BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【GL・百合】二次創作短編集(最終更新6月3日) ( No.57 )
- 日時: 2014/06/06 19:13
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
『咲-Saki-』咲×衣 C1/1
「頭、撫でてくれるか?」
「うん」
咲の手が衣の頭に乗せられると、衣はまた「きゃうんっ」とそり返る。
ここぞという勝負時で、底知れない威圧感とともに雀卓に牌を叩きつける、あの咲の手——。
間近で見ているだけでもゾクゾクっとしたのに、その手が今は頭へダイレクトに乗せられている。
「天江さん、こんな感じでいいの?」
咲が頭をなでなでする度に、快感の電流が全身を駆け巡る。
「いッ、いいのだッ! あっ……へ……へ……ほ、ほれから、天江れなくって……衣って呼ぶのらぁ……」
「うん、分かったよ。衣ちゃん」
囁いて、咲は衣の頭のてっぺん、つむじのあたりにチュッと口づけする。
濡れた衣の頭にくちびるをひっつけて、頭皮のあぶらまで味わう勢いで吸いつく。
「はにゃにゃ……なんだか気持ち良くて、ボーっとするのだ……熱い……身体が熱い……」
右手で頭を撫でながら、空いた左手で衣の耳をにぎにぎしてやる。
「ら……らめろ……耳まで弄られたら……あ……さ、さきぃッ!」
気がつくと衣の視界はコーヒーカップで夢中になり過ぎた後のようにグルグル回っていて——。
膝がガクガクしてきたかと思うと立つ力を失い、顔の半分までお湯に沈んでいく。
「み、宮永さん! 衣ちゃんが変ですよ!」
「え? わー、ちょっと、衣ちゃん!」
咲と和は、衣の身体を抱きかかえる。
ちょうど見計らったように、チカチカッと天井が光り、浴場の照明も元通りになった。
「あ、停電、直ったみたいですね」
和が衣の身体を支えながら言う。
「と、とにかく衣ちゃんを外に出さないと。溺れちゃう〜」
二人は衣を浴槽の外へ運ぼうとするが、ぐったりした人間の身体は思った以上に重いものだ。
「うぅ、手がすべっちゃって……どうしよう」
楽しい時間が一転し、嫌な予感がしてきた。その時——。
「清澄の二人とも、ありがとうございます」
誰かの手が、差し伸べられる。
「衣を迎えに来ました」
パジャマ姿の少女が、そこに居た。
助けに入ってくれたのは、龍門淵の国広一(くにひろはじめ)だった。
寝間着姿なので髪は下ろしているし、リボンも付けていないし、おまけに顔のタトゥーもシールをはがしているから、一見すると誰なのか分からなかった。
一は衣を脱衣所まで運んでその場に寝かせると、自分のパジャマがずぶ濡れなのもかまわらずに、衣をウチワでパタパタする。
「全く。ただジュースを買いに行っただけにしては帰りが遅いから、心配になって探してみればこんなことに……」
こっそり部屋を抜け出したはずの衣だが、一には気づかれていたらしい。
そもそも一には、透華や衣が夜中に目覚めてしまうようなことがあれば、どんな小さな物音であれ自分も起きるという自信があった。
「ごめんなさい国広さん。衣ちゃんは自分もお風呂に行くところだって言ってたんですけど、ひとりで出歩いてる時点でわたしたちも変だと思うべきでした」
和が申し訳ない顔をして言う。
「いえいえ、そちらに責任はないんです。それより、のぼせるくらい楽しんじゃう衣が見られて、ボクもちょっぴり嬉しいです」
本当に嬉しそうな一を見て、咲と和が安心すると、
「んん…………ハジメ。どうしたのだ」
衣が気づいた。
「迎えに来たんだよ。ダメじゃないか、衣。お風呂に行くなら、ボクにも声をかけてくれよ」
「なんでいちいち声をかけなくちゃいけないんだ。衣はひとりで行けるぞ! 子供じゃないんだ!」
衣が怒って立ち上がると、たった一枚だけかけてあったタオルもひらりと落ちた。
「うん、分かったよ。でも水分も取らないでお風呂へ行くのは良くなかったね」
一はニコッと笑うと、二本のジュースを衣の前に差し出した。
「ここへ来る途中で買ってきたよ。ストレートティーと、イチゴオレ。衣はどっちにする?」
もう答えが分かっていて、和と咲はくすくす笑ってしまう。
「決まっているではないか!」
笑顔になって衣は、片方のジュースを指さすと言った。
「イチゴがいい!」
(おわり)