BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 【GL・百合】二次創作短編集(最終更新6月6日) ( No.60 )
日時: 2014/07/02 19:26
名前: あるゴマ(あるま&ゴマ猫) (ID: Ba9T.ag9)

   『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』あやせ×桐乃 A1/3


___【解説】___
伏見つかさのライトノベルが原作。
2010年秋と、2013年春にアニメ化している。
原作は13年6月に完結したが、今回はそれより少し前の話と思って書いている。
そして何より今回はゴマ猫さんとの共作である。
普段はコメディ・ライトの方で書かれている方なのだが、いやほんと、ゲストに来てくれて感謝感激アメなんとやらです。



   ***



   1

俺の名前は高坂京介。

テストも終わり、夏休みに入ろうとしていたある日、事件は起きた。

これは俺の周りで起きた、妹とその友達の小さな物語だ。
聞いても楽しいかどうかはわからないが、付き合ってくれたら幸いだ。

話しは数週間前にさかのぼる。



 ————



その日の朝、俺は妹に起こされた。


俺の妹、高坂桐乃——。

今さら説明不要かもしれないが、ティーン誌などでモデル活動をやっていたり、陸上部のエースだったり、学力テストで県五位だったりする。

俺は、そんなすごいやつの「お兄ちゃん」に当たるのだ。


「京介、起きなさ〜い」

妹が、俺を優しく起こしてくれている。

「ほら、起きなさいよ〜」

俺は「んん……」と返事にならない返事をし、寝返りをうって抵抗してみせる。

すると妹は、

「起きろ……」

少しかがんで“テーブルクロス引き”でもするかのように、ベッドのシーツを両手でガシッとつかみ、

「つっってんだろうがぁぁァァァァア!」

大声で叫びながら、俺をベッドから引きずりおろした。

ドスン! と、それなりに痛そうな音を立てて背中から床に落ちる俺。


「いつつつつ……何しやがんだよ」

「ふん。優しく言葉で起こしてあげようと思ったけど、暴力に訴えた方が早く済むってことに途中で気づいたわ」

見上げれば——っていうか、寝転がったままの俺の目線は床すれすれの位置にあるんだが。

160センチくらい先に、不機嫌な表情で俺を真っ直ぐ見下ろす妹の顔があった。


「あのさ……」

「なによ?」

「今日って、海の日だよな。つまり学校は休みのはずなんだが……どう
してこんなに朝早くに起こされなきゃいけないんだ?」

理由が分かるまで俺は起きる気力もなく、身体をダラけさせて横になっていた。

桐乃だって普段着も普段着——いつものように薄手のTシャツにショートパンツというかっこうで、モデルらしい美脚は惜しげもなく露出されている。

「もう! 忘れてたの? お父さんとお母さんは今日から長期の旅行へ出発するのよ? 支度もできて、今は玄関に居るわ。見送りだけでもしてあげなさいよ」

「……ああ、そっか。そうだったな。分かったよ、起きるから。それにしてもお前、今日が休日でよかったな」

俺は目をこすってから、もう一度正面を見る。

仰向けに寝転がっているため、さっきから桐乃の足先が、俺の髪の毛に触れそうなほどの距離にあるのだった。

「どういう意味よ?」

「いや、まあな……これが平日だったら、制服のスカートの中が丸見えになっちゃうだろ」


グシャッ!


次の瞬間には、桐乃の足が俺の眉間を踏みつけていた。






「それじゃ二週間、うちのことを頼んだぞ」

玄関にはトランクを脇に置く親父と母親。

そして寝起きで髪ボサボサな俺と、きっちりした妹。

親父たちの旅行先はヨーロッパらしい。
お袋にとっては子供が手間のかからない年齢になったら親父と二人で行きたいっていう夢があったんだとか。

「洗濯とか、ご飯の支度とか……ちょっと心配だけど、桐乃ならもう大丈夫よね」

お袋が桐乃へ目を向けると、妹は笑顔になって、

「うん。兄貴も居るし、大丈夫よ。だから思い切り楽しんできて!」

と、お袋を安心させてやった。

「うむ。まあ、俺達が居ないからといって、羽目を外し過ぎないようにな」

親父はいつものように口を真一文字にしめたまま、俺を見た。

相変わらずガンコ親父を演じているが、お袋と二人で本当は嬉しいはずだ。

「羽目を外すな」っていうのも俺じゃなくて桐乃の方に言いたいんだろう。
年頃の娘を近くで見ておけないっていうのは親として不安だろうからな。

分かるぜ、その気持ち。

「心配ないよ、お父さん。あたし、いい子にしてるから」

だが、桐乃の笑顔に親父の不安も解消されていくようだった。

だから俺も、

「うちのことは心配しないでさ、楽しんできてくれよ」

と言ってやった。


「「行ってらっしゃ〜い!」」

玄関先で親を見送る、俺たち二人の声がそろった。

迎えに来たタクシーの走る音が遠くに消え、高坂家には俺と桐乃の二人だけになる。

親父よ。桐乃が心配だって気持ち、ほんとに分かるぜ。

だってこいつ、両親の前ではずっと笑顔を崩さないのに、半笑いになった顔を時々俺に見せていたんだぜ。さっきから。

そしてよく見ると、桐乃の手にはUSBのワイヤレスマウスがにぎられていた。



(つづく)