BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【GL・百合】二次創作短編集(最終更新6月3日) ( No.56 )
- 日時: 2014/06/06 19:04
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
『咲-Saki-』咲×衣 B2/2
と、ふいに浴場の明かりがすべて落ちて、視界が暗転する。
「なんだ?」
衣の声に、
「停電……ですかね」
咲が続いた。
「み、宮永さん……どこですか。どこに居ますか」
和の声がする。少しふるえて、早口になっていた。
「原村さん、私はここだよ〜」
「どこなんですかぁ〜」
「ここだよ〜」
咲が居場所を知らせるため、ざぶざぶと音を立てる。
停電になった瞬間、咲は腰のあたりまで浴槽につかっていて、和はシャワーの出る場所でかけ湯をしていた。
近い距離だったとは言え、慣れない場所で段差もあるし、和はすぐには咲のもとへ行けそうにはなかった。
「うーん、どうしたものか」
衣は暗い中で考えた。
「ん? 今夜は、月が出ているではないか」
大浴場にはめ込まれた大きな窓からは、遠くに点々とした明かりが見える以外に、空には月が出ていた。
「よし!」
突如、水面に胸から上だけ出ている少女の身体から、青白い光が炎のように舞い上がる。
衣が発光していた。
あれは県予選の決勝でのこと。
咲が衣に夢を語った。
それは全国大会で姉と対決することで仲直りし、また家族で一緒に暮らすというものだった。
それを聞いて、家族のない衣は、親の死を思い出した。
その瞬間に起こった停電——。
咲に打ち負かされて、孤独を再意識した衣の力が引き起こした停電だった。
そして周囲がざわめく中、とつぜん身体から光を放った衣——。
あの時も今と同じ、月の出ている夜だった。
友達の……ノドカの困っている状況に、改めて力を発揮した衣だった。
「衣ちゃん!」
とうとう咲のもとへ行けず、衣に抱きつく和。
「怖いのか?」
衣の問いに、和は目を強く閉じたまま無言で頭をふるふるさせる。
「ふふ。ノドカも子供なのだな」
得意になる衣だが、それを否定するかのように和の手が衣の頭に乗せられて——。
なで、なで。
「ぬわわ〜……ちょっ……あ、頭なでたら〜」
急に顔がとろんとなり、気持ち良くなってしまう衣である。
藤田にされた時は“セクハラ”であったのに。
同じ「される行為」でも、和が相手だとこれほど違うとは。
お風呂の湯は、衣の左足と、右足とを温め、左右のその熱は上へとのぼってちょうど真中でぴたりとハマったように合流する。
肩のあたりに後ろから、濡れた和のぼよんとした胸が押し付けられる。
カチューシャもしていない衣の頭を、和がダイレクトになでなですると——。
「ふにゅ〜……な、なんかゾクゾクするぞ〜」
チカッ。チカッ。衣の放つ光が明滅した。
衣は和の手をにぎり返し、正面から胸へと抱きつくと、
「き、清澄……ではなくて、サキ」
咲の方を見た。
「え?」
「お前も、撫でてくれないか?」
うっとり目を細める衣が、またチカチカッと発光する。
咲は浴槽の中を歩いて衣に近づくと、ゆっくり頭に手を乗せた。
「うぅっ……!」
衣が背筋をしならせて、ピカッとフラッシュする。
「だ、大丈夫? 天江さん」
何かを我慢するように身体をちぢこまらせて、目をギュッと閉じる衣に、咲が心配そうに声をかける。
「サキ……サキよ」
「ん?」
「やっぱりお前は、違うのだ」
「え? 違うって……」
「透華もノドカも、衣は好きだ。でもサキ、お前のは違う」
衣はゆっくりと語りながら、咲の肌色の身体に、ぴったり背中を合わせる。
「言葉では説明し難いが、お前だけから感じるものがある。おそらく、衣を麻雀で負かすことのできた、お前だからだろう」
衣は咲に出会う前の自分を思い出していた。
衣は孤独だった。
衣にとって、麻雀の対戦相手だけが自分と関係のある人間だった。
だから麻雀で負けるわけにはいかなかった。
麻雀で勝ち続けることだけが、孤独である自分の、唯一の存在意義だった。
そうして自分が守り続けてきたものが、咲に負けそうになると、初めて失う恐さに襲われた。
麻雀で勝てない自分に、いったい何が残るというのだろう。
それは直視したくなかった事実であり、また、いずれはこうなるんじゃないかと恐れてきた瞬間でもあった。
しかしそれは違った。
咲に負けたことで、衣は麻雀が「楽しい」ということを知ったのだ。
それだけでなく——。
「衣には、麻雀しかなかったんだ。でも今は違う。サキ、お前に負けた瞬間、衣は今まで感じたことのない何かが身体の中から湧き起こってきた気がするのだ。あの時と同じ気分が、今また感じられるぞ」
衣は咲の腕を引いて、思い切り真上を向く。
すると、自分の顔をのぞき込む咲の笑みが目の前にあった。
「この気持ちを……友達というのだろう?」
「……うん。そうだよ」
「頭、撫でてくれるか?」
「うん」
(つづく)