよ! 全くあなたったら、おっとりしているくせに私より目立って、気に入りませんわ!」
ライバルに向けて指をさしたまま、透華は続ける。
「覚えておきなさい。明日の交流試合はけちょんけちょんにして……」
と、言いながら前に向けた指がつーっと下にさがっていき。
和の胸に焦点を当てたところで止まった。
透華の視点もそこへと合わさった。
制服のネクタイさえ挟んで埋もれてしまっている、和の立派過ぎる胸。
透華はさらにまた悔しそうな顔をする。
「あー、もう。ネット麻雀界のアイドルが、胸にそんな『余計な脂肪』まで付けているなんて、神というものは不平等ですわ!」
「あ、あまりじろじろ見ないでください……」
和は顔を赤くして、さっきからお腹に抱いていたペンギンのぬいぐるみで胸のあたりを隠した。
そこへ今度は衣が声をかけた。
「ノドカ〜!」
「あ、あなたは確か……」
「天江衣だ!」
(つづく)