BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 【GL・百合】二次創作短編集(最終更新5月27日) ( No.54 )
日時: 2014/05/28 00:37
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   『咲-Saki-』咲×衣 A2/2



「あ、あなたは確か……」
「天江衣だ!」


衣は腰に両手を当ててニッコリ笑ってから、和の持っているペンギンに目を向ける。

「今日も一緒なのだな! えっと……」

「エトペンですよ」

エトペンというのは和が持っているぬいぐるみの名前である。

和は衣と目線を合わせるために少しかがんで、微笑みかけた。

「そうだ! エトペンだ!」

衣は嬉々としてエトペンを抱きしめると、片足を軸にしてくるりと一回転する。

そして今度は、さっきから和の後ろで黙って立っていたもう一人の女生徒に目を向ける。

「清澄の大将! 嶺上(りんしゃん)使い!」

衣に呼ばれて、咲は少し驚いたような、困ったような顔をして、

「こ、こんにちは〜」

控えめな声で笑い返した。

咲は県予選では大将を務めて衣を負かした。
その必殺技が「嶺上開花(りんしゃんかいほー)」であることから、衣にもこう呼ばれたわけである。


「清澄!」

と、今度は咲のことを「清澄」と呼んで、

「県予選では、衣は麻雀で勝ち続けることに駆られてきた。衣の凡人を超越した天才性が、負けることを許さなかったのだ。でもこれからは、衣が麻雀に『打たされる』のではなく、衣自身が麻雀を楽しんで『打って』やるのだ。だから、明日は楽しみにしているぞ!」

表情こそ穏やかではあるが、言っているひとはあの龍門淵の天江衣である。

県予選決勝までの日を考えれば、衣にここまで言わせる相手は、藤田プロを含めても居なかっただろう。

だが言われた本人は、いつものぼんやりした顔を少しだけほころばせて、

「うん。わたしも楽しみにしてるよ」

と微笑みかけるだけだった。


原村和と二人で歩いていても、ちっとも目立たない、ショートカットにセーラー服の女子生徒。ごく普通の女の子。

これが本当に、県予選で衣を負かした、あの清澄の大将なのだろうか。

しかし——。

「さて、もういいでしょう。部屋に戻りますわよ、衣」

「う、うむ。じゃあまたな、清澄!」

「うん。またね〜」

別れ際に咲が手を振った時、衣は確かに感じた。

咲の手には、炎さえもメラメラ浮かぶほどのパワーがあることを。


雀卓を囲んで対峙した時の咲には、今こうしている時からは考えようもないほどの威圧感があった。

(カン!)

県予選決勝の最後の局で、そう宣言する咲の目には炎が浮かんで見えた。

(もういっこカン!)

稲妻のような衝撃とともに、牌をつまむ咲の手から炎が煌くのを、確かにこの目で見た。

強豪校の四人、麻雀に情熱をささげる乙女四人が集まった、あの雀卓。

その張り詰めた空気に、咲が弾く麻雀牌の音が響くのを思い出す度に衣は——。

「はぅっ……」

お腹の下あたりに、なんとも言葉にできないピリピリした刺激を感じるのだった。

——なんなのだろう、この気持ちは。


「良かったですわね、衣」

「え?」

見ると、そこには優しく見守る母親のような微笑をたたえた透華が居た。

「いっぺんに、二人もお友達ができてしまいましたわね」

「おとも……だち」


——そうか。この気持ちの正体を「お友達」というのだな。

いつも一緒に居る、透華、一、純、智紀は、いわば家族か姉妹のようなもので——。

その者たちに対して感じる気持ちと、今、清澄の二人に対して感じる気持ちが違うとなれば。

それを「お友達」というのだろう。



「さてさて、衣、ホテル一階にエビフライを置いてあるレストランを見つけましたのよ。もちろんタルタルソースですわ。夕飯はそこへ行きましょう」

自分の気持ちに答えが見つかった衣は、透華のこの誘いに、

「うむ!」

飛びっきりの笑顔で応えるのだった。



(つづく)